溺愛王子様の3つの恋物語~第1王子編~

結衣可

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第8話 眠りの底で

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暗殺未遂の余波が収まらぬまま、夜の城は騒然としていた。
レオナード・フォン・グランツを筆頭に、報告や処理に追われていた。
その間、セオドア・ラインハルトは休息を勧められ、執務室で用意された茶を口にした。 
だが――。 

「っ……!」 
 
差し出された茶を何の疑念もなく口にした直後、舌に広がった異様な苦味。
次の瞬間には、喉の奥を焼き付くような熱が走り、足元が崩れていた。

「……まさか……毒……」 

膝が崩れ、床に倒れ込む。
呟く声は途切れ、視界は闇に飲まれていった。



「セオドア!」

報告を受けたレオナードは、凄まじい勢いで執務室へ駆け込んだ。
その金の瞳が、ベッドに横たわる青年の姿をとらえた瞬間、鋭さを失い震えた。

セオドアの顔は赤く火照り、額には汗が滲み、荒い呼吸が続いている。
侍医が診察を終え、重々しく言葉を落とした。

「幸い、すぐに吐き出したことで致死量には至っておりません。
 ただし……体内に残った毒が熱と意識障害を引き起こしています。
 当分の間は昏睡状態が続くでしょう」

「……」

レオナードは言葉を失い、固く拳を握りしめた。
歯を食いしばる音が響くほどの怒りを飲み込み、ただ震える手でセオドアの指先を握りしめた。

「……くそっ……」

低く漏れた声は、王子としてのものではなく、一人の男の切実な嘆きだった。

「なぜ……お前が狙われる……!」

怒りと悔しさが胸を灼く。
すぐにその感情を押し込み、彼はセオドアの手を強く包み込んだ。

「……頼む。目を開けてくれ」

夜が更けても、レオナードはベッドの傍を離れなかった。
額に布を当て、汗を拭い、荒い呼吸を少しでも楽にしようと必死だった。

何度も、何度も。

やがて夜明けが訪れる頃、彼の瞳の下には深い影が落ちていた。
それでもレオナードは、セオドアの手を決して放そうとしなかった。

揺れるランプの下。
レオナードは眠るセオドアに低く囁いた。

「……セオドア。俺はお前をそばに置くと決めた。
 だから、生きて、ここにいろ。お前を失ったら、俺は……」

声は震え、涙を堪えるように掠れていた。
威厳も誇りもすべて捨て、ただ必死に縋る男の声。

その切実さに呼応するかのように――

セオドアのまぶたが、わずかに震えた。

薄闇の中。
重い瞼をゆっくりと開けたセオドアの視界に、疲れ果てた男の顔が映る。
頬はやつれ、金の瞳には眠らぬままの赤みが差していた。

「……殿下……?」

掠れた声に、レオナードがはっと顔を上げた。
次の瞬間、その金の瞳が潤み、力強く輝きを取り戻す。

「……セオドア!」

声が震えた。
その響きに胸が熱くなり、セオドアは息を乱しながら呟いた。

「……俺……どうして……」

「毒だ。幸い気づくのが早かった。
 ……だが、お前は3日も眠り続けていたんだ」

「3日……」

セオドアの手を握っている手がわずかに震えていた。

「セオドア、すまない。俺が王子であるがゆえに、お前を巻き込んでしまった」

その声は弱く、疲れが見える。

「それでも……もうお前を離すことはできない。
 セオドア、二度と危険な思いはさせない、俺がお前を守ると誓う。だから、このままそばにいてくれ」

力強い誓い。
それは王子の言葉ではなく、一人の男の決意だった。

セオドアは胸の奥で心臓が跳ねるのを感じた。
普段の尊大な彼はどこに行ってしまったのか――自分がそうさせたと思うと愛しさが募る。

「……殿下、ふふ、必死ですね……」

小さく目を伏せ、吐息のように言葉を落とす。

「……俺、貴方から離れる気なんてないですよ」

レオナードの瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、セオドアは強く抱き寄せられた。

「セオドア……」

熱に浮かされる体を包むその腕は、痛いほどに切実な愛で満ちていた。
セオドアは小さく苦笑し、瞳を閉じる。

「……殿下、……ずっとそばにいて下さったんですね。ありがとうございます」

胸の奥ではしっかりと甘い熱が芽吹き始めていた。
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