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第1話 同居、はじめます?
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《登場人物》
篠原 聡(しのはら さとし)
年齢:25歳
職業:建築設計事務所勤務(2年目)
性格:穏やかで責任感が強く、他人を気遣うタイプ。
感情を表に出すのが苦手で、恋愛では“与える側”に回りがち。
外見:黒髪短め、メガネをかけると知的で真面目な印象。
スーツ姿がよく似合うが、休日はゆるめのシャツスタイル。
趣味:料理・観葉植物の世話。
三浦 蒼(みうら あお)
年齢:19歳(大学1年)
性格:素直でまっすぐ、少し天然。
周囲には人懐っこいが、本当の気持ちはなかなか見せない。
外見:淡い栗色の髪、明るい瞳。中性的で柔らかな印象。
趣味:音楽・動画編集・自炊(たまに料理失敗)。
三浦 美織(みうら みおり):蒼の姉。聡の元カノ。
年齢:28歳
職業:広告代理店勤務(アカウントプランナー)
性格:明るく、物事をすぐ切り替えるタイプ。
外見:ショートボブのキャリアウーマン風。蒼とは似ていないが、兄妹仲は良い。
別れ話って、もっと揉めるもんだと思ってた。
でも俺たちの場合は、拍子抜けするほど穏やかだった。
「聡くんって、優しすぎるのよね」
昼下がりのカフェで、美織はそう言ってストローをくるくる回していた。
涼しい顔で、まるで仕事の話でもしているみたいに。
「……それ、悪いことか?」
「ううん。悪くない。むしろ感謝してる。
でもね、優しすぎる人って、恋人ってより“安心できる人”になっちゃうの。
家族みたいな感じ。そうなると、私みたいな人間にはちょっと退屈なのよ」
俺は苦笑いした。
何となく、そんな気はしていた。
互いに不満はなかったけど、熱もなかった。
まるでゆっくり冷めていくスープみたいに、自然と距離ができていった。
「それで……お願いがあるの」
「ん?」
「弟の蒼、覚えてるでしょ? 春から大学通うのに、家が遠いの。
でもいい引っ越し先が見つからないし、一人暮らしさせるのは心配なの。
……ねえ、聡くん、私と一緒に住む予定だった部屋に蒼と住んでくれない?」
「……は?」
飲みかけのコーヒーを危うく吹き出しそうになった。
「お前、それ、どういう理屈だよ」
「だって貴方なら安心して預けられるわ。あの子、危なっかしいところがあって心配なのよ。
聡くんならきちんとした生活をあの子と一緒にしてくれると思ったの」
「……はぁ?」
「私達が一緒に暮らしても、きっとお互いに疲れてしまうと思うわ。考え方が全然違うもの。
……でも、蒼なら、いい関係を築けるはずよ。
あの子のこと、よろしくね」
それだけ言って、美織はいつものように笑った。
その笑顔に、少しだけ寂しさが混じっていたのを、俺は見逃さなかった。
***
――そして一週間後。
玄関の前でスーツケースを握りしめた少年が、所在なげに立っていた。
栗色の髪が春の風に揺れて、少し目を細める。
「えっと……お邪魔します。
本当に、いいんですか……?」
「もう決まっちまったからな。1年限定で。困ったら言えよ」
「はい。……篠原さん、よろしくお願いします。」
名前を呼ぶ声が、どこかぎこちない。
俺は靴を揃えながら、ため息をひとつ。
まさか、元カノの弟と同居する日が来るなんて。
人生ってのは、予想外の連続だ。
段ボールを運び、最低限の家具を整えて、ようやく落ち着いたのは夕方だった。
蒼は大学からもらった資料の束を抱えて、床にぺたりと座り込んでいる。
「ふぅ……この部屋、静かですね」
「設計事務所の先輩が“防音は命”って言ってたからな」
「へぇ……でも、この部屋、篠原さんっぽいです」
「どんな意味だ、それ」
「落ち着いてるってことです」
そう言って笑う蒼の顔は、どこかあどけない。
姉の美織とは正反対のタイプだった。
柔らかくて、感情が表に出る。あの姉弟、似ていないようで妙にバランスが取れている。
キッチンで湯を沸かす。ケトルの「コトコト」という音が、部屋の静けさを埋める。
蒼はその音を聞きながら、ほっと息を吐いた。
「……こういう音があると、安心しますね」
「静かすぎるの、苦手か?」
「はい。姉ちゃん、いつもうるさかったんで。
でも……いないと、ちょっと変な感じです」
その言葉に、少し胸が詰まる。
美織のことを思い出しているんだろう。
俺だって同じだ。
完全に忘れたわけじゃない。けれど、不思議と痛くもない。
「とりあえず今日は、コンビニで夕飯を買ってきたから、それで済ませよう。
明日からはちゃんとした飯作る」
「はい、ありがとうございます。篠原さん、料理、できるんですか?」
「一人暮らし、長いからな。手際は悪くないと思うぞ」
「……かっこいいですね」
不意打ちの言葉に、湯気の向こうで少し目を逸らす。
何を返せばいいのかわからないまま、夕飯を並べた。
それからは、淡々とした時間が過ぎた。
電子レンジの音、シャワーの水音、ドライヤーの風。
どれも俺一人の生活にはなかった音だ。
“生活音”ってやつは、人が隣にいる証なんだと、改めて思う。
***
夜、シャワーの順番を譲り合って、蒼が先に浴室へ向かった。
扉の向こうで、水音。壁越しに聞こえる、髪を洗う指のリズム。ドライヤーの音が続いて、止む。
その音の間合いが、思っている以上に生々しく感じられた。
俺は無理やり専門誌を開いて、図面の線に意識を逃がした。
しばらくして出てきた蒼は、Tシャツとハーフパンツという無防備な格好で、廊下に顔を出した。
髪がまだ濡れていて、Tシャツが少し肌に張り付いている。
「ドライヤー、借りました。戻しておきますね」
「ああ。って……ちゃんと乾かしたのか?」
「えっと……8割ぐらい?」
「残り2割で風邪ひくぞ」
「大丈夫です、すぐ乾きますよ」
「こっち来い」
「え?」
「ほら乾かしてやるから、ここに座れ」
俺は苦笑しながらドライヤーを取る。
「じっとしてろ。耳、熱いから気をつけろよ」
「はい……」
ドライヤーの風が部屋に流れる。
蒼の髪は思ったより柔らかくて、指先に少し絡む。
距離が近い。
息を飲む音さえ聞こえそうで、俺は無駄に真剣な顔になっていたと思う。
「……ありがとうございます。すいません。やってもらっちゃって。上手……ですね」
「毎朝、自分のをやってるからな」
「……姉ちゃんにも、してあげてたんですか?」
「うーん?やったかもしれないな」
「そうですか……」
その一言に、ほんの小さな間が落ちた。
蒼はタオルをたたんで、微笑んだ。
「姉ちゃん、ちゃんとお礼言ってました?」
「……どうだろうな」
「ふふ、言ってなさそう。
でも、姉ちゃん、篠原さんのこと好きでしたよ。
恋人としてっていうより、人として」
その言葉には、妙な重さがあった。
俺は少し黙ってから、「そうか」とだけ答えた。
その夜、リビングのソファで丸まって寝息を立てる蒼を見る。
自分の暮らすスペースにたった一人増えただけなのに、この部屋の空気が柔らかくなっている気がした。
――元カノの弟と暮らすなんて、普通じゃない。
だけど、この奇妙な生活は案外悪くないかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は照明を落とした。
遠くで雨が降りはじめていた。
その音が、やけに心地よく聞こえた。
篠原 聡(しのはら さとし)
年齢:25歳
職業:建築設計事務所勤務(2年目)
性格:穏やかで責任感が強く、他人を気遣うタイプ。
感情を表に出すのが苦手で、恋愛では“与える側”に回りがち。
外見:黒髪短め、メガネをかけると知的で真面目な印象。
スーツ姿がよく似合うが、休日はゆるめのシャツスタイル。
趣味:料理・観葉植物の世話。
三浦 蒼(みうら あお)
年齢:19歳(大学1年)
性格:素直でまっすぐ、少し天然。
周囲には人懐っこいが、本当の気持ちはなかなか見せない。
外見:淡い栗色の髪、明るい瞳。中性的で柔らかな印象。
趣味:音楽・動画編集・自炊(たまに料理失敗)。
三浦 美織(みうら みおり):蒼の姉。聡の元カノ。
年齢:28歳
職業:広告代理店勤務(アカウントプランナー)
性格:明るく、物事をすぐ切り替えるタイプ。
外見:ショートボブのキャリアウーマン風。蒼とは似ていないが、兄妹仲は良い。
別れ話って、もっと揉めるもんだと思ってた。
でも俺たちの場合は、拍子抜けするほど穏やかだった。
「聡くんって、優しすぎるのよね」
昼下がりのカフェで、美織はそう言ってストローをくるくる回していた。
涼しい顔で、まるで仕事の話でもしているみたいに。
「……それ、悪いことか?」
「ううん。悪くない。むしろ感謝してる。
でもね、優しすぎる人って、恋人ってより“安心できる人”になっちゃうの。
家族みたいな感じ。そうなると、私みたいな人間にはちょっと退屈なのよ」
俺は苦笑いした。
何となく、そんな気はしていた。
互いに不満はなかったけど、熱もなかった。
まるでゆっくり冷めていくスープみたいに、自然と距離ができていった。
「それで……お願いがあるの」
「ん?」
「弟の蒼、覚えてるでしょ? 春から大学通うのに、家が遠いの。
でもいい引っ越し先が見つからないし、一人暮らしさせるのは心配なの。
……ねえ、聡くん、私と一緒に住む予定だった部屋に蒼と住んでくれない?」
「……は?」
飲みかけのコーヒーを危うく吹き出しそうになった。
「お前、それ、どういう理屈だよ」
「だって貴方なら安心して預けられるわ。あの子、危なっかしいところがあって心配なのよ。
聡くんならきちんとした生活をあの子と一緒にしてくれると思ったの」
「……はぁ?」
「私達が一緒に暮らしても、きっとお互いに疲れてしまうと思うわ。考え方が全然違うもの。
……でも、蒼なら、いい関係を築けるはずよ。
あの子のこと、よろしくね」
それだけ言って、美織はいつものように笑った。
その笑顔に、少しだけ寂しさが混じっていたのを、俺は見逃さなかった。
***
――そして一週間後。
玄関の前でスーツケースを握りしめた少年が、所在なげに立っていた。
栗色の髪が春の風に揺れて、少し目を細める。
「えっと……お邪魔します。
本当に、いいんですか……?」
「もう決まっちまったからな。1年限定で。困ったら言えよ」
「はい。……篠原さん、よろしくお願いします。」
名前を呼ぶ声が、どこかぎこちない。
俺は靴を揃えながら、ため息をひとつ。
まさか、元カノの弟と同居する日が来るなんて。
人生ってのは、予想外の連続だ。
段ボールを運び、最低限の家具を整えて、ようやく落ち着いたのは夕方だった。
蒼は大学からもらった資料の束を抱えて、床にぺたりと座り込んでいる。
「ふぅ……この部屋、静かですね」
「設計事務所の先輩が“防音は命”って言ってたからな」
「へぇ……でも、この部屋、篠原さんっぽいです」
「どんな意味だ、それ」
「落ち着いてるってことです」
そう言って笑う蒼の顔は、どこかあどけない。
姉の美織とは正反対のタイプだった。
柔らかくて、感情が表に出る。あの姉弟、似ていないようで妙にバランスが取れている。
キッチンで湯を沸かす。ケトルの「コトコト」という音が、部屋の静けさを埋める。
蒼はその音を聞きながら、ほっと息を吐いた。
「……こういう音があると、安心しますね」
「静かすぎるの、苦手か?」
「はい。姉ちゃん、いつもうるさかったんで。
でも……いないと、ちょっと変な感じです」
その言葉に、少し胸が詰まる。
美織のことを思い出しているんだろう。
俺だって同じだ。
完全に忘れたわけじゃない。けれど、不思議と痛くもない。
「とりあえず今日は、コンビニで夕飯を買ってきたから、それで済ませよう。
明日からはちゃんとした飯作る」
「はい、ありがとうございます。篠原さん、料理、できるんですか?」
「一人暮らし、長いからな。手際は悪くないと思うぞ」
「……かっこいいですね」
不意打ちの言葉に、湯気の向こうで少し目を逸らす。
何を返せばいいのかわからないまま、夕飯を並べた。
それからは、淡々とした時間が過ぎた。
電子レンジの音、シャワーの水音、ドライヤーの風。
どれも俺一人の生活にはなかった音だ。
“生活音”ってやつは、人が隣にいる証なんだと、改めて思う。
***
夜、シャワーの順番を譲り合って、蒼が先に浴室へ向かった。
扉の向こうで、水音。壁越しに聞こえる、髪を洗う指のリズム。ドライヤーの音が続いて、止む。
その音の間合いが、思っている以上に生々しく感じられた。
俺は無理やり専門誌を開いて、図面の線に意識を逃がした。
しばらくして出てきた蒼は、Tシャツとハーフパンツという無防備な格好で、廊下に顔を出した。
髪がまだ濡れていて、Tシャツが少し肌に張り付いている。
「ドライヤー、借りました。戻しておきますね」
「ああ。って……ちゃんと乾かしたのか?」
「えっと……8割ぐらい?」
「残り2割で風邪ひくぞ」
「大丈夫です、すぐ乾きますよ」
「こっち来い」
「え?」
「ほら乾かしてやるから、ここに座れ」
俺は苦笑しながらドライヤーを取る。
「じっとしてろ。耳、熱いから気をつけろよ」
「はい……」
ドライヤーの風が部屋に流れる。
蒼の髪は思ったより柔らかくて、指先に少し絡む。
距離が近い。
息を飲む音さえ聞こえそうで、俺は無駄に真剣な顔になっていたと思う。
「……ありがとうございます。すいません。やってもらっちゃって。上手……ですね」
「毎朝、自分のをやってるからな」
「……姉ちゃんにも、してあげてたんですか?」
「うーん?やったかもしれないな」
「そうですか……」
その一言に、ほんの小さな間が落ちた。
蒼はタオルをたたんで、微笑んだ。
「姉ちゃん、ちゃんとお礼言ってました?」
「……どうだろうな」
「ふふ、言ってなさそう。
でも、姉ちゃん、篠原さんのこと好きでしたよ。
恋人としてっていうより、人として」
その言葉には、妙な重さがあった。
俺は少し黙ってから、「そうか」とだけ答えた。
その夜、リビングのソファで丸まって寝息を立てる蒼を見る。
自分の暮らすスペースにたった一人増えただけなのに、この部屋の空気が柔らかくなっている気がした。
――元カノの弟と暮らすなんて、普通じゃない。
だけど、この奇妙な生活は案外悪くないかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は照明を落とした。
遠くで雨が降りはじめていた。
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