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第3話 寝起きの君
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目覚ましが鳴っても、もう一つの部屋から音がしない。
時計を見ると七時二十分。
昨日、あれだけ「頑張って起きます!」って宣言してたのにな。
「……三浦、起きろよ」
ドアをノックしても返事はない。
仕方なく、少しだけ扉を開ける。
薄いカーテンの隙間から朝日が差し込んで、蒼の髪が少し光っていた。
毛布を半分蹴っ飛ばして、枕を抱えたまま眠っている。
寝息は穏やかで、時々口元が緩む。
……やばいくらい、無防備だ。
こんな顔、姉の前でも見せてたのか?
そんなことを考えた瞬間、自分の思考に焦る。
何考えてんだ俺。
「おい、大学遅刻するぞ」
声をかけても、ピクリとも動かない。
毛布を軽くつまんで引くと、「うーん……」と小さく唸った。
寝ぼけた声って、なんでこんなに柔らかいんだろう。
もう一度名前を呼ぶ。
「三浦、起きろ」
「……ん……篠原さん……?」
ゆっくりと目を開けて、ぼんやりと俺を見上げる。
寝起き特有の“焦点の合ってない瞳”。
まぶたが重そうに動くたびに、何かを掴まれるような気がする。
「おはよう。起きろ、朝だぞ」
「……おはようございます。今、何時ですか?」
「7時半。集合何時だ?」
「……8時半……やばっ」
一瞬で目が覚めたらしく、慌てて毛布を蹴飛ばして立ち上がる。
パジャマの裾が少し乱れていて、肩のラインがちらっと見える。
俺は無意識に視線を逸らした。
「落ち着け。朝飯はもうできてる」
「うそ、もう作ってくれたんですか!? ありがとうございます!」
「昨日の味噌汁の残りな。温め直しただけだ」
「でも嬉しいです。……ほんと、篠原さんって生活力の塊ですよね」
「褒められてるのか、年寄り扱いされてるのか、微妙だな」
「褒めてますよ! 俺、こんなちゃんとした朝ごはん久しぶりですもん」
言いながら、まだ半分寝ぼけたままテーブルに座る。
髪はあっちこっちに跳ねていて、顔の右側にシーツの跡。
どうしてこう、油断した姿がいちいち可愛いんだろう。
「寝癖、ひどいぞ」
「え、どこですか?」
「前髪、ここ」
俺は指で示すつもりだった。
けど、無意識に手が伸びて、軽くその髪を整えてしまった。
触れた瞬間、蒼が一瞬固まる。
指先に残る体温。
あ、やばい、と頭のどこかが警鐘を鳴らす。
「……すまん、つい」
「い、いえ……ありがとうございます」
顔を赤くして、手で前髪を触る蒼。
その仕草がまた、反則だった。
俺は咳払いして、味噌汁を器によそう。
沈黙を埋めるように、湯気がふわりと立ち上がる。
「昨日のよりちょっと薄めだ。寝起きにちょうどいいだろ」
「はい……優しい味ですね」
小さく微笑む横顔を見て、思わず視線をそらした。
――“弟”って言い聞かせろ。
何度もそう自分に言い聞かせるのに、心がついてこない。
食後、蒼はドタバタと着替えて、バッグを抱えたまま玄関に走る。
その途中で振り返った。
「篠原さん!」
「ん?」
「今日、帰り遅いですか?」
「多分な。現場回りだから」
「じゃあ俺、晩ごはん作って待ってます」
「……え?」
「昨日教えてもらった味噌汁、再現できるか試してみたいんです」
「焦がすなよ」
「頑張ります!」
笑って出ていく背中が、やけに軽やかだった。
ドアが閉まる音のあと、ふっと静寂が戻る。
俺はテーブルに残った箸を見つめた。
さっきまで、そこにいた気配が残っている。
湯気、笑い声、寝癖。全部がまだ消えない。
「……可愛いとか思うなよ、俺」
小さくつぶやいて、自分に呆れる。
でも、どうしようもなく口元が緩む。
窓の外では、春の風がカーテンを揺らしていた。
同居三日目。
この静けさの中に、もう一人分の“生活”が染みつき始めている。
時計を見ると七時二十分。
昨日、あれだけ「頑張って起きます!」って宣言してたのにな。
「……三浦、起きろよ」
ドアをノックしても返事はない。
仕方なく、少しだけ扉を開ける。
薄いカーテンの隙間から朝日が差し込んで、蒼の髪が少し光っていた。
毛布を半分蹴っ飛ばして、枕を抱えたまま眠っている。
寝息は穏やかで、時々口元が緩む。
……やばいくらい、無防備だ。
こんな顔、姉の前でも見せてたのか?
そんなことを考えた瞬間、自分の思考に焦る。
何考えてんだ俺。
「おい、大学遅刻するぞ」
声をかけても、ピクリとも動かない。
毛布を軽くつまんで引くと、「うーん……」と小さく唸った。
寝ぼけた声って、なんでこんなに柔らかいんだろう。
もう一度名前を呼ぶ。
「三浦、起きろ」
「……ん……篠原さん……?」
ゆっくりと目を開けて、ぼんやりと俺を見上げる。
寝起き特有の“焦点の合ってない瞳”。
まぶたが重そうに動くたびに、何かを掴まれるような気がする。
「おはよう。起きろ、朝だぞ」
「……おはようございます。今、何時ですか?」
「7時半。集合何時だ?」
「……8時半……やばっ」
一瞬で目が覚めたらしく、慌てて毛布を蹴飛ばして立ち上がる。
パジャマの裾が少し乱れていて、肩のラインがちらっと見える。
俺は無意識に視線を逸らした。
「落ち着け。朝飯はもうできてる」
「うそ、もう作ってくれたんですか!? ありがとうございます!」
「昨日の味噌汁の残りな。温め直しただけだ」
「でも嬉しいです。……ほんと、篠原さんって生活力の塊ですよね」
「褒められてるのか、年寄り扱いされてるのか、微妙だな」
「褒めてますよ! 俺、こんなちゃんとした朝ごはん久しぶりですもん」
言いながら、まだ半分寝ぼけたままテーブルに座る。
髪はあっちこっちに跳ねていて、顔の右側にシーツの跡。
どうしてこう、油断した姿がいちいち可愛いんだろう。
「寝癖、ひどいぞ」
「え、どこですか?」
「前髪、ここ」
俺は指で示すつもりだった。
けど、無意識に手が伸びて、軽くその髪を整えてしまった。
触れた瞬間、蒼が一瞬固まる。
指先に残る体温。
あ、やばい、と頭のどこかが警鐘を鳴らす。
「……すまん、つい」
「い、いえ……ありがとうございます」
顔を赤くして、手で前髪を触る蒼。
その仕草がまた、反則だった。
俺は咳払いして、味噌汁を器によそう。
沈黙を埋めるように、湯気がふわりと立ち上がる。
「昨日のよりちょっと薄めだ。寝起きにちょうどいいだろ」
「はい……優しい味ですね」
小さく微笑む横顔を見て、思わず視線をそらした。
――“弟”って言い聞かせろ。
何度もそう自分に言い聞かせるのに、心がついてこない。
食後、蒼はドタバタと着替えて、バッグを抱えたまま玄関に走る。
その途中で振り返った。
「篠原さん!」
「ん?」
「今日、帰り遅いですか?」
「多分な。現場回りだから」
「じゃあ俺、晩ごはん作って待ってます」
「……え?」
「昨日教えてもらった味噌汁、再現できるか試してみたいんです」
「焦がすなよ」
「頑張ります!」
笑って出ていく背中が、やけに軽やかだった。
ドアが閉まる音のあと、ふっと静寂が戻る。
俺はテーブルに残った箸を見つめた。
さっきまで、そこにいた気配が残っている。
湯気、笑い声、寝癖。全部がまだ消えない。
「……可愛いとか思うなよ、俺」
小さくつぶやいて、自分に呆れる。
でも、どうしようもなく口元が緩む。
窓の外では、春の風がカーテンを揺らしていた。
同居三日目。
この静けさの中に、もう一人分の“生活”が染みつき始めている。
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