要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第四章 自由な旅路

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「ねぇ、これどう思う?」

 シラユキは、イラついた口調でコウヤに尋ねる。

「いや……僕に聞かないでよ」

 コウヤは、目の前で銀髪エルフ耳で立派なアレを持つ美女の膝枕で、爆睡しているヤナを見ながら呟いた。

「この人エルフかな? どっかで見たことある大きさ・・・なんだけどなぁ」

 ルイが首を傾げていると、アリスが歯を食いしばりながら答える。

「私たちは、ヤナとエディスさんの迎えに来たんだから、ヤナ君とこの人しかいないって事は、このエルフの人がエディスさんでしょ? っつか、コレはエディスさんに違いない……もぎたい……」

「アリス様……何なら手伝いますよ」

 ミレア団員まで、エディスのアレをもごうとするので、セアラが呼び止める。

「ミレアさん・・まで、何を言ってるんですか全く。もぐなら気持ちよさそうに、エディスさんの太股で寝ているヤナ様の方でしょうに、フフフ」

「ひぃ!?」

「セラ様、ミレア様が怯えてますから、その辺にしといてください。あとその金棒もしまってください」

 アシェリが呆れた様に、セアラを宥める。

 そんな事をヤナとエディスを囲んで騒いでいると、ヤナとエディスが同時に目を覚ました。

「ふぁあ……あれ? なんで目の前に、たわわなアレが?」

「んん……あら、皆さんお揃いでお出迎えですか?」

「ちょ! エディスさん屈まないで! 近い近い! ちょっと! わざとでしょ!」

「えぇ、わざとですが何か?」

「ひゃ! 触れる触れおわ! ぎゃぁあああ! 誰だ! 引き摺らないで! 削れる! 色々削れちゃう!」

 俺は目の前にエディスさんの、二つの巨大なアレがまさに触れるという時に思いっきり、寝転んでいた両足を引っ張られた。当然地面に背中やら頭やら腰やらがゴツゴツと、バウンドしながら引き摺られた。

「「お仕置きです!」」

 俺の両足を持って引き摺り回していたのは、アシェリとセアラだった。

「ヤナ様! 一人で魔物の大氾濫スタンピードと立ち向かうだなんて、私達がそれを聞いた時、どんな気持ちになったかわかりますか!」

「恐らく主様が、北の迷宮の魔物の大氾濫スタンピードを止めていなければ、王都は完全に滅びていたでしょう……でも! 私達は、主様の仲間なのではないのですか! 何故、教えてくれなかったのですか!」

 アシェリとセアラは、恐らく・・・瞳に涙でも貯めているのかもしれない。何故なら声が震えていたからだ。だが、俺には二人の顔を、確認することは出来なかった。

「先ず引き摺るのを、やめてぇえええ!」

「「嫌です」」

「薄くなるぅううう!」

 俺が引き摺られながら・・・、二人を心配させたくなかった事を告げると、更に速度を上げて引き摺られた。

「「一人で背負いすぎです」」

「お前らは、俺を引きずりすぎだ! ぎゃぁあああ!」

 二人は普段俺がしている鍛錬を見ているためか、全く容赦が無かった。俺は必死に謝罪と、もう隠し事をしない事を確約して、やっと解放された。

「「分かればいいんです」」

「鬼か……お前ら……」

 どうやら勇者一行とアシェリとセアラが、俺たちを迎えに来たメンバーらしい。

 ガストフ支部長に、俺とエディスさんがきちんと無事であるという事は伝えてあったが、改めて迎えに来てくれた面々に無事な事を伝えた。



 俺が、エディスさんと共に瘴気纏いの大群と戦い始めていた頃、魔族に足止めされていた勇者達が、魔族達を討伐し王都へと辿り着いたらしい。

 そして、勇者達が加わった事によって魔物達を前方と後方からの挟み撃ちをする形になった。勇者達は魔族を退けた後にそのまま駆け付けてくれた為、万全という訳では無かったが、五十階層程度の迷宮ダンジョン魔物モンスター程度では、問題にはならなかったそうだ。

 そして、南から勇者達に遅れて軍の救援が到着し、俺とエディスさんが瘴気纏いの大群と戦い抜いた頃に、ガストフ支部長から呼出コールがあった。そこで、王都の防衛は一気に終結へと向かっおり、今は残党狩りだと伝えられた。

「『お前さん達が、無事な事が分かっただけでいい。そこで少し休んでろ。そのうち、迎えを寄越してやる。二人で話す事もあるだろう?』」

「『まぁ、特別話す事が有るわけじゃないけどな。お言葉に甘えて、そっちは任せてお迎えを待つよ』」

 ガストフ支部長との通話を切り、深く息を吐いた。

「ふはぁあ……取り敢えず、乗り切ったみたいだなっと……だぁ! 疲れたぁあ」

 俺は、その場に大の字に転がった。

「そっか、よかった。ヤナ君、お疲れ様」

「あぁ、エディスさんもお疲れ様」

 俺はエディスさんの様子に、少し驚いていた。

「何だか自然な感じだな。今のエディスさんが本来のって感じか?」

「どうかな? 戦う時は、いつもあんな感じだったし、ギルド職員も結構長くやってるから、全部含めてあたしなんじゃないかな」

 そう言いながら、俺に微笑みかけるエディスさんに、一瞬見惚れてしまった俺は照れ隠しに、またいらん事を聞いてしまった。

「へぇ、ギルド職員長いんだな。そういえば、エディスさんてエルフなんだよな? なら実際はガストフ支部長のおっさんより年上だったりげふぅ! ぎぃいいいいいいい! 頭ぁがぁああ!」

「中々失礼ですね、女性の歳を詮索するなんて。そんな失礼な事を考える頭は、いらないんじゃ?」

「いるいるいるぅうう! 頭は残しといてぇ! こらぁ!『威力貫通』使ってるだろ! やめてぇええ!」

 俺に馬乗りになりながら、こめかみをギリギリとエディスさんはアイアンクローで締め上げる。

 そしてふとした瞬間に、エディスさんは締め上げるのやめて、じっと俺を見下ろしてきた。



 あたしは、ヤナ君の頭から手を離し、じっと改めてヤナ君の顔を見つめた。

 あたしが見つめている事を不思議がっているのだろう、きょとんとした顔を彼はしている。

「ん? どうした? 気が済んだのなら、降りてくれると色々・・助かるんだが?」

 彼が、少し照れながらそんな事を言ってくるので、意地悪したくなって上から抱きついてやった。

「ちょ!? ひゃ!? やめ!?」

 彼が慌てているが、あたしは彼に呟く。

「安心したら気が抜けちゃって、少しこのままで……お願い」

 それに、ホッとしたら涙だってまた出てきてしまっていた。こんな顔は、見せられない。

「……まぁ……しょうがない……か。俺も眠くて、エディスさんを退かす力もないしな……落ち着いたら・・・・・・退いてくれ」

 あたしは、しゃくり上げながら泣いていた。

 彼が駆けつけてくれた時は、きっと嬉し涙だったのだろう。


 でも、今の涙はなんだろう

 自分でもわからない感情だった

 只々、私は泣いた


 そして、彼は怖い夢を見た子供をあやすように、あたしの頭を撫でながら、ずっと黙っていてくれた。

 暫くすると、彼はあたしの頭に手を乗せながら寝息を立てていた。

「ふふ、子供みたいな寝顔だね」

 あたしはじっと彼を見た後に、彼の額にそっと口づけをした。

 そして、彼の唇をあたしの額に優しく当てた。

「ありがと、ヤナ君」

 お互いの額に口づけをするのは、エルフの親愛の印。

「今度は、起きてるときにしてね」

 あたしは彼の上から降りて、彼の頭をそっとあたしの膝に上に乗せた。

 周りには瘴気纏いの死骸だらけの場所だったけれど、今のあたしにとっては、ここが最高の場所だった。



 そして戦場だった場所で、二人は先程仲間が迎えに来るまで、穏やかな寝息を立てたのであった。

 まるで森の中の陽だまりで、微睡んでいるかのように穏やかな顔をしながら。



 瘴気纏いを討伐した荒野で、取り敢えず全ての死骸を鞄に詰めて、片付けを全員で行い王都に戻った。王都の冒険者や兵や騎士団、王宮魔術師は、一先ず今日は援軍に任せて休む事になった。

 エディスさんは、ギルド戻るとガストフ支部長始め冒険者達に揉みくちゃにされそうになった。

「うるせぇ! 邪魔だ! 寄ってくるな! 黙らねぇと全員オークの苗床にするぞ! 散れ!」

「「「ひぃ!? 前より酷い!?」」」

 悪神の聖痕を清めた為、感情の制御が必要なくなったエディスさんは前にも増して・・・感情の起伏が激しくなり、受付で暴れている。

「おい、アレの元凶を作った者として、なんとかしろよ」

「それを更に酷くした原因を作った者として、責任をとれ。アレじゃ貰い手が皆無だ」

 俺とガストフ支部長が、深い溜息を吐き出した。

 勇者達は、俺たちの代わりに王都の防衛をかって出てくれた為、ここにはいなかった。

 その為、俺とアシェリとセアラの三人でそっとギルドから出て、宿屋戻ろうとしたのだ。

 そう、戻ろうとした・・のだ。

「うげ! 首が……苦しぃ……」

 誰か・・が俺の首に腕を回し、俺を羽交い締めしている。柔らかいナニかが当たる感触がある為、誰かはすぐわかったが。

「エディスさん……落ち着こうか……な?……ゆっくり……そうそう……ぜぇぜぇ……死ぬわ!」

「だって、ヤナ君が私を置いてどっか行こうとするからですよ?」

「いやいや、エディスさんはギルド職員の部屋があるでしょうに」

「え?」

「え?」

 エディスさんが、俺の言葉に不思議そうに驚いている。それを聞いて、俺も思わず同じ言葉を返してしまった。そしてエディスさんは、説明を始めた。

「私は、ギルド職員をさっき辞めましたよ? だから宿無しです。ちなみにヤナ君と先程パートナー契約しておきましたので、面倒みてくださいね?」

「は? パートナー契約って確か、双方の同意が必要だって、エディスさんが最初に俺に説明してたよな?」

 冒険者のパートナー契約は、正に相棒といった契約で、報酬等や持ってる財産分与などお互い共有化する契約である。契約するにも解除するにもお互い同意が必要であり、元の世界風に言うと婚姻みたいな制度である。実際、冒険者でパートナー契約をしているのは、その様な意味合いが大きい。

「えぇ、なので先ほどギルド職員を辞める前に、ちょこちょこっとササっとヤナ君が冒険者登録した際の用紙の字体を真似て作成して、私が・・それを受理しました」

「公文書偽造!? 犯人が処理したら、そりゃ受理されるわ! ガストフ支部長! 取り消しを申請する!」

「却下」

「は?」

「ここで却下すると、本気であいつの貰い手がない。これは、わざわざ見なくても・・・・・見える未来だ」

「ちょ! はぁ!? ふざけんな!」

 そしてエディスさんは、全員に聞こえる声で報告する。

「私は、ヤナ君と一緒になります!」

「「「ヤナぁああ! 姉御にナニしやがったぁあああ!!」」」

「言い方ぁあああ! それとお前らは、毎回それか! やかましいわ!」

 外野が喧しく文句を言ってきやがったので、ふと思いついて叫ぶ。

「そこまで言うなら、お前らがエディスさんとパートナー契約しろ!」


「それは、ちょっと……」
「見てるだけで、いいです……」
そういうボコボコになる趣味はないんで、あんた……勇者だよ……」


「このヘタレどもぉおお! ぶっ飛ばしいでぇええええ! 頭がぁああ! 俺のこめかみぃいい!」

 俺が外野に向かって殴りかかろうとすると、ガシッとこめかみを掴まれた。

 すると上目遣いで瞳を潤ませながら、エディスさんが俺を見ていた。

「酷い……あたしと一緒に冒険者するの……嫌なの?」

「言動を一致させてぇえええ! いだだだだあああ!」

 アシェリとセアラに至っては、巻き込まれたくないと、俺を置いて既に宿屋に離脱していた。



「酷いぞ! 二人とも!」

「「正当な離脱です」」

 宿屋の俺の部屋で逃げた二人に文句を言うも、ここでも抗議は即座に却下されてしまった。

「二人とも、よろしくお願いしますね」

 エディスさんは、二人に挨拶していた。二人ともエディスさんが、加わることに特に異論はないらしい。

 ちなみに、エディスさんの姿はもうスキルで偽っておらず、銀髪エルフ耳で顔も若干前より幼い感じの元の姿のままとなっている。

「もう、エルフ関連でトラブルあったとしても、感情抑える事しなくていいから」

 何かあれば、暴れる事が前提らしい。誰だ俺に脳筋だなんて言った奴は。

「それで、エディスさんも一緒に旅をすることになりそうなんだ」

「アシェリちゃんもセラちゃんも、呼び捨て何だから私もエディスにしていいですよ。戦いの際に面倒でしょ」

「あぁ、それもそうだな。なら、エディスよろしく」

「はい、あなた・・・。よろしくお願いしますね」

「ぶふぅ! がはっがは! なんだ! あなた・・・って何だ!」

 俺は飲んでいた飲み物を、盛大に吹き出してむせた。

「だって、アシェリちゃんは奴隷だから『主様』でしょ? セラちゃんは侍女で『ヤナ様』でしょ? なら私はパートナーだから『あなた・・・』でしょ?」

 さも当たり前の様に、夫婦の様な呼び名をしてくるエディスに絶句していると、フフフとエディスは嗤った。

「これから、パートナー契約解除する迄は、お願いしますね?」

「契約って解除できるのか!?」

「死ねば自然と解除されます」

「ノォオオオオオオ!」

 そして、俺は幼女獣人奴隷、王女メイド、そして銀髪エルフのパートナーを手に入れた。

 何故だろう、ここだけ聞くと『変態の中の変態』という通り名がしっくり来るのは。

 俺がその事に悶絶していると、エディスはその様子を見て笑って・・・いた。

「まぁ……いいか」

 俺は、自然な表情で笑うエディスに釣られて、笑顔で呟いた。



 今のあたしを閉じ込める殻は、もう何もない。

 あたしを閉じ込める殻は、貴方に強引に割られてしまった。

 今のあたしに『外』と『中』を分ける殻はない。



 あたしは自由だ
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