要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第五章 刀と竜

ヒーローとヒロイン

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「マスター、本当にこのまま霊峰へ?」

「あぁ! もう面倒臭いから、このままあの二人を連れていく! うぉ! あぶね!」

 俺は、カヤミの部屋で二人に覗き魔痴漢野郎認定をされ、二人に粛清されそうになっていた。

 完全に二人の目から理性が吹き飛び、まさに狂化バーサク状態になり、俺を斬る事のみを行動目的とした、キリングマシーンと成り果てていた。

 俺は、部屋で二人からの剣戟を躱した際に、二人の剣戟で壁が細切れ・・・になった壁穴から部屋の外へと脱出した。

 カヤミの家から脱出する際に、騒ぎを聞きつけたタケミ爺さんと鉢合わせた為、取り敢えず一言だけ言っておいた。

「育て方を間違えてるぞ! このやろう! 責任持って止めろ!」

「無理だの。大人しく斬られておけ。骨は、拾っといてやらん事も無い」

「くそじじぃいいい!」

「お師匠を侮辱したわねぇええ! 千切りにしてくれるわぁあ!」

「師匠想いの良い子だろ? 良い子に育った」

「ふざけんなぁあああ!」

 俺は、命からがら村道に出たところで、色んな武芸者と鉢合わせたが、全員に目を逸らされた。

「ちくしょう! もうこうなったら、どうせ霊峰にこいつら連れていくつもりだったんだ。このまま行くぞ!」

 幸い鞄に食料やら回復薬などは入れてあるし、あとは魔法で何とかなると決断した。

 そして、アシェリ達に仲間パーティー通話チャットで、霊峰に向かう事を伝え、俺は霊峰の山道へと向かったのだ。



 俺は霊峰の入り口となっている洞窟まで一直線に、向かっていた。

「良い加減にとまれ! この覗き魔ぁあ!」

「素直に綺麗すっぱり未練を捨てて、斬られろ貴様ぁあ!」

「良い加減に、落ち着けや! 言葉も通じんのか!」

「「誰がゴブリンだぁ! 絶対潰す!」」

「そんな事、言ってねぇだろうがぁあ!」

 二人は、既に霊峰の洞窟へと入っている事にも気付かずに、ひたすらスキルを放ってくる。

「くそ! ここまで、正気に戻らないなんて! 道を調べる暇が……しまった! 崖か!」

 俺は霊峰内の洞窟を進んでいくと、崖で行き止まりの様な場所に出てしまった。

 底は暗闇で見えず、正に奈落といった感じになっていた。

「これは、落ちたく無いな」

「マスター、それをフラグを立てると言うんですよ?」

 その時だった。追いついてきた二人が、大技を放とうとしていた。

「ちょ! 待て待て! 明らかにここで・・・やっちゃやばい奴だろ! 絶対!」

「『断罪の鉄槌撃』!」
「『死への誘いの雷光撃』!」

 二人は飛び上がり、俺に向かって全力の剣戟を放った。

「「くたばれぇええ!」」

「このバカども! どぉわぁあああ! やっぱりぃいいい!」

 俺が避けた為、さっきまで立っていた場所に二人が、思いっきり剣戟を叩きつけた。その結果、衝撃でそのまま足場が総崩れを起こした。

「え?」
「は?」

「正気に戻ったか? 落ちるぞ! 身構えろ!」

「「えぇえええ!」」

 俺と二人は奈落の底へと放り出された。



「くそ! 『焔豪壁フレイムウォール』『形状変化デフォルマシオン』『紅蓮のフレイムアーマー』『部分的パーシャル』『形状変化デフォルマシオン』『紅蓮のフレイム大翼ウィング』! 二人はどこだ!……彼処か!」

 俺は暗闇吸い込まれた二人を死神の危険/気配慟哭自動感知で気配を探って見つけ、壁や地面に叩きつけられる前に助ける為に、二人に向かって飛んだ。

「きゃぁあああ……あ? はひゃん!」

 俺はまず、近くにいたカヤミを空中でキャッチして、脇に抱え込んだ。そして、続け様にディアナに向かう。

「きゃぁあああ……あ? あひゃ!」

「ふう、間に合ってよかったな」

「「……」」

 二人が黙っていたので、どこか怪我したりしたのかと思って尋ねた。

「どうした? どこか怪我したか?」

「「どこ触ってる(のよ)!」」

「え?……あっ、柔らかぐべらっ!」

「マスター、どさくさに紛れて揉むとか……ゲスいですね」

 両頬におそらくデカイ紅葉が出来た事を確信しながら、二人に話しかける。

「くぅ……二人とも、取り敢えず今は動くなよ。どこまで落ちるか、分からんからな」

 取り敢えず二人は、姿勢を俺に脇に抱えこまれる形から、俺の首に手を回し、俺に腰にを支えられる形となって大人しくなった。

「こんな破廉恥な男に、密着しないといけないとは屈辱だ」

「底に降りるまでの辛抱……ん? 別に飛べるなら、このまま上に戻れば良いじゃないの?」

 カヤミが不思議な事を言う。

「何で戻るんだ? 今から氷雪竜を討伐して、神鉄を採りに行くんだぞ? このまま降りていけば、早そうだろ?」

 俺が、何を言っているんだという顔をすると、二人はキョトンとした顔を俺に向けてくる。

「「はぁあああ!?」」

「耳元で大声出すな! うるさい!」

「貴様は、氷雪竜を舐めているのか! 我が兄が、当時の精鋭部隊を率いて、それでも僅か数名を残し、壊滅したのだぞ!」

「神鉄は、霊峰の最奥にあると言われ、当代随一の剣の腕を持ち、更には探索にも優れた私の兄が、それでも一握りの神鉄を持ってくるだけで力尽きたのよ!」

 二人がきゃんきゃんと、俺の耳元で吠えるので、俺は次第に頭にきていた。

「やかましいわ! 出来なかったのは、お前たちの『兄達』であって『俺達』じゃ無い!」

「「は?」」

「二人して何なんだ。さっきから聞いてりゃ、『兄』が出来なかったから『私』もできないだぁ? そんな事、知った事か! そんな理屈は、通らせねぇぞ! 今ここにいるのは『俺』と『カヤミ』と『ディアナ』だ!」

 俺が叫ぶと、二人は一瞬固まったが、再度口を開こうとした時だった、下降する俺達に向かって大量の気配が近づいてきた。

「お客さんのお出ましだ」

「この気配は……雪竜と氷竜の……もう囲まれてるじゃない……」

「だから、無理だと言ったんだ……こんな所で、襲われたらどうしようもない」

 二人が、決めつけたように諦め出すので、俺は益々イラついた。

「良い加減にしろよ。うんざりだ。何が無理だ! やる前から諦めやがって! 足掻いて足掻いてそれでも、最後まで足掻くんだよ! 何故、一握りでも神鉄を持って帰ってこれた! 何故、数名だけでも帰還が出来た! お前らの兄貴は、どんな男だったんだ!」

「「……」」

「それにな、完全に諦めてるなら、何故そんな目を霊峰に向ける! 悔しいんだろ! それでも動く事ができない自分が、腹立たしいんだろ! 自分でその一歩が踏み出せないなら、俺が後ろから蹴飛ばして、歩かしてやる!」

「何を言って……あんたに、何が出来るのよ……」

「そうだ……口だけなら、誰でも言えるのだぞ……」

「はん! そんな口すらも叩けない臆病者は、少し黙って俺にしがみついてろ!」

 俺は、精神を集中させて、静かに口にする。

「『明鏡止水精神統一』『三重トリプル』『十指テンフィンガー』『獄炎ヘルフレイム極球《フルムーン》』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎の大太刀』『集線ハブ』『接続コネクト』『案内者ヤナビ』『対象ターゲット:雪竜及び氷竜』」

 俺は、明鏡止水精神統一により『三重トリプル』を制御出来るようになった為、三十本の黒炎の大太刀を出現させた。更に、全ての黒炎の大太刀をヤナビを通して接続する事で、狂喜乱舞ヤナ流二刀剣術を使用可能とした。

「ヤナビ、殲滅だ」

「了解です、マスター」

 そして、ゆるりと降下しながら、一方的な蹂躙が始まった。



 私が初心者とバカにしていた男が、霊峰に住み着く雪竜と氷竜の群れを、黒炎で出来た大太刀で、瞬く間に斬り刻んでいる。

 私はその様子を、男にしがみつきながら見て、驚愕していた。


『さぁ、創ろうか"神殺し"の刀を』


 あの男が口にした『神殺し』の刀を共に創ろうという言葉に、外面は馬鹿にしつつも、内面の奥底では、心が躍る自分がいる事は分かっていた。

 あにぃという目標をなくし、来る日も来る日も鍛錬に明け暮れた日々。

 技術は上がっていき、自分でも分かるようになった。

 恐らく当時のあにぃより、そして師匠よりも鍛治の腕が上回っていることに、気づいていない訳がない。

 ただ、それでも心が自分自身を認めないのだ。

 追いつこうとしたあにぃは、もう二度と会う事は出来ない。

 自分の腕を見てもらう事は、もう出来ない。

 あにぃに追いつく事も追い越す事も、二度と出来ない。

 私の心は、結局あの時から時間が進んでいないのだ。



 この偽物は、初心者冒険者ではなかったのか?

 目の前で繰り広げられる蹂躙に、私は絶句していた。

『悔しいんだろ! それでも動く事ができない自分が、腹立たしいんだろ!』

 私は霊峰を前にした時に、はっきりと分かったことがある。

 兄様が命を賭してまで戦った場所に来ているのにもかかわらず、動く事が出来ない自分に対して、悔しくて腹立たしかった。

 でも、それでも自分はたった一歩が踏み出せず、村へと引き返した。

 誰よりも強く優しかった兄様の背中を追いかけて、辛い鍛錬も毎日休まず続けた。

 自分でも、兄様に近づいている感触はある。

 ジェット様との出会いの後は、更に自分自身を追い込んで鍛錬を行った。

 その結果、今の私は記憶の中の兄様に限りなく近いか、若しくは超えているかもしれない感覚はあった。

 だが、それでも霊峰を前にして、自分の足は動かなかった。

 兄様の出来なかった事を、自分が達成している想像が、まるで湧かなかった。

 どれだけ鍛錬しても、どれだけ実戦を積んでも、私の心は、兄様が氷雪竜に討たれたと知らせが届いたあの時から、凍りつき止まってしまっているのだろう。



 俺が襲ってくる雪竜と氷竜を殲滅しながら、ゆっくりと下降していると、二人は何故か静かに黙って俺にしがみついていた。

 少しは俺の事を見直したかなと思っていたが、もしかすると地面に降り立った瞬間、アソコを狙われるのではないかと言う危機感もあり、生きた心地がしなかった。

 そして暫くして、竜たちの襲撃は完全に止んだ頃、地面に降り立つ事が出来た。

「ほらよっと。ふぅ、何とか無事に地面に足をつけられたな」

「「……」」

 二人はまだ、黙っていたので、何処か見えないところでも怪我をしたのかと、心配して尋ねる。

「二人とも大丈夫か?」

「え? あ、うん、大丈夫よ」

「あぁ、少し考え事をしていただけだ」

「それなら、先に進むぞ」

 俺が歩きそうとすると、二人から同じ言葉をかけられる。

「本気なの?」
「本気なのか?」

 俺は、全く同じタイミングで同じ言葉をかけてくる二人に、笑ってしまった。

「ふふ、仲良いなお前ら。本気に決まっているだろう。俺は俺のやりたい事をやる。出来る出来ないで、俺は動かない。やると決めたら、必ずやる」

「あんたのやりたい事って、何なの?」

「気になるのか? こんな初心者のやりたい事を」

 俺は笑いながら、そう返す。

「いいから聞かせろ、貴様のやると決めたことは、なんなのだ!」

 ディアナが、何故か苦しそうな顔で叫ぶ。

「俺がやると決めた事はな……」

 二人がじっと俺を見る。



「この世界を救うことだ」



「「は?」」

「この世界をクソッタレにしているクソ神を、叩き斬ってやるのさ」

 二人はそこまで聞くと、声を荒げた。

「そんなこと! 出来るわけないじゃない!」
「世界を救うだと! そんな大それた事を、よく言えるな!」

「できるさ、そう約束したからな」

 俺は、微笑みながら更に口を開いた。

「それに俺はヒーローになりたいのさ」

「「ヒーロー?」」

 二人は聞いたことがないその言葉ヒーローに、困惑した顔をしていた。

「あぁ、だから安心しろ。お前たちもヒーローが救ってみせる」



 俺は、二人に約束した



 霊峰の奥底で、ヒーローヒロインのために命を賭ける。
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