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推しの寝室に踏み込みました
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それは、意外にも――すぐ、だった。
「……なあ、シリル」
その晩、執務を終えたレオナルトは、俺をじっと見つめたまま言った。
「少し、来い」
「……は? どこに」
「俺の部屋だ」
「……はぁ!?」
大声を出しそうになった俺を、レオナルトは眉ひとつ動かさずに見下ろした。
「なぜ、そこまで驚く」
「いやいやいや、だってお前、いきなり『部屋に来い』って……それってもう、え? 何かイベント発生するやつだろ!?」
推しの寝室に踏み込めるだなんて! いや、推し自らに、寝室に誘われるだなんて! しかし、レオナルトは、
「意味がわからん」
と、全く表情を変えない。「寝室に誘う」という重大イベントが発生しているというのに、何か、もう、ちょっと、こういう、顔を赤らめるとか、誘惑的なまなざし、目が潤んでいるとか、何か、そういうの、期待しすぎ?
「いや、わかってるだろ!? 絶対わかって言ってるだろ!? お前、天然系クーデレ攻めか!?」
「クーデター?」
「違う。クーデレ。普段はクールだけど、慣れるとデレデレ……」
「……黙れ。来い」
有無を言わせぬ口調で言われ、俺は観念してレオナルトの部屋へ向かうことになった。いや、それはそれで、強引な攻め様、いい……に、なるのか?
◆
豪華すぎるベッド、整然とした調度品、そしてどこか冷たい空気。まさに“氷の公爵”の寝室だった。
「……で、何の用だよ?」
緊張を誤魔化すように言う俺に、レオナルトは静かに振り返る。そして、ベッドの脇にある椅子を指差した。
「座れ」
「……お前、やっぱり俺を口説くつもりじゃないよな?」
「……それは、今のお前の態度次第だな」
クールな美形が、誘惑的にそんなセリフを吐くなんて……反則。俺の理性が、グラグラ揺れ出す。だめだ。冷静になれ、俺!
「やめろ、そういうの一番弱いからやめて」
レオナルトはほんの僅かに眉をひそめて言った。
「今日は……話がある」
「……話?」
勝手な期待に走っていた自分を殴りたい。そうか、話、ですか……。真面目ですね、公爵。
「俺が、お前に……“自分のこと”を話そう」
「……え?」
原作小説でも、あまり語られていないレオナルトのこと。それをレオナルト自身が語り出すとは! レア! 尊死! 拝!
◆
それは、レオナルト・ヴァイスという男の、決して語られなかった過去だった。母は政略結婚の駒。父は国を守る剣として彼を育て、“心を殺す方法”を幼い彼に教えた。家族に甘えることも、恋を知ることもなかった。心を隠して強く生きる――それが、彼の全てだった。
「……だが、最近になって……気づいた」
「何を?」
「お前のような、妙に図々しくて……騒がしくて……言葉に力のある奴が間近にいると、心が……動く」
「……」
それは、明確な“告白”ではなかった。けれど、その言葉に込められたであろう、ほのかな感情が伝わった。
「……お前といると、俺は……」
「……なあ」
俺は、そっと言葉を挟んだ。
「……俺も、お前といると、生きてるって感じがする」
「……」
「前の世界では、ただ働いて、死んだだけだった。評価されるためだけに生きて、気づいたら死んでた。何の感情も、思い出も残せなかった。でも……今は違う」
「……そうか」
レオナルトの声は、低く優しく、どこか震えていた。
「だからさ」
俺は、ゆっくりと手を伸ばした。
「お前が……誰にも言えなかったこと。俺だけには、話してもいいだろ?」
「……それは」
彼の唇が、何かを言いかけて、止まる。俺の手が、そっと彼の手に重なる。氷のように冷たかったその肌は、ほんの少しだけ……温かくなっていた。
「……なあ、シリル」
その晩、執務を終えたレオナルトは、俺をじっと見つめたまま言った。
「少し、来い」
「……は? どこに」
「俺の部屋だ」
「……はぁ!?」
大声を出しそうになった俺を、レオナルトは眉ひとつ動かさずに見下ろした。
「なぜ、そこまで驚く」
「いやいやいや、だってお前、いきなり『部屋に来い』って……それってもう、え? 何かイベント発生するやつだろ!?」
推しの寝室に踏み込めるだなんて! いや、推し自らに、寝室に誘われるだなんて! しかし、レオナルトは、
「意味がわからん」
と、全く表情を変えない。「寝室に誘う」という重大イベントが発生しているというのに、何か、もう、ちょっと、こういう、顔を赤らめるとか、誘惑的なまなざし、目が潤んでいるとか、何か、そういうの、期待しすぎ?
「いや、わかってるだろ!? 絶対わかって言ってるだろ!? お前、天然系クーデレ攻めか!?」
「クーデター?」
「違う。クーデレ。普段はクールだけど、慣れるとデレデレ……」
「……黙れ。来い」
有無を言わせぬ口調で言われ、俺は観念してレオナルトの部屋へ向かうことになった。いや、それはそれで、強引な攻め様、いい……に、なるのか?
◆
豪華すぎるベッド、整然とした調度品、そしてどこか冷たい空気。まさに“氷の公爵”の寝室だった。
「……で、何の用だよ?」
緊張を誤魔化すように言う俺に、レオナルトは静かに振り返る。そして、ベッドの脇にある椅子を指差した。
「座れ」
「……お前、やっぱり俺を口説くつもりじゃないよな?」
「……それは、今のお前の態度次第だな」
クールな美形が、誘惑的にそんなセリフを吐くなんて……反則。俺の理性が、グラグラ揺れ出す。だめだ。冷静になれ、俺!
「やめろ、そういうの一番弱いからやめて」
レオナルトはほんの僅かに眉をひそめて言った。
「今日は……話がある」
「……話?」
勝手な期待に走っていた自分を殴りたい。そうか、話、ですか……。真面目ですね、公爵。
「俺が、お前に……“自分のこと”を話そう」
「……え?」
原作小説でも、あまり語られていないレオナルトのこと。それをレオナルト自身が語り出すとは! レア! 尊死! 拝!
◆
それは、レオナルト・ヴァイスという男の、決して語られなかった過去だった。母は政略結婚の駒。父は国を守る剣として彼を育て、“心を殺す方法”を幼い彼に教えた。家族に甘えることも、恋を知ることもなかった。心を隠して強く生きる――それが、彼の全てだった。
「……だが、最近になって……気づいた」
「何を?」
「お前のような、妙に図々しくて……騒がしくて……言葉に力のある奴が間近にいると、心が……動く」
「……」
それは、明確な“告白”ではなかった。けれど、その言葉に込められたであろう、ほのかな感情が伝わった。
「……お前といると、俺は……」
「……なあ」
俺は、そっと言葉を挟んだ。
「……俺も、お前といると、生きてるって感じがする」
「……」
「前の世界では、ただ働いて、死んだだけだった。評価されるためだけに生きて、気づいたら死んでた。何の感情も、思い出も残せなかった。でも……今は違う」
「……そうか」
レオナルトの声は、低く優しく、どこか震えていた。
「だからさ」
俺は、ゆっくりと手を伸ばした。
「お前が……誰にも言えなかったこと。俺だけには、話してもいいだろ?」
「……それは」
彼の唇が、何かを言いかけて、止まる。俺の手が、そっと彼の手に重なる。氷のように冷たかったその肌は、ほんの少しだけ……温かくなっていた。
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