転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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王になれ、愛する者よ(レオナルト視点)

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 朝日が昇る少し前。俺は、寝息を立てるシリルの髪を撫でていた。

 胸の上で眠るその体は、昨日よりもずっと近く、そして、ずっと、愛しい。これを、守りたかった。奪われたくなかった。国家も、家族も、忠義も――全部投げ捨ててもいいと思った。ただ、この寝顔だけは守りたかった。……だから、俺が動かなきゃ。

 草を踏む音に、目を向ける。ラセルが、夜の見張りを終えて戻ってきた。その目の奥に、決意のようなものが宿っていた。

「話がある」

「……ああ」

 俺たちは、森の外れで向き合った。

「そろそろ、言わなきゃいけないことがある」

「ラセル。……何を隠している?」

「俺は……王位継承権を放棄した王太子だ」

 言葉の重さに、思わず眉をひそめる。

「どういうことだ?」

「魔法の国――アレイシアでは、王位継承者は“魔力”の強さで決まる。でも、でも、俺は、ただ魔力が強いだけの王にはなりたくなかった」

「なぜ?」

「戦争を止めたいと思った。だから、自分が王位を継いで、剣の国と手を結ぼうとした」

「……だが」

「王家は、“戦争継続”が前提の政権だった。俺は、王位を放棄して国外に出た――その名目が“留学”だ」

 俺は、ラセルの言葉を継いで言った。

「そして、剣の国に来た。俺に近づくために」

「そうだ。最初は……“物語”の結末を変えるためだった」

 ラセルの目が、俺の瞳をまっすぐに見つめてくる。

「でも、会って、あなたに、触れてしまった……猫として、だけど。それでも、あなたの手に触れたら、もう“推し”とか“憧れ”とかじゃなくなった」

「……」

「レオナルト、君は本物だった。俺は、あなたを愛してしまった」

 その言葉に、胸が苦しくなった。ラセルの“思い”は、俺を守った。なのに、俺は――こいつを敵だと思っていた。

「……ありがとう。お前の気持ち、俺は、否定しない」

「でも、選ぶのはシリルなんだろ?」

「そうだ」

 ラセルは、目を伏せて、そして微笑んだ。

「なら、もう一度だけ“推し”のために剣を振るうよ。君がこの国を変えるなら、俺は魔法で支える」


 その時。森の向こうから、馬の蹄の音が響いた。


「……見つかったか」

「早かったな」

「剣の国の直属騎士団だ」


 追手は――レオナルト暗殺部隊。レオナルトを“逃亡貴族”として処刑するための動きだ。


「レオナルト。ここで黙って死ぬのか?」

 シリルが、剣を手に言った。


 俺は、剣を握りしめた。もう、誰かの命令で戦うつもりはない。

「俺は、俺の意志で、この剣を振るう」

 俺は言った。

 「そして――王になる」


「“駒”じゃなくて、“王”か」

 ラセルが微笑む。

「そうだ」

「いいね。あなたが王になれば、俺は……“愛する男の臣下”になれる」

「……お前、時々さらっと爆弾を投げるな」

 俺は苦笑した。

「だって、本音だよ?」

 ラセルが真面目な顔して俺を見上げる。ちょっと猫みたいな表情で。俺の膝の上で、俺を見上げた黒猫のまなざしで。


 シリルが、にやっと笑う。そして、ラセルに対抗するように言う。

「じゃあ、こっちは“愛する王の恋人”ってことで」

 俺は二人を制する。

「仲間内で……争いはやめろ」



 剣を抜く音。風に乗る魔力の匂い。

 背中を預けて、三人で立ったその瞬間――もう、誰も“駒”じゃなかった。

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