転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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【最終話】未来は、ふたりで紡ぐ

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「……似合ってるよ、レオナルト」

 王宮の大広間。式典前の控室で、俺は、レオナルトの姿に惚れ惚れして、恥ずかしながら、そう伝えずにおれなかった。

 金の刺繍が施された礼装。肩には黒獅子の紋章――それは、かつて“王家への従属”を示す紋だったが、今は、“新たな剣の国”の象徴として刻まれていた。

 レオナルトは、少し照れくさそうに笑う。美々しい華麗な雄々しい衣裳、ふだんの完璧な凛々しい表情と、そのくしゃっとした笑顔のギャップが、また……もう、どうしたら! 俺にだけ向けられた、素のレオナルト。俺の推しが、俺にだけ、そんな表情を見せてくれるなんて……控えめに言って、尊い。

「似合ってるか?」

「うん。文句なしの“俺の推し”だよ」


 式場はすぐそこだ。民衆が集まる広場には、無数の旗がはためき、王都には、剣の国始まって以来の盛大な祝賀の空気が満ちている。

 ――今日、レオナルトは、王になる。

 そしてその隣に、“俺”が立つ。

「緊張してる?」

 俺は、自分の緊張をほぐそうとして、何の気なしに言っただけなんだ。なのに、レオナルトは言うのだ。

「してない。……お前がいるから」

「……!」

 俺は、もう心臓が壊れそうで、下を向いて、レオナルトの、そのたくましい腕を軽く叩いた。でも、その筋肉がまたかっこよくて、その体温、そのあたたかさに、ほんとに推しが生きてるんだって思って、俺は余計に崩壊した。 

 初めてこの世界に来た時、ただ“推しを救いたい”という思いだけだった俺が、今では、その人の隣に立とうとしてるなんて、感無量。

 扉が開く。

 吹き抜ける風の向こうに、未来の光が待っていた。



 戴冠式。

 王都中央広場。

 数千人の民の前で、レオナルト・ヴァイスは剣を掲げた。

「この命、この国に捧ぐ。民の声なき声を、俺は“剣”に代えて聞く」

 冠が彼の頭に載せられた瞬間――白き陽光が差し込み、民衆の間から歓声が上がった。


 もうレオナルトは王家の“駒”なんかではない。一人の王様だ。

「そして――この者を、俺の伴侶として迎える」

 その言葉とともに、俺の名が読み上げられる。

「シリル・フォード。異邦の地より来たりし者。我が心を照らし、剣より強き意志をもたらした者」

 目の前に立つレオナルトが、騎士の所作で、膝をつき、俺の手に口づける。

「……我が運命を、共に歩んでくれ」

 視界が滲んだ。でも、俺は言った。伝えたかったから。

「……こちらこそ。最後まで、そばにいるよ」


   ◆


 一方、ラセルは……。

「ふーん。やっと“夫婦”になったんだ?」

 ワイングラスを揺らしながら、王宮のバルコニーで俺は彼らを見下ろしていた。

(軍服じゃない、あんな姿、レオナルトには似合わないと思ってたけど――いや、似合ってるじゃん。あんな幸せそうな顔しちゃってさ)

「王になるか、恋人と生きるかの二択じゃなくて――どっちも手に入れたんだね、あなたは」

 懐から、一通の書簡を取り出す。アレイシアから届いた、王位復帰の最終通達。

「じゃあ、俺も、わがままに生きさせてもらいますよ。そうだね、俺の場合は……“外交使節”として生きるとするか。推しの国も、祖国も、どっちも栄えるようにね」

 剣の国と、魔法の国。二つの国の“橋”になる。それが、ラセルなりの“推し活”だ。

「さよなら、俺の初恋」

 二人の姿を遠くから見ながら、そっと別れを告げる。


   ◆


 数ヶ月後。

 新たな王国。戦争のない国。少しずつ、前へ進んでいた。

 街角には、子どもたちが遊び、市には笑い声があふれ、王宮には――レオナルトとシリルの姿が並ぶ。


「ねえ、レオナルト。旅、行こうよ。そろそろ」

「まだ国政が……」

「えー、そうなの? ちゃんと今日の会議終わったし。それに、ラセルが“行け”って」

「……あいつ、相変わらず、おせっかいだな」

 二人で歩く、小さな旅。

「ううん、本当は、旅になんて出なくていいんだ」

 人生が旅だから。この日常をただ生きることが、毎日この人と身近にいて大切に日々を生きることが、俺の旅だ。

「これからも、よろしくね。王様」

「……王というより、今のお前に必要なのは、“ただの俺”だろ」

「うん。ちゃんと、俺のことも、自分のことも、わかってくれてるんだね。だから、好きなんだよ」


 手を繋いだその先に、まだ見ぬ風景が広がっていた。


(完)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
2025年11月開催のBL大賞にエントリーしました。応援よろしくお願いします。

この後も、番外編、更新中です。
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