転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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後日譚・番外編

番外編(西原視点)推しと語る夜のバルコニー

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 夜の離宮は、虫の声が静かに響き、空は満天の星だった。
 風がそっと、カーテンを揺らす。

 西原は、ひとり、バルコニーに立っていた。

「……どうやら、こっちの世界にも、ちゃんと星があるんだね」

 ふと背後で音がして、ラセルが姿を現す。

「お酒、飲めたよね?」

「うん、たしなむ程度に」

 ラセルは手にグラスを二つ持っていた。
 シリルが彼にそう言ったのだろう。

 静かに隣に並んで、グラスを渡してくる。
 乾杯の音もなく、ふたりはそっと口をつけた。

「……読みながらずっと思ってたの」

 西原がぽつりと呟く。
 ラセルは横目で、彼女の横顔を見つめた。

「あなたがひとりで戦ってるのが、読んでてつらかった」

「……」

「誰にも頼らないの、すごいなって思ったけど……本当は、そうしなきゃいけない環境だったんだよね。
 だから……あの黒猫のシーン、何度も読んだの。
 あなたが、やっと誰かに甘えたように見えたから」

「……レオナルト様が黒猫を撫でてくれたの、うれしかった。あとから読み返したよ。あれは、演技じゃない。心がふわっと、楽になった」

「そうだよね」

 風が吹き抜けた。
 ラセルは、星を見上げる。
 その目は、静かに潤んでいた。

「こっちに来て、あなたと話せて……よかった」

 西原は、笑った。とても自然に。

「私、今はレオナルト様とシリルのこと、すごく応援してるし……
 でも、あなたにも、ちゃんと誰かが隣にいてほしいって、ずっと思ってたから」

「……君が、コメントしてた“成熟した大人の恋人ルート”ってやつ?」

「ふふっ、恥ずかしいね。でも、そう。
 ラセル王子は、“報われるべき人”だって、私は思ってたよ」

 ラセルは黙って、その言葉を噛みしめるように、グラスを傾けた。

「ねえ、王子」

「うん」

「私ね、戻るつもりだったの。
 でも……こうして、あなたと話して、ちょっと迷ってる。
 だって、あなたが生きてる世界を、目の前で見てしまったから」

「……」

「でも、答えは急がないで。
 私自身も、もう少し、考えてみるから」

「ありがとう」

 ラセルの声は、かすかに震えていた。

「君が、ここに来てくれて……本当に、うれしかった」

「私も。ラセル王子に会えてよかった」

 二人は静かにグラスを合わせた。
 音が、星空に吸い込まれていった。
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