転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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後日譚・番外編

シリルが獣人化した瞬間。「猫耳としっぽと、俺の尊厳」(シリル視点)

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 魔法薬の調合、それは、予想外がつきものだ――と、わかってはいた。わかってはいたけれど。

「……にゃ?」

「え?」と言ったつもりなのに、猫の声が出た。この状況だけは、予想できるはずがなかった。

 俺の視界の端で、ふわりと何かが揺れた。灰色の、柔らかそうな……しっぽ。

 (いやいや、いやいやいや)

「……ラセル。今、俺の腰……の辺りから、なんか変なもん生えてないか?」

「うん、生えてる。お尻から、しっぽ! あと猫耳も!」

 ラセルが嬉しそうに答えた。やけにテンション高めで。

「はああ!? なんでだよ!?」

「ご、ごめん! たぶん、さっき薬瓶間違えて入れたかも……?」

 ごめん、とは言っているけれど、ちっとも悪びれてはいない。ラセルの顔は、面白そうに、にこにこ笑っている。

「“たぶん”ってお前……っ!」

 焦りすぎて、言葉も出ない。状態を確認しようと、自分の頭の上に、おそるおそる手を伸ばせば、もふもふで、ぴこりと反応する耳。

「うわっ」

 自分で触って、自分でびっくりした。視線を下げれば、腰の後ろからふわふわと揺れるしっぽ。しっぽが、自分の動きに連動して、自然に動いてるのが余計に腹立たしい。

(なんで……こんな、可愛い系のビジュアルに……)

 当惑する俺の心とは反対に、ラセルは、楽しそうに言う。

「えっ、でも、めっちゃ似合ってるよ!? かわいい……いや、ほんと、かわいそうだけど、めっちゃ、かわいい……!」

 自分の実験の失敗がもたらした状況だって、わかってる!?

「やめろ! その“かわいい”のラッシュやめろ!」

「だって、ほら、しっぽとか、触ったらふわふわだし、耳もやわらかそうだし……」

 ラセルが、なにやらうっとりした表情でこちらに手を伸ばしてくる。

「こら、やめろ! 俺は観賞用じゃない! 近づくな、撫でるな、やめ……っ、って、あっ、やめ――!」

 ぴと。

「うわっ……っ!」

 ラセルの手が、しっぽに触れた瞬間、ぶわっとそれが逆立ち、体がびくりと跳ねた。

「っ……! しっぽって、……こんなに、敏感なもんなのかよっ……!」

 耳まで熱くなるのを感じた。いや、猫耳じゃなくて、自分の、元からある耳のほうだ。……たぶん。新しくできた部分の感覚と、元からある部分の感覚の違いがまだよく判別できない。

(落ち着け俺、深呼吸だ、これはただの魔法薬の副作用、冷静になれシリル……)

 ――だが、冷静になる間もなく。

「……またか」

 ひときわ低く、落ち着いた、しかし圧のある声が響いた。振り返れば、ドアの前にレオナルト。

「また、ってなんだよ! 俺、初めてなんだけど!」

 よりによって、レオナルトの前で、こんな姿を晒すなんて……っ!

(それなのに……なんでこの人、落ち着いてるんだ!?)

「……そうか。だが似合ってる。想像以上に、な」

 なにやら満足そうな顔でうなずくレオナルト。

「はああ!? 想像してたんかい!」

「ずっと前からしてた」

「ずっとって! 想像歴が長いな!」

「……ふむ」

 レオナルトが、俺の頭を見つめる。猫耳の、あたりを。じっと。

「な、なに見て……あっ、こら、触んな、ちょっと、やめろ、あっ!」

 ぴくっ。

 耳が、勝手に、反応する。

「……動くんだな」

「そりゃ動くだろ!  猫耳だんだから。勝手に動くんだよ!」

「……かわいいな」

「やめてくれぇええええ!」

 俺は叫んで、その場に崩れ落ちた。もう無理だ。尊厳が死ぬ。そのまま床に倒れ込んだ俺に、ラセルがこそこそと近づいてくる。

「ねえねえ、もう一回、しっぽ触っていい?」

「ダメに決まってんだろ! じ、自分のしっぽでも触ってろ!」

「え、人のだから、興しろいんじゃん。触るとびくってなるの、すごいかわい……ごふっ!」

 ――さすがに全力でツッコんだ。
 ラセルが吹き飛ぶ勢いで転がったが、ラセルは「へへ……」と笑っている。
 こいつ、ちょっと楽しくなってきてるな。

(ふざけるな……このままじゃ俺の心がもたない……)

 そして。

 なぜか隣でレオナルトが静かに言った。

「……一晩、このままで過ごしてみたらどうだ?」

 レオナルトの顔を仰ぎ見ると、真面目な表情だ。

「はあ!? 無理だろ!?」

 すぐにも、元に戻してもらいたいのに。

「よく似合ってる。俺の隣に、ちょうどいい」

「やめろおおおお!!」

 耳が熱い。しっぽが勝手に動く。体温が異常に上がってる。何が“ちょうどいい”だ! そんなフェチを隠しもっていたなんて! 俺は叫んだ。

「頼むから、元に戻してくれえええ!!」

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