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後日譚・番外編
黒猫ラセルと獣人シリル
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秋の昼下がり。王城の中庭にふんわりとした日差しが差し込んでいた。
シリルは、ベンチに座って本を読んでいた。
獣人化の影響で、灰色の猫耳とふわふわのしっぽがまだ残ったまま。
(レオナルトは「そのままでいろ」と言ってきかない)
「……うぅ、なんか落ち着かない……」
耳がぴくぴく、しっぽがそわそわと揺れるたび、シリルの集中は途切れていた。
そこへ――
「わーっ! シリルー!」
ふわふわの黒猫が、芝生を勢いよく駆けてくる。
「ちょっ、おま、待て、ラセル!」
「ねえねえ、それなに~?♡」
黒猫はぴょんっとベンチに飛び乗って、シリルのしっぽにじゃれついた。
「わっ……や、やめろ! しっぽ引っぱるな! やばいから!」
「ふにゃ~~~、もふもふしてて気持ちいい~~~」
「おまっ……っ、そこ触ると……っ」
シリルの耳がピンッと立ち、しっぽがびくんと跳ねる。
ラセルはそれを見て、楽しそうにぐるぐる回った。
「ねぇ、もしかして“そこ”感じやすい?」
「~~っ!! 違うっ……って言いたいけど否定できないぃ……っ!」
シリルの顔は真っ赤。
そこへ通りがかったレオナルトが、しばらく無言で見下ろし――
「……なるほど」
「ちょ、まってレオナルト様!? 今のは違――!」
「面白いものを見た。もっと続けろ」
「やめてぇぇぇ!!」
黒猫は、レオナルトの足元でゴロゴロ喉を鳴らしながら、くすくす笑っていた。
◆
秋の夜。王城の庭に、しっとりした風が吹く。
ラセルは黒猫の姿で、芝生の上をごろりごろりと転がっていた。ふわふわの毛並みに、月の光がやわらかく反射している。
「……猫になれるなんて、ずるいな」
シリルはラセルの隣にしゃがみこんで、ぽつりとつぶやいた。
「ふふん。これは、魔法の国の王子の特権だからね」
ラセルは猫の姿のまま人語で答えると、楽しさを見せびらかすように、また、ころん、と転がりながら尻尾をくるりと巻き上げる。
「特権かぁ。俺は耳としっぽだけ猫だから、けっこう気恥ずかしいっていうのがあるんだよね……」
「えー、似合ってるのに。灰色猫。おしゃれでクールで、レオナルト様も気に入ってるよ」
シリルは少し頬が熱くなったので、ばれないように視線をそらした。
「……ラセルだって、気に入られてるだろ。ラセルが猫のとき、レオナルト、すごくテンション高いもん」
「それは……そうかもねぇ。ふふふ。だって、抱っこしてくれるし」
ラセルは自慢げに、そう言う。
「うん……それで、ずるいなって思った」
その言葉に、ラセルの動きが止まった。黒猫の姿のまま、ふにゃりと体を横にして、つぶやく。
「でも、僕は、シリルのほうが、ずるいって思ってるよ」
「……え?」
「だって、君は、“王配”なんでしょ? レオナルト様の“いちばん大事な人”でしょ?」
「……」
「いいなぁ。僕は、ただの“黒猫”ってだけなのに。猫だから抱いてくれるだけだもん」
シリルはしばらく黙っていたが、ぽつりと答えた。
「ラセルのこと、レオナルトは大事に思ってるよ。わかってるだろ?」
「うん、わかってる。だから嬉しいよ」
ラセルは、猫のまま伸びをして、もふっとシリルの膝に乗った。
「でも、たまに、ちょっとだけ、羨ましいんだ。シリルが、レオナルト様の隣にいること」
「……たまに、ね」
「そう。たまに」
黒猫は、満足げに喉を鳴らした。その音が、静かな夜に、心地よく響いていた。
シリルは、ベンチに座って本を読んでいた。
獣人化の影響で、灰色の猫耳とふわふわのしっぽがまだ残ったまま。
(レオナルトは「そのままでいろ」と言ってきかない)
「……うぅ、なんか落ち着かない……」
耳がぴくぴく、しっぽがそわそわと揺れるたび、シリルの集中は途切れていた。
そこへ――
「わーっ! シリルー!」
ふわふわの黒猫が、芝生を勢いよく駆けてくる。
「ちょっ、おま、待て、ラセル!」
「ねえねえ、それなに~?♡」
黒猫はぴょんっとベンチに飛び乗って、シリルのしっぽにじゃれついた。
「わっ……や、やめろ! しっぽ引っぱるな! やばいから!」
「ふにゃ~~~、もふもふしてて気持ちいい~~~」
「おまっ……っ、そこ触ると……っ」
シリルの耳がピンッと立ち、しっぽがびくんと跳ねる。
ラセルはそれを見て、楽しそうにぐるぐる回った。
「ねぇ、もしかして“そこ”感じやすい?」
「~~っ!! 違うっ……って言いたいけど否定できないぃ……っ!」
シリルの顔は真っ赤。
そこへ通りがかったレオナルトが、しばらく無言で見下ろし――
「……なるほど」
「ちょ、まってレオナルト様!? 今のは違――!」
「面白いものを見た。もっと続けろ」
「やめてぇぇぇ!!」
黒猫は、レオナルトの足元でゴロゴロ喉を鳴らしながら、くすくす笑っていた。
◆
秋の夜。王城の庭に、しっとりした風が吹く。
ラセルは黒猫の姿で、芝生の上をごろりごろりと転がっていた。ふわふわの毛並みに、月の光がやわらかく反射している。
「……猫になれるなんて、ずるいな」
シリルはラセルの隣にしゃがみこんで、ぽつりとつぶやいた。
「ふふん。これは、魔法の国の王子の特権だからね」
ラセルは猫の姿のまま人語で答えると、楽しさを見せびらかすように、また、ころん、と転がりながら尻尾をくるりと巻き上げる。
「特権かぁ。俺は耳としっぽだけ猫だから、けっこう気恥ずかしいっていうのがあるんだよね……」
「えー、似合ってるのに。灰色猫。おしゃれでクールで、レオナルト様も気に入ってるよ」
シリルは少し頬が熱くなったので、ばれないように視線をそらした。
「……ラセルだって、気に入られてるだろ。ラセルが猫のとき、レオナルト、すごくテンション高いもん」
「それは……そうかもねぇ。ふふふ。だって、抱っこしてくれるし」
ラセルは自慢げに、そう言う。
「うん……それで、ずるいなって思った」
その言葉に、ラセルの動きが止まった。黒猫の姿のまま、ふにゃりと体を横にして、つぶやく。
「でも、僕は、シリルのほうが、ずるいって思ってるよ」
「……え?」
「だって、君は、“王配”なんでしょ? レオナルト様の“いちばん大事な人”でしょ?」
「……」
「いいなぁ。僕は、ただの“黒猫”ってだけなのに。猫だから抱いてくれるだけだもん」
シリルはしばらく黙っていたが、ぽつりと答えた。
「ラセルのこと、レオナルトは大事に思ってるよ。わかってるだろ?」
「うん、わかってる。だから嬉しいよ」
ラセルは、猫のまま伸びをして、もふっとシリルの膝に乗った。
「でも、たまに、ちょっとだけ、羨ましいんだ。シリルが、レオナルト様の隣にいること」
「……たまに、ね」
「そう。たまに」
黒猫は、満足げに喉を鳴らした。その音が、静かな夜に、心地よく響いていた。
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