転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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後日譚・番外編

ある夜のシーン

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 ある夜、シリルは聞いた。 
「……ねえ、レオナルト」
「なんだ?」
「……俺のこと、本当に“俺”として見てくれてます?」
 心臓が、ひとつ強く鳴った。答えが怖くて、それでも聞かずにはいられなかった。夜の静けさが、余計に自分の声を鋭く響かせる。
「どういう意味だ」
「見た目がシリルだから、ってだけで……夜のお相手にしてるんじゃないですか?」
 レオナルトの表情が変わるのがわかった。一瞬、しまった、と思った。けれど、もう引き返せない。レオナルトが眉をひそめて言った。
「……お前は、俺がそんな男だと思っているのか」
 その声音に、胸がきゅっと締めつけられる。責められているわけじゃないのに、自分の不安が、疑いが、言葉にしたことでより色濃くなった気がした。
「だって、前のシリルのこと、きっと本気で……」
 どんなに笑っていても、どんなに距離が縮まっても、ずっと胸の奥に引っかかっていたことだった。
「前のシリルを失った時、俺はすべてを失ったと思った。でも――」
 レオナルトが一歩、近づいた。その手が、そっと自分の肩に触れた瞬間、体が小さく震えた。
(シリルの肩に手を置き、まっすぐに見つめる)
 その視線に、逃げ出したくなるくらい、まっすぐに射抜かれた。言い訳も疑いも、もう通じないとわかる、誠実な光。
「今ここにいる“お前”を、俺は失いたくないと思っている。だから、俺が愛しているのは、“今のシリル”だ」
 呼吸が止まった。心が、ぎゅう、と熱くなった。
「……じゃあ、見た目が変わっても?」
 あえて冗談めかして聞いたのは、少しでもこの空気をごまかしたかったからかもしれない。
「ああ。黒猫になっても、うさぎになってもな」
 ……それはもう、答えというより、“愛”のかたちだった。
「……なんでうさぎ……?」
 声がかすかに震えたのが、自分でもわかった。感情の波に翻弄されすぎて、逃げ場がなくなっていく。
「かわいそうなほど撫で回したくなるだろう」
 冗談めかした言い方に、救われた気がした。
「……も~~……真面目な話してたのに……!」
 顔に熱がこもっているのを、レオナルトはもう気づいてるだろうか。思わずそっぽを向く。けれど、胸の奥がふわっと、ほどけていく。
 ――ちゃんと、“今の自分”を愛してくれてる。そう信じていい気がした。
 熱がこもった頬を押さえながら、ふいっと顔を背けていても、レオナルトの笑みを背中で感じてしまって、どうしようもなく胸があたたかくなる。
(……やっぱり、結局、こうして、どんどん好きになっちゃうんだよな)
 そのまま、静かな夜に小さな沈黙が流れる。

 ……が、数秒後。カサッ……。書類棚の影から、小さな物音がした。
「……」
「……」
「……え、なに……?」
 そろりと立ち上がり、物音のした方へ歩み寄ると――バサバサバサッ!
「にゃああ!? ば、ばれた!?」
 書類棚の裏から転がり出てきたのは、見覚えのある黒猫――形態のラセルだった。
「……う、うっかり全部聞いちゃった。えへへ」
「聞いてたのかーっ!」
 顔が一気に熱くなる。
「ふむふむ。“シリル、うさ耳”……これは、実験の価値あり……っと」
「うわぁああああ!! またケモ耳系の実験とかやめてぇぇ!」
「……うさ耳のシリルか。確かに、見てみたいな」
「レオナルトまで乗るなぁあ!」
 笑い声が広がる夜の執務室。
 さっきまでの切なさも、不安も、嘘みたいにふわりと消えて――そこにあるのは、かけがえのない「今」だけだった。
 窓の外には、まんまるの月。その光が、三人の時間を、やさしく照らしていた。
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