転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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冷酷公爵との初対面

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 転生したら小説の世界だった。しかも、よりによって悪役の側近とかいうハードモード。
 だが、ただ絶望している場合じゃない。俺は死にたくないし、何より推し(レオナルト公爵)が処刑される未来なんて耐えられない。
 ならば、運命を変えるしかない——!
 ……と決意したのはいいものの、転生したばかりの俺は何をすればいいのか分からず、とりあえず屋敷を歩き回っていた。
 記憶が妙に馴染んでいるのは、この体の「元のシリル」のものが残っているからだろうか? 意識は完全に俺自身なのに、不思議と屋敷の構造が分かるし、使用人の顔も知っている気がする。
 そして、気づけば俺は、レオナルト公爵の執務室の前にいた。
「……ここが、レオナルト公爵の部屋」
 小説の中では「冷酷非道な悪役」として描かれていた男。美しくも無慈悲、感情を持たぬ氷の公爵。
 俺の「推しキャラ」だった。
(……推しに会えるとか、普通なら最高の展開なのに)
 問題は、俺が「側近」という立場なことだ。つまり、この先、俺の態度ひとつで生死が分かれる可能性がある。
 深呼吸し、扉をノックする。
「失礼します、公爵閣下」
 重厚な扉を押し開けると、そこには——銀の長髪が、窓からの光に揺れていた。
 レオナルト公爵はデスクに向かい、書類を広げている。光の加減で長い睫毛が影を落とし、その横顔はまるで芸術品のようだった。
 小説の挿絵で見たときより、実物の美しさが半端ない。
 高身長、鍛えられた体躯、冷たい眼差し。まさに「戦場の鬼神」の異名を持つ男。
「……何の用だ?」
 低く、静かな声。
 睨まれているわけではないのに、体が本能的に緊張する。圧がすごい。
 だが、俺は冷静を装い、口を開いた。
「いえ、閣下のご様子を見に参りました」
「ふん……。相変わらず、忠実なことだな」
 レオナルトは書類に視線を戻し、さらりとペンを走らせる。
(あれ……思ったより冷たくない?)
 小説では、彼は側近にすら厳しく、使えない者は即座に切り捨てる非情な男だったはず。けれど、今のレオナルトはただ淡々としているだけで、別に冷酷な印象はない。
 むしろ……疲れてる?
 無表情を保っているが、目の下にかすかな影があるし、指先に力が入っていない。
(もしかして、レオナルト公爵って、最初から「悪役」だったわけじゃない……?)
 原作小説では、彼は冷酷な策謀家として描かれていた。でも、それはあくまで「主人公視点」だからでは?
 実際に近くで見ると、小説の中で語られていない部分が見えてくる。
 例えば、彼は本当に「冷酷なだけ」の人間なのか?
 本当に「悪役」なのか?
(……推しの真実を知れるって、やばいな)
 とりあえず、俺は目の前の公爵を観察することにした。
 彼が悪の道に進む前に、何かできるかもしれない。
 そして、運命を変えるために、まずは「信頼を得る」ところから始めよう——。
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