転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー

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猫と将軍と、俺の戦い

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 翌朝、俺は泥のように眠っていた。ふと、頬にくすぐったい感触を覚える。柔らかい毛が触れる感覚——何かが俺の顔を撫でている?
「……んん……」
 目を開けると、目の前にふさふさの黒い毛並みがあった。
「——っ!?」
 黒猫だった。俺の顔にぴったりと寄り添うようにして、黒猫はふさふさの尻尾で俺の鼻先をなでている。
「おい、ちょっ、待て!」
 俺が慌てて体を起こすと、黒猫は「にゃあ」と鳴いて、すました顔で俺を見上げる。俺は……猫は、というか動物全般が、苦手だ……というか、怖い。
「何勝手に俺の顔にすり寄ってんだよ……!」
「ん? 気に入られたのか?」
 低い声が響いた。振り向くと、レオナルト公爵が部屋の入り口で腕を組みながら立っていた。……ちょっと待て、朝から美形の軍服姿は目に毒すぎる。
「いや、気に入られたとかじゃなくて……この猫、勝手に俺の部屋に入り込んできたんですけど!」
「猫に部屋の区別がつくと思っているのか?」
「それは……そうだけど……!」
「気に入られたなら、受け入れるしかないな」
 レオナルトはそう言いながら、すっと猫を抱き上げた。……その動作が異様に優雅すぎて、思わず俺は目を奪われる。軍服姿の鋭い顔立ちの男が、黒猫を抱いて撫でるその姿……色気がすごいんですけど!?
「ふむ、こいつは気まぐれだが、賢い。シリル、お前を気に入ったなら、それなりの理由があるのかもしれん」
「理由って、猫にそんなものが……」
「猫は人を見る」
 レオナルトは黒猫の背中を優しく撫でながら、じっと俺を見つめた。
「お前がどういう人間か、こいつは知っているのかもな」
「……やめてくださいよ。そんな哲学的なこと言われても、俺、猫苦手なんですけど」
 レオナルトはフッと笑った。
(おっ、また笑った! なんか、笑いのハードルが下がってきた?)
「だが、こいつはお前に懐いた。さて、どうする?」
「どうするって……」
「受け入れるか、拒むか」
「……」
 俺は黒猫とレオナルトの顔を交互に見た。黒猫はレオナルトの腕の中で満足そうに目を細めている。
……こんな姿、俺には想像もつかないくらい穏やかだ。
「レオナルト様って、本当に猫が好きなんですね……」
「こいつを嫌いな者などいるのか?」
 即答だった。
そしてその声音が、やけに柔らかかった。
「こいつは俺にとって……うまく言えんが、信頼できる数少ない存在だ。」
「えっ……そんなに!?」
「俺は誰にも気を許さないが、こいつだけは例外だ」
「……」
 ——俺は気づいてしまった。レオナルトがこの黒猫を心から大切にしていること。
そして、それを知った以上、この黒猫を邪険に扱うことは……俺にはできない。
「……じゃあ、頑張って、慣れるようにします」
「ほう?」
「別に俺はこいつに嫌われてるわけじゃないし……たぶん……」
「それはそうだな。お前が嫌われるのは、人間の方だ」
「……余計なこと言わないでくださいよ!」
 俺はムッとした。
「確かに前世では、仕事で業績をあげることに必死で認められたくて人のことなんて考える余裕なんてなくて被害妄想がひどくて、俺だけなんで認められないんだって恨みに思っていて、だけど頑張って働いても働いても認められなくて……つらくて、だから、もっと認められようと思って、もっともっと働いて……だから、そんな殺気だった恨みが駄々洩れな俺に、誰も近づかなかったんだと思いますけど、レオナルト様だって、同じようなものじゃないですか、戦鬼と言われて皆に恐れられ、畏れられ……勝っても勝っても、どんなに強くても……」
 レオナルトの言葉が、俺の中の何かの地雷に触れてしまったのか、俺は、ブツブツブツブツ言い始めて止まらなくなってしまった。
 レオナルトは珍しくくすっと笑って、俺はハッと我に返って、ブツブツつぶやきが止まった。やっと止めることができた。黒猫も「にゃあ」と鳴く。
なんだろう、こいつも俺を笑ってる気がする……。
(……俺の戦いは、まだまだ始まったばかりだな)
 俺は深くため息をついた。
(転生先で、宿敵の猫と和解するところから始めることになるとは……!)
 そして、その日から俺と黒猫の距離を縮める戦いが始まった。
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