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農業チャレンジ編。理想と現実のはざまで
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「俺は……やるぞ……!」
シリルはぐっと拳を握りしめ、目の前に広がる広大な荒地を見渡した。
ここは、戦の影響で耕作放棄地となっていた土地。もともとは豊かな穀倉地帯だったらしいが、今では雑草が生い茂り、石ころだらけになっている。
しかし、シリルには夢があった。 「不耕起農法で、荒れた土地を豊かにする!」
転生前から、自然農法や無農薬栽培に憧れがあった。化学肥料や農薬に頼らず、土の本来の力を活かして作物を育てる——それが理想だった。
「鍬で耕したり、草を刈ったりせず、土の生態系を守りながら、粘土団子で種を蒔き……自然の循環を取り戻すんだ……!」
理想は完璧だった。完璧だった、のだが——
「……」
シリルは草ぼうぼうの土地を見つめ、
「これ、本当に大丈夫かな……?」
と、早くも不安になり始めていた。
確かに「不耕起農法」という言葉はかっこいい。でも、思い返せば、転生前にやった粘土団子農法は見事に失敗した記憶がある。種を仕込んだ粘土団子を畑にばらまいたのはいいが、「草の勢いが強すぎて、発芽する前に埋もれた」「芽が出ても、日光が足りずにひょろひょろのまま枯れた」「収穫できたのは、偶然生き残ったたった一株のカブだけだった(ダジャレ)……」
「……まあ、大丈夫、大丈夫。今度こそ成功させる……!」
そう自分に言い聞かせて、シリルはまずは草刈り……いや、違う。あれ? 不耕起農法だから「草刈りはしない」んだったっけ?
「草は刈らない、草は刈らない……そのまま活かすんだ……!」
「にゃあ」
傍らでは、例の黒猫(名前はまだない)がシリルの足元でくつろいでいる。
「お前はいいよな……別に食べ物の心配とかしなくて……」
「にゃあ」
まるで 「本当にそれでうまくいくのか?」 と言いたげな猫の目に見つめられ、シリルは微妙な気分になった。
「……」
(いや、やっぱり、最初だけ少し耕すか……)
決心したシリルは、密かに持ってきた鍬を手に取る。
——バレなければ、これは不耕起農法の範囲内……!
そうして、こっそりと畑をほんの少しだけ耕し始めた、そのとき——
「お前は何をしている」
「!?」
鋭い声が頭上から降ってきた。
慌てて振り返ると、そこには黒い軍服に身を包んだ銀髪の男——レオナルト・ヴァイス公爵が立っていた。
「レ、レオナルト……!? なんでここに……!」
「朝、貴様が畑に行くと言っていたからな」
当然のように答えながら、レオナルトはシリルが手にしている鍬をじっと見つめる。
「……不耕起農法とは、耕さない農法ではなかったのか?」
「えっ……あっ、いや、これは……!」
「なるほど」
レオナルトはゆっくりと近づくと、無言で鍬を取り上げた。そして、——ザクッ!
「ちょっ!? 耕すんかい!」
「お前がやるなら、俺も手伝うだけだ」
「いや、これはその……ちょっと土を柔らかくしようと……」
「ふむ。では、俺も手伝おう」
そう言って、レオナルトは淡々と鍬を振るい始めた。
「ちょっ、やめろ! これじゃ普通の農作業だ!」
「何が問題だ?」
「これは『不耕起農法』なんだよ!」
「そうか。だが、お前がすでに耕していたのだから、もう同じことだろう」
「……ぐぬぬ……」
結局、その日、シリルとレオナルトは 「最小限の不耕起農法」という名目で畑を耕すことになった。柔軟な発想が大切だ。妥協も必要。完璧主義はよくない。理想と現実。理想は理想。
(……まあ、草ぼうぼうのままより、こっちの方がマシか……)
と納得しかけたシリルだったが、ふと横を見ると、レオナルトが黒猫を抱き上げていた。
「……可愛いな」
「えっ」
いつも冷徹なレオナルトが、珍しく穏やかな顔で猫の耳を撫でている。
(……この絵面、ヤバくない!?)
銀髪長髪の軍服美形が、黒猫を優しく抱きしめている。しかも、軍服の上に黒いマントを羽織り、軍帽を被っている姿はどこか絵画のような美しさだ。
(なんだこの破壊力……!)
「にゃあ」
黒猫もまんざらではないらしく、レオナルトの腕の中で喉を鳴らしている。そして、ふと、レオナルトがシリルを見つめて言った。
「安心しろ、猫はお前を嫌っていないらしい。貴様が嫌われるのは、人間の方だ」
「なんでそうなるんだよ!」
俺が来る前のシリルは、皆に嫌われていたのかもしれない。まあ、前世の俺も、親しい友達はいなかったし、仲のいい同僚もいなかったが……。だからこそ、仕事だけに打ち込んでいた。仕事さえしていれば、評価される。誰とも話さなくても。仲良くしなくても。仕事で成果を出しさえすれば、評価され、給料は上がるかもしれないし、長くがんばっていれば役職も上がるかもしれない。そう思って、残業して頑張っていた。
「俺は動物には懐かれるが、人間には怯えられる。お前も似たようなものだろう」
「俺は動物に懐かれてない! むしろビクビクしてるんだけど!」
「……」
「……いや待て、それってつまり、俺とお前は似たもの同士ってことか?」
人間関係がうまくいかない、という点において、似ているかも? というか、そこのところにも、原作で共感していた。そして今、レオナルト自ら、似たようなもの、と言ってくれた!
「違う」
「速攻で否定した!?」
「俺は人間に怖がられている。お前のように嫌われているわけではない。それに猫を怖がったりもしない」
「さっきは、似たようなものって言ったくせに!」
こうして、農業チャレンジ編は 「なんだかんだで、結局、普通に耕す」 「レオナルト、猫には優しい」 「シリルは相変わらず動物にビクビクしている」 という結果に終わったのだった——。
シリルはぐっと拳を握りしめ、目の前に広がる広大な荒地を見渡した。
ここは、戦の影響で耕作放棄地となっていた土地。もともとは豊かな穀倉地帯だったらしいが、今では雑草が生い茂り、石ころだらけになっている。
しかし、シリルには夢があった。 「不耕起農法で、荒れた土地を豊かにする!」
転生前から、自然農法や無農薬栽培に憧れがあった。化学肥料や農薬に頼らず、土の本来の力を活かして作物を育てる——それが理想だった。
「鍬で耕したり、草を刈ったりせず、土の生態系を守りながら、粘土団子で種を蒔き……自然の循環を取り戻すんだ……!」
理想は完璧だった。完璧だった、のだが——
「……」
シリルは草ぼうぼうの土地を見つめ、
「これ、本当に大丈夫かな……?」
と、早くも不安になり始めていた。
確かに「不耕起農法」という言葉はかっこいい。でも、思い返せば、転生前にやった粘土団子農法は見事に失敗した記憶がある。種を仕込んだ粘土団子を畑にばらまいたのはいいが、「草の勢いが強すぎて、発芽する前に埋もれた」「芽が出ても、日光が足りずにひょろひょろのまま枯れた」「収穫できたのは、偶然生き残ったたった一株のカブだけだった(ダジャレ)……」
「……まあ、大丈夫、大丈夫。今度こそ成功させる……!」
そう自分に言い聞かせて、シリルはまずは草刈り……いや、違う。あれ? 不耕起農法だから「草刈りはしない」んだったっけ?
「草は刈らない、草は刈らない……そのまま活かすんだ……!」
「にゃあ」
傍らでは、例の黒猫(名前はまだない)がシリルの足元でくつろいでいる。
「お前はいいよな……別に食べ物の心配とかしなくて……」
「にゃあ」
まるで 「本当にそれでうまくいくのか?」 と言いたげな猫の目に見つめられ、シリルは微妙な気分になった。
「……」
(いや、やっぱり、最初だけ少し耕すか……)
決心したシリルは、密かに持ってきた鍬を手に取る。
——バレなければ、これは不耕起農法の範囲内……!
そうして、こっそりと畑をほんの少しだけ耕し始めた、そのとき——
「お前は何をしている」
「!?」
鋭い声が頭上から降ってきた。
慌てて振り返ると、そこには黒い軍服に身を包んだ銀髪の男——レオナルト・ヴァイス公爵が立っていた。
「レ、レオナルト……!? なんでここに……!」
「朝、貴様が畑に行くと言っていたからな」
当然のように答えながら、レオナルトはシリルが手にしている鍬をじっと見つめる。
「……不耕起農法とは、耕さない農法ではなかったのか?」
「えっ……あっ、いや、これは……!」
「なるほど」
レオナルトはゆっくりと近づくと、無言で鍬を取り上げた。そして、——ザクッ!
「ちょっ!? 耕すんかい!」
「お前がやるなら、俺も手伝うだけだ」
「いや、これはその……ちょっと土を柔らかくしようと……」
「ふむ。では、俺も手伝おう」
そう言って、レオナルトは淡々と鍬を振るい始めた。
「ちょっ、やめろ! これじゃ普通の農作業だ!」
「何が問題だ?」
「これは『不耕起農法』なんだよ!」
「そうか。だが、お前がすでに耕していたのだから、もう同じことだろう」
「……ぐぬぬ……」
結局、その日、シリルとレオナルトは 「最小限の不耕起農法」という名目で畑を耕すことになった。柔軟な発想が大切だ。妥協も必要。完璧主義はよくない。理想と現実。理想は理想。
(……まあ、草ぼうぼうのままより、こっちの方がマシか……)
と納得しかけたシリルだったが、ふと横を見ると、レオナルトが黒猫を抱き上げていた。
「……可愛いな」
「えっ」
いつも冷徹なレオナルトが、珍しく穏やかな顔で猫の耳を撫でている。
(……この絵面、ヤバくない!?)
銀髪長髪の軍服美形が、黒猫を優しく抱きしめている。しかも、軍服の上に黒いマントを羽織り、軍帽を被っている姿はどこか絵画のような美しさだ。
(なんだこの破壊力……!)
「にゃあ」
黒猫もまんざらではないらしく、レオナルトの腕の中で喉を鳴らしている。そして、ふと、レオナルトがシリルを見つめて言った。
「安心しろ、猫はお前を嫌っていないらしい。貴様が嫌われるのは、人間の方だ」
「なんでそうなるんだよ!」
俺が来る前のシリルは、皆に嫌われていたのかもしれない。まあ、前世の俺も、親しい友達はいなかったし、仲のいい同僚もいなかったが……。だからこそ、仕事だけに打ち込んでいた。仕事さえしていれば、評価される。誰とも話さなくても。仲良くしなくても。仕事で成果を出しさえすれば、評価され、給料は上がるかもしれないし、長くがんばっていれば役職も上がるかもしれない。そう思って、残業して頑張っていた。
「俺は動物には懐かれるが、人間には怯えられる。お前も似たようなものだろう」
「俺は動物に懐かれてない! むしろビクビクしてるんだけど!」
「……」
「……いや待て、それってつまり、俺とお前は似たもの同士ってことか?」
人間関係がうまくいかない、という点において、似ているかも? というか、そこのところにも、原作で共感していた。そして今、レオナルト自ら、似たようなもの、と言ってくれた!
「違う」
「速攻で否定した!?」
「俺は人間に怖がられている。お前のように嫌われているわけではない。それに猫を怖がったりもしない」
「さっきは、似たようなものって言ったくせに!」
こうして、農業チャレンジ編は 「なんだかんだで、結局、普通に耕す」 「レオナルト、猫には優しい」 「シリルは相変わらず動物にビクビクしている」 という結果に終わったのだった——。
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