底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第一話 祝・追放

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「ルカ・オブライエン!お前を追放する!!」

 大声とともに飛んできた飛沫が当たらないように、僕は少し後ろに下がった。その動きが気圧されたものだと思ったのか、声の主は鼻で笑ってふんぞり返っている。
 こういう時、ちゃんと訂正するべきなのだろうか。僕の名前はルカ・だと。

 ……いいか、別に。

 ここは冒険者パーティー[真なる栄光]が借りている宿の一室で、この場にいるのはリーダーのティモンとメンバーのベロニカ、カミラ、ゲイル。先程僕に追放宣言したのはティモンで、他の三人はニヤニヤしながらこちらを見ている。
 僕は特に何か言うでもなく、内心で小さく溜め息をついて、そのままティモンの次の言葉を待った。

「やだぁ。ショックで固まっちゃってるよぉ?」

 反応の無い僕の様子を見たベロニカが、くすくすと笑いながらティモンの腕に絡みつき、そんな彼女にティモンは鼻の下を伸ばしている。

 僕は表情があまり変わらないらしく、ぼーっとしているとか目を開けたまま寝ているとか、よく勘違いされる。ぼーっとしていることは……まあまああるけれど、目を開けたまま寝るなんて出来ないし、今もショックを受けて固まっているわけではない。
 
「可哀想に。自分が無能だという自覚がないんじゃないかしら?」

「オレらとは実力の差がありすぎるってのになぁ」

 表情だけは憐れみを浮かべているカミラの腰を抱き寄せ、ゲイルがこれ見がよしに溜め息をついた。
 ティモンは視線を私に戻して続ける。

「俺達[真なる栄光]は、結成からまだ三カ月も経たないが、新進気鋭、将来有望な冒険者の集まりだ」

 すごい自信だ。
  
「冒険者の頂点であるSランクにだって、すぐに上がる実力がある。お前みたいな役立たずは足手まといだ!」

 自信が底無し沼だ。

 僕はティモン率いる冒険者パーティー[真なる栄光]に、二十日ほど前に雇われた運び屋ポーターだ。
 雇用に関しては何度も断ったのだが、あまりにもしつこかったため、一ヶ月間という期限などを含めた契約を結び、彼らに同行していた。
 ちなみにこの二十日間で、彼らの自信を裏付ける実力ものには、お目にかかれていない。

 そして先程。期限まであと十日というところで追放、もとい解雇を通告をされた。
 
「荷物持ちしかできない無能なお前を、せっかくこのパーティーに入れてやったっていうのに…。荷物持ちばかりするとはな」

 僕は荷物持ちそのために雇われたと記憶している。

「そーそー。役立たずは役立たずなりに、率先して雑用とかするべきでしょお?」

 この二十日間、全ての雑務は僕がこなしていたのだが。

「魔法も[保管庫インベントリ]しか使えないなんて…。私なら恥ずかしくて外を歩けないわ」

 この国の現国王は魔法適正を持たないことを知っていて、この発言。
 
「魔物と戦えない男なんて、女は見向きもしねぇぜ?」

 心底どうでもいい。あと、僕は女だ。

 全員が口々に発言し終えると、ティモンはまるで決め台詞とでもいうように、一歩前に出て胸を張る。
 
「メンバーの総意だ。役立たずに用はない。さっさと出て行け!!」

「喜んで」

 おっと…。つい本音が出てしまった。

「は?なんだって?」

「いや何も」

 話がややこしくなるので素知らぬ顔で流し、持っていた紙の束から一枚を取って机に置いた。

「?なんだそれは」

「解雇手続きの書類です。雇用契約時に合意した雇用期間未満に解雇する場合、提出するようになっているので。……知ってますよね?」

「…………あ、あー…あれか!もちろん分かってるさ。分かってるとも!」

 本人が分かっていると言い張るなら、何も言わない優しさを僕は持ち合わせている。
 
「……って、いやいや待て待て!」

「書き方ですか?日付けはここ、サインはここ、それから」

 書類の各所を指して説明すると、「違う!」と怒鳴られた。
 
「なんで素直に応じるんだ!もっとあるだろ!こう……、ほら!」

「?」

 何を言わんとしているのか分からず首を傾げる僕。ティモンは焦れったそうに、指で机をコツコツと叩きながら言い募る。

「強がらなくていいぞ、ルカ。ほんとはここに残りたいんだろ?荷物持ちしかできないお前には、俺達のような優秀なパーティーに入れるチャンスなんて、今後一生無いもんな?弁明くらい聞いてやってもいいんだぞ?」

 何を言っているのか分からない。
 何をどう解釈したら、僕が残留を切望しているように思えるのだろう。

 ティモンは苛立った様子でさらに捲し立てる。
 
「頭を下げてお願いしたらどうだ?追放だけは許してくださいとか、今後はちゃんと役に立ちますとか!」

「……」
 
 何を言っているのか以下略。
 無表情のまま何も言わない僕に、ティモンも他の三人も顔を顰める。

「雑用係として置いてください、とか……。えっと……、ティモンさんのお世話係もやります!……とか!!」

 ……。何を言って以下略。
 少し顔を顰めてしまったのは仕方ないと思う。

 なんにせよ、僕はこのパーティーから追い出されても全く問題ない。むしろ祝杯を上げる。

「特に何も。…あ」

「!なんだ?!」

 何事か思い出した僕に、ティモンが一瞬目を輝かせた。何を期待しているのか。

「ここに解雇理由、書いてください」

 書類の空欄を指差す。
 不備があっては、また彼らのところに足を運ぶことになる。たぶん碌な事は書かないだろうけれど、僕の手間を減らすために、何か書いてほしい。

「~~~~~っっ!!」

 期待が外れたのか、ティモンはこめかみに青筋を浮かべて机の上から乱暴にペンを取り、

『役立たず   ティモン』

 なんとか読める字で、解雇理由とサイン、日付けを書類に書き殴った。
 ……この書き方だと、『役立たず』がティモンを指しているように見えるが、面白いので黙っておこう。

「どうも」

 僕は書類をくるくると丸め、用意していた麻紐で纏めた。
 これでもうここに留まる意味も必要もない。

「では」

 短く挨拶をして踵を返す。「お世話になりました」などとは言わない。僕はお世話した側だ。

 ドンッ!
 
 背後で床を力任せに踏み鳴らす音がした。おそらくティモンだろう。苛立った時にやる彼の癖のようなもので、この二十日間で何度も見た。

「後で戻りたいなんて泣きついてきても遅いからな!強がったことを悔や」
 
 バタン

 別れの叫びを、扉を閉める音で遮って宿を出る。先程までいた一室からは、まだ何か騒いでいる声が聞こえていた。

 時刻はまだ正午過ぎ。空は快晴。柔らかい風が頬を撫でる、心地よい日和だ。

 お祝いにステーキ食べよう。

 面倒事から開放された僕は、実に爽やかな気分でその場を後にした。
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