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第十八話 ドラナト魔窟③
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今、目の前にいるこの魔物を炙り焼きしたら、何人前になるだろう。
……なんて事、今この場で考えてるのは僕だけだろうな。
全体的に丸みのあるフォルムと垂れた長い耳。くりっとした目とヒクヒク動く鼻。ここまでは普通のウサギだ。
重要なのは、その体高が二メートル以上あることと、丸めた両手から鋭い爪が覗いていること、耳の付け根から触覚が伸びていること。
モデストラビットは、ゆっくりとした足取りで、こちらへ近づいてくる。今のところ敵意は感じないが……。
僕とベルハイトは刺激しないよう警戒を崩さず、ティモン達は……、口を開けて固まっている。
やがて立ち止まった巨体のウサギは僕達を見渡し、
「きゅるるっ?」
丸い瞳を瞬かせ、こてん、と首を傾げる仕草をした。しばしの沈黙が流れる。
「……は…。なんだ、随分大人しいじゃないか」
一見愛らしい姿に緊張が解けたティモンが、無防備に一歩踏み出そうとして、
「!」
僕は真横からティモンを蹴り飛ばした。
吹き飛んだティモンの代わりに、その位置に滑り込んだ僕目がけて、モデストラビットが腕を振り下ろす。
ギィンッ!!
「ルカさん!!」
甲高い音とベルハイトの声。
僕は短剣二本で爪を受け止めたまま、後ろに声をかける。
「ティモンさんを連れて離脱してください」
しかし、呆然と立ち尽くしているベロニカとカミラ。その視線は、豹変したモデストラビットに縫い付けられている。
先程までの大きくとも愛らしい表情や仕草は影もなく、その目は吊り上がって血走り、口元は牙を剥き出しにし、毛を逆立てている。
「ギギャッ!!」
「!」
抑えていた爪を弾いて、後方に跳ぶ。
もう一振りの腕が空を切り、僕がいた場所を薙いだ。
「――な、なんだ?!誰だ?!今俺に攻撃したのは!!」
随分遠くでティモンが叫んでいる。事態を把握できていないようだ。
ティモンの声に我に返ったベロニカとカミラが彼に駆け寄り、
「なんかあのウサギ、思ってたのと違くない?!」
「そうよ!思っていたよりなんていうか、……そう!大きいわ!」
「だよね!あれは三人じゃ持てないでしょ!」
「ええ、持てないわ!なんの苦も無く討伐できるけれど、持てなければ意味ないわ!」
「?二人ともいったい、どうし……」
ベロニカとカミラの慌てように、ティモンはモデストラビットを見て、
「ひ……っ?!」
震え上がった。そして、
「こ、こここれはその……、想定外だな。うん…」
「だよね?!」
「そうよね!」
ベロニカとカミラが必死の形相で頷く。
「そう、そうだとも。だからこれは……」
ティモンはそろりと立ち上がり、
「戦略的撤退だ!!」
言うが早いか、一目散に逃げ出した。
「あっ!!また先に逃げるわけ?!」
「貴方が殿を務めるのが筋でしょう!!」
「ギャギャッ!!」
ドタバタと走り去るティモン達を、モデストラビットは見逃す気は無かったらしく、僅かな助走もなく跳躍すると、僕を飛び越えてティモン達の真後ろへ一気に迫った。
「無限保存庫・開放」
四元魔法・地属性[大地の護り]。
地面を伝って、ティモン達とモデストラビットの間に土の壁を発現させる。
ゴォンッ!!
「「「ぎゃーーーーーーーっ?!!」」」
鈍い音が響き、壁の向こうでティモン達が叫ぶ。しかし走り去る足音は遠ざかって行くので、難は逃れたようだ。
モデストラビットは土の壁に思い切り頭から突っ込んだが、ふらりと後ろによろめきながら、
「ギィギィギィギィギィ!!」
なぜかベルハイトに標的を変えた。
「ベルハイトさん!来ます!」
「!」
ベルハイトに飛びかかったモデストラビットは、両腕の猛攻を繰り出していく。それを剣一本で捌くベルハイト。
剣と爪がぶつかる音が何度も響く。
隙を作ってもらって、一撃で決めよう。
そう思って[無限保存庫]を開いたのだが、ベルハイトは、
「あ!ルカさん!あんまり凄いやつ使っちゃ駄目ですからね?!」
え。なぜ。
僕は取り出そうとしていた魔法を、思わず[無限保存庫]の奥に押し込んだ。
「タストラで使った火属性のやつ、上級魔法ですよね?!あんなものどこで入手したんですか!ここで上級魔法を使ったら、また危ない所で補充するつもりでしょ?!一人で!!魔窟で!!」
タストラで使った魔法……、[蒼炎の大槍]のことか。あの状態でほんとよく覚えてるな、この人。
入手したのは、とある魔窟の下層にいる、とある魔物からなのだが……。言ったら卒倒するだろうか。
「とにかくそういうのは、もっといざという時の為に取っておいてください!!」
Aランク推奨の魔物の攻撃を剣一本で捌きながら、よくあんなに喋れるものだ。Cランクであそこまで出来る者は、まずいないだろう。
そんなことを考えながら、仕方ないので別の魔法を取り出す。
「ベルハイトさん!足止めするのでトドメを!」
「!了解です!」
四元魔法・地属性[怨泥の沼]。
「ギャ?!」
瞬間、モデストラビットの両足が地面に沈み込む。周囲の地面は何の変化もないのに、モデストラビットの足だけがズブズブと、地面に呑み込まれていく。
「ギャギャ!!――ギュアッ?!!」
さらに地面から泥が伸び、藻掻くモデストラビットの足と腕に絡みついていく。
「――っ!」
その瞬間、ベルハイトが地面を蹴った。
一閃がモデストラビットの首に走り、ベルハイトはその背後に着地する。
藻掻いていたはずのモデストラビットは両腕をだらりと下げ、沈黙した。その首はゆっくりと身体からズレていき、やがてどさりと地面に落ちた。
「お見事です」
「はは……」
声をかけると、ベルハイトはへらりと笑った。
ドスンッ
ややあって、モデストラビット身体も倒れた。
僕はその腕から爪を数本取って、魔法鞄に仕舞う。討伐報酬を貰うには、これで充分だ。
「時間がかかるので、あとはギルドで解体してもらいます」
爪以外――本体を丸ごと[無限保存庫]につっこむ。
「ギルドの解体屋ですか?」
「はい。解体屋のラルゴさんには[無限保存庫]のことを話してあるので」
「なるほど。鮮度抜群の状態で持っていっても問題ない、と」
自分で解体できないこともないが、プロにやってもらったほうが、無駄なく綺麗に仕上がる。特にお肉。以前自分で解体した時に貴重な部位をボロボロにしてしまってからは、ラルゴに任せている。あの人は腕も確かで口も堅いので安心だ。
「そう言えばあの人達、無事に外に出られますかね?」
思い出したように言うベルハイトに、
「さぁ……。途中で魔物にちょっかい出していなければ、大丈夫だと思いますよ」
ここは中層の入り口なので、外に出るには上層を抜けるだけだ。ヤードベルカやグレーリンクスだけなら、あの逃げ足で走り抜けられるのではないだろうか。
「魔物に意味もなく、ちょっかい出す人なんているんですか?」
「いるんです。ベルハイトさんも会ったことある人ですよ」
そう答えると、ベルハイトはティモン達がヤードベルカに追いかけられていた理由を察したようで、呆れていた。
「――ん?なんだ、オマエらもいたのか」
予定外の事はあったが、無事にドラナト魔窟の外に出た僕とベルハイト。すると、そこには[真なる栄光]のゲイルがいた。
「あ、もう一人の……」
ベルハイトがゲイルを見て呟く。
ゲイルは街道のほうを親指で示し、
「少し前に、ティモン達が泣き叫びながら出てきたぜ。オマエら、何があったか知ってんだろ?」
「いろいろありましたけど……。強いて言うならモデストラビットがよほど怖かったのでは?」
そう答えると、ニールは吹き出した。
「だぁから、オレはやめろって言ったんだよ。なのにアイツら、人の話なんて聞かねぇの。仕方ねぇから、ギルドに報告はしてやったけどな」
「はぁ…。それで、ヴィクトルさんに様子を見てくるよう言われて来たんですか?――ニールさん」
僕の言葉にゲイルは一瞬だけ目を見開き、ニヤリと笑う。
その直後、ゲイルの姿がぐにゃりと歪んだ。
「――はははっ!!やっぱ気づいてたか!」
ゲイルの髪の色、目の色、肌の色。そして顔の造形が全く違うものに――否、元の姿に戻った。
……なんて事、今この場で考えてるのは僕だけだろうな。
全体的に丸みのあるフォルムと垂れた長い耳。くりっとした目とヒクヒク動く鼻。ここまでは普通のウサギだ。
重要なのは、その体高が二メートル以上あることと、丸めた両手から鋭い爪が覗いていること、耳の付け根から触覚が伸びていること。
モデストラビットは、ゆっくりとした足取りで、こちらへ近づいてくる。今のところ敵意は感じないが……。
僕とベルハイトは刺激しないよう警戒を崩さず、ティモン達は……、口を開けて固まっている。
やがて立ち止まった巨体のウサギは僕達を見渡し、
「きゅるるっ?」
丸い瞳を瞬かせ、こてん、と首を傾げる仕草をした。しばしの沈黙が流れる。
「……は…。なんだ、随分大人しいじゃないか」
一見愛らしい姿に緊張が解けたティモンが、無防備に一歩踏み出そうとして、
「!」
僕は真横からティモンを蹴り飛ばした。
吹き飛んだティモンの代わりに、その位置に滑り込んだ僕目がけて、モデストラビットが腕を振り下ろす。
ギィンッ!!
「ルカさん!!」
甲高い音とベルハイトの声。
僕は短剣二本で爪を受け止めたまま、後ろに声をかける。
「ティモンさんを連れて離脱してください」
しかし、呆然と立ち尽くしているベロニカとカミラ。その視線は、豹変したモデストラビットに縫い付けられている。
先程までの大きくとも愛らしい表情や仕草は影もなく、その目は吊り上がって血走り、口元は牙を剥き出しにし、毛を逆立てている。
「ギギャッ!!」
「!」
抑えていた爪を弾いて、後方に跳ぶ。
もう一振りの腕が空を切り、僕がいた場所を薙いだ。
「――な、なんだ?!誰だ?!今俺に攻撃したのは!!」
随分遠くでティモンが叫んでいる。事態を把握できていないようだ。
ティモンの声に我に返ったベロニカとカミラが彼に駆け寄り、
「なんかあのウサギ、思ってたのと違くない?!」
「そうよ!思っていたよりなんていうか、……そう!大きいわ!」
「だよね!あれは三人じゃ持てないでしょ!」
「ええ、持てないわ!なんの苦も無く討伐できるけれど、持てなければ意味ないわ!」
「?二人ともいったい、どうし……」
ベロニカとカミラの慌てように、ティモンはモデストラビットを見て、
「ひ……っ?!」
震え上がった。そして、
「こ、こここれはその……、想定外だな。うん…」
「だよね?!」
「そうよね!」
ベロニカとカミラが必死の形相で頷く。
「そう、そうだとも。だからこれは……」
ティモンはそろりと立ち上がり、
「戦略的撤退だ!!」
言うが早いか、一目散に逃げ出した。
「あっ!!また先に逃げるわけ?!」
「貴方が殿を務めるのが筋でしょう!!」
「ギャギャッ!!」
ドタバタと走り去るティモン達を、モデストラビットは見逃す気は無かったらしく、僅かな助走もなく跳躍すると、僕を飛び越えてティモン達の真後ろへ一気に迫った。
「無限保存庫・開放」
四元魔法・地属性[大地の護り]。
地面を伝って、ティモン達とモデストラビットの間に土の壁を発現させる。
ゴォンッ!!
「「「ぎゃーーーーーーーっ?!!」」」
鈍い音が響き、壁の向こうでティモン達が叫ぶ。しかし走り去る足音は遠ざかって行くので、難は逃れたようだ。
モデストラビットは土の壁に思い切り頭から突っ込んだが、ふらりと後ろによろめきながら、
「ギィギィギィギィギィ!!」
なぜかベルハイトに標的を変えた。
「ベルハイトさん!来ます!」
「!」
ベルハイトに飛びかかったモデストラビットは、両腕の猛攻を繰り出していく。それを剣一本で捌くベルハイト。
剣と爪がぶつかる音が何度も響く。
隙を作ってもらって、一撃で決めよう。
そう思って[無限保存庫]を開いたのだが、ベルハイトは、
「あ!ルカさん!あんまり凄いやつ使っちゃ駄目ですからね?!」
え。なぜ。
僕は取り出そうとしていた魔法を、思わず[無限保存庫]の奥に押し込んだ。
「タストラで使った火属性のやつ、上級魔法ですよね?!あんなものどこで入手したんですか!ここで上級魔法を使ったら、また危ない所で補充するつもりでしょ?!一人で!!魔窟で!!」
タストラで使った魔法……、[蒼炎の大槍]のことか。あの状態でほんとよく覚えてるな、この人。
入手したのは、とある魔窟の下層にいる、とある魔物からなのだが……。言ったら卒倒するだろうか。
「とにかくそういうのは、もっといざという時の為に取っておいてください!!」
Aランク推奨の魔物の攻撃を剣一本で捌きながら、よくあんなに喋れるものだ。Cランクであそこまで出来る者は、まずいないだろう。
そんなことを考えながら、仕方ないので別の魔法を取り出す。
「ベルハイトさん!足止めするのでトドメを!」
「!了解です!」
四元魔法・地属性[怨泥の沼]。
「ギャ?!」
瞬間、モデストラビットの両足が地面に沈み込む。周囲の地面は何の変化もないのに、モデストラビットの足だけがズブズブと、地面に呑み込まれていく。
「ギャギャ!!――ギュアッ?!!」
さらに地面から泥が伸び、藻掻くモデストラビットの足と腕に絡みついていく。
「――っ!」
その瞬間、ベルハイトが地面を蹴った。
一閃がモデストラビットの首に走り、ベルハイトはその背後に着地する。
藻掻いていたはずのモデストラビットは両腕をだらりと下げ、沈黙した。その首はゆっくりと身体からズレていき、やがてどさりと地面に落ちた。
「お見事です」
「はは……」
声をかけると、ベルハイトはへらりと笑った。
ドスンッ
ややあって、モデストラビット身体も倒れた。
僕はその腕から爪を数本取って、魔法鞄に仕舞う。討伐報酬を貰うには、これで充分だ。
「時間がかかるので、あとはギルドで解体してもらいます」
爪以外――本体を丸ごと[無限保存庫]につっこむ。
「ギルドの解体屋ですか?」
「はい。解体屋のラルゴさんには[無限保存庫]のことを話してあるので」
「なるほど。鮮度抜群の状態で持っていっても問題ない、と」
自分で解体できないこともないが、プロにやってもらったほうが、無駄なく綺麗に仕上がる。特にお肉。以前自分で解体した時に貴重な部位をボロボロにしてしまってからは、ラルゴに任せている。あの人は腕も確かで口も堅いので安心だ。
「そう言えばあの人達、無事に外に出られますかね?」
思い出したように言うベルハイトに、
「さぁ……。途中で魔物にちょっかい出していなければ、大丈夫だと思いますよ」
ここは中層の入り口なので、外に出るには上層を抜けるだけだ。ヤードベルカやグレーリンクスだけなら、あの逃げ足で走り抜けられるのではないだろうか。
「魔物に意味もなく、ちょっかい出す人なんているんですか?」
「いるんです。ベルハイトさんも会ったことある人ですよ」
そう答えると、ベルハイトはティモン達がヤードベルカに追いかけられていた理由を察したようで、呆れていた。
「――ん?なんだ、オマエらもいたのか」
予定外の事はあったが、無事にドラナト魔窟の外に出た僕とベルハイト。すると、そこには[真なる栄光]のゲイルがいた。
「あ、もう一人の……」
ベルハイトがゲイルを見て呟く。
ゲイルは街道のほうを親指で示し、
「少し前に、ティモン達が泣き叫びながら出てきたぜ。オマエら、何があったか知ってんだろ?」
「いろいろありましたけど……。強いて言うならモデストラビットがよほど怖かったのでは?」
そう答えると、ニールは吹き出した。
「だぁから、オレはやめろって言ったんだよ。なのにアイツら、人の話なんて聞かねぇの。仕方ねぇから、ギルドに報告はしてやったけどな」
「はぁ…。それで、ヴィクトルさんに様子を見てくるよう言われて来たんですか?――ニールさん」
僕の言葉にゲイルは一瞬だけ目を見開き、ニヤリと笑う。
その直後、ゲイルの姿がぐにゃりと歪んだ。
「――はははっ!!やっぱ気づいてたか!」
ゲイルの髪の色、目の色、肌の色。そして顔の造形が全く違うものに――否、元の姿に戻った。
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