底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第十九話 自称、友人

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 それは術者の姿形を変える魔法。
 幻影魔法[変幻自在の現プロティアン=ファクト]。

 ニールは幻影魔法と四元魔法・地属性、二つの魔法の適正を持っているらしい。

 [変幻自在の現プロティアン=ファクト]は以前僕が使った[偽りを装う鏡ギミック=ミラー]と違い、術者の前面に見えない壁を張って異なる姿を見せるのではなく、術者の姿形そのものが変化する魔法。
 
 「あ~ぁ。気づいてなきゃ、からかってやろうと思ったのに。つまんねえなぁ。……で?いつ気づいた?」

 つまんねぇ、と言うわりに何故か嬉しそうなニール。
 
 いつ気づいたかなんて、今ここで説明しないといけないのだろうか。指摘したことを少し後悔した。
 僕は息をつき、ゲイル――もとい、ニールに答える。

「おかしいと思ったのは、最初から。“ゲイル”さんが[真なる栄光]に加入したのは街道調査の依頼を受けたあとで、しかもティモンさんに紹介したのがヴィクトルさんだという点。始めから[真なる栄光]を問題視していたヴィクトルさんが、あえて彼らに新しいメンバーを紹介するのは、何か意図があるとしか考えられません。確信したのは、同行二日目ですけど」

「え、マジ?」

 ニールは意外そうに目を丸くした。

「言動がニールさんそのものだったので」

「おっと」

 わざとらしく肩を竦めるニールに畳みかける。

「喋り方も普段の仕草も戦い方も」

「おーおー」

「普段の仕草というのは、すぐに女性の腰を抱き寄せることですけど」

 “ゲイル”は事あるごとにカミラに思わせぶりな態度をとっていた。しかし知っている者が見れば、ニールが女性の腰に触れるのは“挨拶”と大差ない行為だ。

 ちなみに僕に対しては、「無反応すぎて触る意味がない」そうで、“挨拶”の対象から除外されている。

「ははっ!カミラのヤツ、満更でもなさそうだったろ?」

 それは否定しないが…、ろくでもない人だな。

 けらけら笑っているニールに呆れていると、ベルハイトが遠慮がちに近づいてきた。

「あのー…。俺にも分かるように説明してもらっても?」

 ……忘れてた。申し訳ない。

 僕が口を開く前に、ニールがベルハイトに向き直り、 

「一応、ハジメマシテ、か?オレはニール。アンタと同じ冒険者で、コイツの数少ない友人ダチだ」
 
「違います。ただの知人です」

 僕は自己紹介に混ぜられた誤情報を訂正しただけなのだが、ニールは不満そうにしている。

「なんだよ、つれねぇなぁ」

「冒険者ギルドで偶に会う度にウザ絡みしてくる人は、ただの知人です」

「照れんなよ。ウレシイくせに」

 ニヤニヤしながら頬をつついてくるニール。冗談だと分かっているが、毎度こうなので鬱陶しい。

 言い返せば言い返すだけ喜ぶ人なので、無表情でやり過ごしていると、ベルハイトが早足で近づいて来て、

「?」

「お?」

 僕の頬をつついていたニールの手を掴んだ。

「…………」

 しかしベルハイトは押し黙ったまま、何か気まずい顔をした後、掴んでいたニールの手首を離した。

「……へぇ~。なるほどねぇ」

 一方のニールは、その悪い笑みを何故が一層深くした。

 なんなんだ、いったい。

 取り敢えず、この二人は仲良くなるのに時間がかかりそうだという事だけさとった。

 とりあえず話を戻そう。
 
「ニールさんは、ヴィクトルさんのです」

「備え?」

 ベルハイトさんが僕に視線を戻した。

「[真なる栄光]が受けていた依頼は街道調査でした。彼らに任せるには、少し……かなり信用が足りない」

「僕が最後まで同行していれば、依頼の達成は可能でした。ですが、実際には途中で不当解雇されました。――ヴィクトルさんは、んです」

「ルカさんが不当解雇されることをですか?」

「正確に言うと、不当解雇それを含めた全てです」

「調査の遅延や放棄、調査はしたものの内容に不備があるなど様々な理由で依頼が未達成にならないよう、ニールさんをつけたんです」

 ヴィクトルが言っていた、「駄目な時の備え」とはニールのことだ。
 ティモン達が己の不始末で名を落とすのは勝手だが、依頼となれば依頼主がいる。事に街道調査は街道を使う全ての人の安全を守るためのものだ。達成できませんでした、では済まされない。
 [真なる栄光]にこの依頼を受けさせないという選択肢もあったが、ヴィクトルとしても彼らがやり遂げる事を願ってのことだろう。ニールを同行させることで、リスクを抑えた上で[真なる栄光]を送り出したのだ。

「往路の調査はルカのメモを使わせてもらったが、復路はオレが調査したってこと。アイツらヒデェんだぜ?自分達は乗合馬車で帰りやがって。オレは適当に理由をつけて、一人寂しく徒歩でのご帰宅だよ」

 寂しいだなんてしらじらしいが、ニールも大変だったのは事実だろう。

「で、そろそろアイツらともおさらばしようかって時に、ドラナトここに行くとか言い出すだろ?しかもお目当てはモデストラビットときた。そんなもん、面倒見きれるかよ」

 ニールはたまったもんじゃない、と大きく溜め息をつく。

「あのギルド長ハゲにティモン達がドラナトに行ったって報告したら、「お前暇だろ?ちょっと様子見てきてくれよ」だと。オレ一人で行ったところで、モデストラビットからアイツらを庇いながら逃げるなんて、難度高いってのに……、って思ってたが、なるほど。オマエらがいたってことか」

 よほど誰かに愚痴を言いたかったのか、よく喋る。いや、ニールは無口ではない。彼はいつも余計な事はよく喋る。

 ヴィクトルはニールが報告に来た時、僕とベルハイトがドラナト魔窟ダンジョンにいることを知っていたのだろう。

 だからと言って押し付けないでほしいが。

 ここで話していても無駄に時間が経つだけなので、三人で街道へ向かうことに。
 
 ニールはその道中も話したいことが尽きないようで、

「で?モデストラビットも、当然倒したんだろ?」

「襲ってきたので、仕方なく」

「相変わらず、よく分かんねえ運び屋ポーターだな、オマエ。なあ、一度オレと」

「嫌です」

 最後まで言わすものか。面倒くさい。

 ニールは不服そうに、親指でベルハイトを指す。

「なんでコイツはいいんだよ」

「貴方と違って真面目で誠実で信用できます」

「めっちゃ褒めるのな」

「事実ですから。あと、純粋で真っ直ぐで、貴方みたいに擦れてないです」

 どれだけニールとベルハイトが違うか分からせてやろうと思い、思ったことを口にしたのだが、何故かニールは憐れむような顔で僕を見る。

「……オマエさぁ、あんまソイツをイジメるなよ」

「?」

 僕がいつベルハイトを虐めたというのか。
 そう思って隣を見上げると、

「……どうしたんですか?」

 ベルハイトは両手で顔を覆っていた。

「……気にしないでください。発作のようなものです」

 それは……気にしなくていいのか?

 どうするべきか分からず固まっている僕を見て、ニールは一人で笑っている。

「あーぁ、泣かせてやんの」

「泣いてないっ」

 バッと顔を上げてニールを睨みつけるベルハイト。しかしニールはそれを躱すように話題を変える。

「そういや、ギルドに報告に行った時、オマエらに客が来てたぜ」

「「客?」」

 僕とベルハイトさんどちらかではなく、僕達に客とは。共通する人物が思い当たらず、二人で首を傾げた。

「なんつってたっけ。確か…、[風の]のインとかなんとか」

「[風のつるぎ]のカイン?」

 ベルハイトが言うと、ニールはなんとも適当に答える。

「あー。そんな名前だったかもな。あとそのメンバーが三人」

 [風のつるぎ]はユトスの冒険者パーティーだ。
 タストラ魔窟ダンジョンでベルハイトを救助した際、彼をユトスまで運んでもらった。

 カイン達には僕の存在は伏せてある。なのに僕とベルハイトを訪ねてきたということは……。

「タストラ魔窟ダンジョンのことかもしれません」

 調査結果を知らせるだけなら、手紙で事足りる。わざわざ人を寄越したということは、看過できない何かがあったと考えられる。

「ダイアーさん達、大丈夫かな……」

 ベルハイトが不安げに、調査の先頭に立っていたであろう冒険者の名前を上げた。

 今タストラ魔窟ダンジョンで何が起こっているのか把握していない以上、軽々しく大丈夫だと言うこともできず、僕は黙々と歩き続けた。

 そんな中。

 ニールはすっとベルハイトの横へ移動すると、その肩をガシッと掴み、

「ちょっとコイツ借りるぜ」

「は?ちょ…、なんで?!」

 有無を言わさずベルハイトを連行し、僕からだいぶ離れた後方を歩き出した。

 しばらく二人でコソコソと話していたかと思うと、急にベルハイトが何か声を上げたり、ニールがけらけら笑ったり。

 なんか急に仲良くなったな……。

 なぜか少し面白くないと思いながら、僕は一人、彼らから離れた位置を歩く。
 
 メルビアに着くまでの道中、ベルハイトとニールは終始そんな様子で、何を話していたのかは頑として教えてはくれなかった。
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