底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

文字の大きさ
56 / 73

〈別視点〉 ローガンの表と裏

しおりを挟む
 ユリウスの姉、マリーディアに会う手立てを探し回っていた時のこと。
 その日はお嬢ちゃんとソニア、ベルハイトとユリウスが一緒に行動し、俺は一人で街を回っていた。

 ニ時間ほど経った頃。カフェや書店などが立ち並ぶ通りの一角に見知った後ろ姿があり、目を細めて見やる。

「んん……?」

 ベルハイトとユリウスが、建物の影から何かを窺い見ている。サボりか?いや、それはないか。

 俺は気取られないよう背後から二人に近づき、

「な~にしてんの?」

「!?」「ぅわっ?!」

 二人の間から顔を出すと、ベルハイトは剣の柄に手をかけて振り返り、ユリウスは声を上げて飛び退いた。

「ロ、ローガン!何してるんだ!」

「驚かさないでくださいよ…」

「やだなぁ。声かけただけじゃないの」

 殺気も敵意も無いとはいえ、この程度で驚くとは、ベルハイトもまだまだ青い。

「で、若人達はここで何を見てたの?」

「…………」

「…………」

 そこで黙り込まれると、なおさら聞き出したくなるのが、人間のさがだ。
 俺は二人が見ていた方向を見た。そこには何の変哲もない一件の本屋がある。

「本屋?」

 俺が首を傾げると、ベルハイトは頬をかきながら、

「俺の妹が、よく利用してる店なんです。自分で足を運んで選ぶのが好きで、授業が終わってから立ち寄ることもあるって言っていたので、運が良ければ顔を見られるかな……と」

 今は状況が状況なだけに、すぐそこに暮らしている家族に会いに行くのも控えている。

「そっかー。ベルハイトくん、妹ちゃん想いだねぇ」

「え?いや俺は……。そりゃ長く会ってないので見られたら嬉しいですけど今日来たのは…………、あ」

 ベルハイトは何故か、しまった、という顔になった。つまりここへ来た目的は、ベルハイトが妹の様子を見たくて、ということではないようだ。しかし、ここにはあと一人しかいない。

 俺がユリウスを見ると、彼は顔を真っ赤にしていた。

「ん?え?どういうこと?」

 ユリウスの反応の理由が分からずベルハイトを振り返ると、小声で衝撃的な話を聞かされた。

「ユリウスくん、ベルくんの妹ちゃんが好き、ぅぐっ!」

 つい大きめの声をだしたら、ベルハイトに脇腹を殴られた。ユリウスは慌てて、

「!!ち、違う!そういうのじゃ……っ」

「ないの?ほんとに?」

「う、……っ」

 問い詰めると、ユリウスはそっぽを向いてしまった。少しからかい過ぎたか。
 俺とユリウスのやりとりを見ていたベルハイトが、苦い顔をしていたる。たぶん、身に覚えのある会話だったのだろう。本当に分かりやすい。

 ということは、ユリウスがその子の顔を見たくて、情報収集ついでにその子が来そうな場所も回っていたということか。

 今なお真っ赤な顔のまま、ユリウスは小さな声で、

「べ、別に……友人が元気かどうか、確認くらいするだろう……」

「そうだねぇ」

「そうですね」

 俺も、たぶんベルハイトも、「友人ねぇ…」と内心では思っているが、口には出さない。

 いろいろ片付いたら、この事も酒の肴にしてトラヴァスと呑もうと決めた。





 翌日。
 研究院の調査であの魔石が人工魔石であることが分かり、それについて探ることになった。
 俺はひとり、大通りからだいぶ外れた、少々廃れた雰囲気の路地を訪れた。
 王都といえど広い。中心地から離れてしまえば、後ろ暗い奴らがたむろする場所や、その日を暮らすのもままならない人間が暮らす場所も、少なからずある。

 人工魔石のような、世の中の表にあってはいけないものを探すなら、当然、裏を調べることになる。こういった時、情報を得るには本職を頼るのが最も効率がいい。

 あいつが逃げ込んでるとしたら、この辺か……。

 俺は目星をつけた辺りの小屋を、順に調べていく。ほとんどが空き家。たまに人がいたりするが、空き家に住みついてるだけなので、こちらを気にも留めていない。

 何件目かの扉をこじ開けた時、

 ガタンッ、ガタガタッ

 奥で物音がした。さらに、まるで気配を殺すような微かな衣擦れの音も。俺は槍を手に取る。
 音が真横の部屋に来た時、そこに面した壁を槍で突き刺した。

「ひぎゃあっ?!」

 間抜けな悲鳴を確認して、隣室へ続く扉を開けると、壁を貫通した槍の穂先に、顔を突かれる寸前の男がいた。
 
「バライザからトンズラしたかと思ったら、やっぱりこっちにいたんだ?ま、今回はいいタイミングだけど」

「ロ、ロロロ、ローガン……ッ?!」

 尻もちをついたままガタガタと震える男から槍を逸らしてやると、まるで悪魔でも見たかのような表情を、男はさらに引き攣らせた。

「なぁに?その顔。久しぶりだってのに、随分な態度じゃないの」

 別に愛想良くしてほしいわけじゃないが。

 この男は元々はバライザで活動していた、いわゆる情報屋だ。半年ほど前、急に姿を消したので冒険者ギルドも探していたのだが、やはりバライザから入国しやすい、オルベリアに来ていたようだ。

 オルベリアの情報屋を探してもいいのだが、この男とはので、頼み事がしやすい。

 男はほんの少し後ろへ下がり、

「な、なんでここに…っ」

「なんでって……。それ、君に言う必要ある?」

 そう言って見下ろせば、男は途端に口を噤んだ。黙るなら最初から訊かなければいいのに。

 この男と無駄話をするような仲ではないので、本題に入ることにする。

「変わった魔石の情報、入ってない?」

「か、変わった魔石?」

「そ。なんか変な魔石が出回ってるって聞いたんだけど」

 男はじっとこちらを見たあと、緊張からか、ごくりと喉を鳴らした。

「いや……そんな話、特には……」 

「無いの?ほんとに?」

 槍の柄で軽く男の肩を叩く。

「ほ、本当だって!神に誓ってもいい!」

 そんなことを言うものだから、俺は思わず吹き出した。

「君がどこの神サマに誓うってのさ。信仰心なんてないくせに」

 この男は肝が小さいので、軽く脅せはすぐに吐くのは分かっている。喋らないということは、おそらく本当に手元に情報は無いのだろう。

 無いのなら、手に入れてもらえばいいだけだ。

「じゃあ、調べといてね。三日あげるから」

「え」

「嫌なの?」

「いいいいや!あ、嫌じゃないです、はい!」

 急に正座して姿勢を正す男。俺はその様子に溜め息をつきながら、

「分かってると思うけど」

 槍の石突いしづきで男の額を小突く。

「逃げたりしたら、今度はほんとに穴開けるから。しっかり仕事してね?」

 まるで壊れた玩具おもちゃのようにコクコクと頷く男を後目しりめに、俺はその場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓
ファンタジー
「…ここは、どこ?」  …私、そうだ。そういえば… 「貴女、ここで何をしておる」 「わっ」  シュバッ 「…!?」  しまった、つい癖で回り込んで首に手刀を当ててしまった。 「あっ、ごめんなさい、敵意は無くて…その…」  急いで手を離す。  私が手刀をかけた相手は老人で、人…であはるが、人じゃない…? 「ふははは! よかろう、気に入ったぞ!」 「…え?」  これは暗殺者として頂点を飾る暗殺者が転生し、四大精霊に好かれ、冒険者として日銭を稼ぎ、時に人を守り、時に殺め、時に世界をも救う…。そんな物語である…!

処理中です...