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第四十八話 それが示すのは
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ピエニモンキーとは。
体長三十センチ程の小柄な体躯に、長い尻尾。くりっとした丸い目に、少し大きめの耳。つまり有り体に言えば子ザルのような魔物で、サルとのはっきりとした違いは、背中の毛が針のように硬質化している点くらいだ。特筆するならその知能は高く、ピエニモンキーを手懐けて大道芸をしている者もいると聞いたことがある。
そこにいるだけなら、可愛いとも言える見た目。こちらから手を出さない限り、向こうから襲ってくることはまず無いとされている。しかし彼らは食い意地が張っているらしく、食べ物が絡むと敵意を剥き出しにしてくる。
それはおそらく、今目の前にいるピエニモンキーの様子そのものかもしれない。
「キッ!キキィ!」「キキキッ!」
現れたピエニモンキー達は、しきりに何か訴えるように鳴き続けている。しかもそれは、僕一人に対して向けられているようで。
「僕、怒られてる……?」
こちらは五人いるというのに、なぜ僕にだけ敵意剥き出しなのか。
「……もしかして」
ふいにローガンがぽつりと呟いた。
「お嬢ちゃんのこと、縄張りを荒らした同種だと思ってるんじゃない?」
縄張りは分かるが、同種とはどういう意味だ。
「キイ!」
ローガンの言葉を肯定するように、一匹が一際大きく鳴いた。
「お嬢ちゃんから、あの赤い実の匂いでもするのかもねぇ」
「キイキイッ!」
これも肯定だろうか。
知能が高いとは聞くが、もはや会話が成立している。
それはともかく。
僕がレッドモメントを全部穫ってしまったのなら怒るのも分かるが、まだたくさん生っている。それなのに穫ったものを寄越せとは何事か。
「まだ生ってるよ」
僕がレッドモメントの木がある方向を指差して言うと、
「キィッ!!」「キキキッ!」
ピエニモンキー達は小さな足をタンタンと踏み鳴らし、さらなる不服申し立てをしてきた。
これはあれか。全部オレたちのものだ、的なことか。
以前ドラナト魔窟で、ヤードベルカに木の実をあげたことがあったが、あれはそもそも、仕事に支障が出ないよう穏便に移動してもらうための対価としてあらかじめ用意していたものであり、ヤードベルカをティモン達から解放するための手段だった。つまり、そうする必要があったのだ。
しかし今回は違う。
対価を払う必要もなければ、身の安全も懸かっていない。ゆえに、選択肢は“拒否”の一択。
僕は息をついてから一歩だけ前に出て、ピエニモンキーを視線だけで見下ろした。
「これはあげない。自分で、穫って、きなさい」
「キッ?!………………キ、キィ…………」
一言一言刻みつけるように言うと、ピエニモンキーはプルプルと震えてから、へたりと尻尾を下げ、茂みの中へ去っていった。
「あんなに悄気なくてもいいのに」
腑に落ちず呟くと、ローガンがからから笑いながら、
「お嬢ちゃんが圧かけるからでしょ。今のは完全に、群れのお頭じゃん」
「サルの頭領になった覚えは無いです」
「木の登り方と下り方は、頭領の貫禄がありましたけどね」
ベルハイトが意地の悪い言い方でニコリと笑うので、僕は精一杯の抵抗として、わざとらしく両耳を塞いだ。
「ありました。あそこです」
ピエニモンキー遭遇から数時間後。今日の野営地に定めていた横穴に到着した。
ここへ来るのも一年ぶりなので、荒れていたり、獣の棲家になったりしていないか多少の懸念はあったが、どうやら大丈夫そうだ。
野営の準備を一通り終え、皆で一段落しながら今後の話をする。
「メルビアに着いたら、先にピエニモンキーのことを冒険者ギルドに報告してきます」
確定事項として告げると、ベルハイトが確認するように問う。
「去年はいなかったんですね?」
それに頷くと、ローガンも「あらら」と眉を寄せた。
遭遇しただけの魔物の存在を報告する。これが何を意味するのか、冒険者であるベルハイトとローガンは察したようだ。
「前回たまたま、いなかったんじゃないのか?」
僕はユリウスの問いは否定せず、
「ピエニモンキーは、簡単に縄張りを変える魔物じゃないんです」
という前提を前置きしてから、考えられる可能性の話をする。
「今回、すぐに僕達に気づいたということは、レッドモメントがあった近くに棲家があるんだと思います。食べ物に強い執着がある彼らが前回、姿を見せなかったということは、去年のこの時期は、ここにいなかった可能性が高いです」
「じゃあ、この一年でどこからか移動してきたということか」
ユリウスが合点がいったように言ったので、僕はさらに続ける。
「気になるのは、縄張りを変えた理由です。ピエニモンキーに限らず、魔物や普通の動物が縄張りを変える理由は、主に生存と繁殖に必要な要素が不足、または変動した場合だと言われています。重要なのは理由がどちらか、何故それらが不足または変動したのかという点です」
静かに聞いていたソニアが「あ」と口を開く。
「たとえば、食糧の不足が理由なら、そもそも食糧が足りなくなった原因は何か、ということですか?」
「そうです」
仮に“理由”が分かったとしても、“原因”が分からなければ、同様の事象が繰り返されることになる。事が生き物絡みなだけに、その原因は可能な限り解明し、対処する必要がある。
魔物の種類によっては、その活動範囲の移動一つで周囲の環境が変わることもある。他の生物の生息を妨げたり、人里の近くであれば、その生活を脅かす存在にもなりえる。
「特に魔物は生命力が強く、多少の変動には適応することが可能です。それにも関わらず棲家を移したということは、余程の原因があったのだと思います」
魔物の変化について、冒険者ギルドへ報告する必要は常にある。それに加えて今は、実際に魔物に影響を与えていた人工魔石の存在も気がかりだ。これがピエニモンキーの件に関係しているかは不明だが、どちらにしても、事が大きくならないうちに調査するにこしたことはない。
ピエニモンキーの移動は生存や繁殖のためか、あえて言及はしなかったが、それ以外の理由か。
可能性だけならば幾つもあったが、今は不安を煽るだけなので口にはせず、
「そろそろ食事にしましょうか」
[無限保存庫]から、王都で買い込んだ温かい食事と、デザートのレッドモメントを取り出した。
体長三十センチ程の小柄な体躯に、長い尻尾。くりっとした丸い目に、少し大きめの耳。つまり有り体に言えば子ザルのような魔物で、サルとのはっきりとした違いは、背中の毛が針のように硬質化している点くらいだ。特筆するならその知能は高く、ピエニモンキーを手懐けて大道芸をしている者もいると聞いたことがある。
そこにいるだけなら、可愛いとも言える見た目。こちらから手を出さない限り、向こうから襲ってくることはまず無いとされている。しかし彼らは食い意地が張っているらしく、食べ物が絡むと敵意を剥き出しにしてくる。
それはおそらく、今目の前にいるピエニモンキーの様子そのものかもしれない。
「キッ!キキィ!」「キキキッ!」
現れたピエニモンキー達は、しきりに何か訴えるように鳴き続けている。しかもそれは、僕一人に対して向けられているようで。
「僕、怒られてる……?」
こちらは五人いるというのに、なぜ僕にだけ敵意剥き出しなのか。
「……もしかして」
ふいにローガンがぽつりと呟いた。
「お嬢ちゃんのこと、縄張りを荒らした同種だと思ってるんじゃない?」
縄張りは分かるが、同種とはどういう意味だ。
「キイ!」
ローガンの言葉を肯定するように、一匹が一際大きく鳴いた。
「お嬢ちゃんから、あの赤い実の匂いでもするのかもねぇ」
「キイキイッ!」
これも肯定だろうか。
知能が高いとは聞くが、もはや会話が成立している。
それはともかく。
僕がレッドモメントを全部穫ってしまったのなら怒るのも分かるが、まだたくさん生っている。それなのに穫ったものを寄越せとは何事か。
「まだ生ってるよ」
僕がレッドモメントの木がある方向を指差して言うと、
「キィッ!!」「キキキッ!」
ピエニモンキー達は小さな足をタンタンと踏み鳴らし、さらなる不服申し立てをしてきた。
これはあれか。全部オレたちのものだ、的なことか。
以前ドラナト魔窟で、ヤードベルカに木の実をあげたことがあったが、あれはそもそも、仕事に支障が出ないよう穏便に移動してもらうための対価としてあらかじめ用意していたものであり、ヤードベルカをティモン達から解放するための手段だった。つまり、そうする必要があったのだ。
しかし今回は違う。
対価を払う必要もなければ、身の安全も懸かっていない。ゆえに、選択肢は“拒否”の一択。
僕は息をついてから一歩だけ前に出て、ピエニモンキーを視線だけで見下ろした。
「これはあげない。自分で、穫って、きなさい」
「キッ?!………………キ、キィ…………」
一言一言刻みつけるように言うと、ピエニモンキーはプルプルと震えてから、へたりと尻尾を下げ、茂みの中へ去っていった。
「あんなに悄気なくてもいいのに」
腑に落ちず呟くと、ローガンがからから笑いながら、
「お嬢ちゃんが圧かけるからでしょ。今のは完全に、群れのお頭じゃん」
「サルの頭領になった覚えは無いです」
「木の登り方と下り方は、頭領の貫禄がありましたけどね」
ベルハイトが意地の悪い言い方でニコリと笑うので、僕は精一杯の抵抗として、わざとらしく両耳を塞いだ。
「ありました。あそこです」
ピエニモンキー遭遇から数時間後。今日の野営地に定めていた横穴に到着した。
ここへ来るのも一年ぶりなので、荒れていたり、獣の棲家になったりしていないか多少の懸念はあったが、どうやら大丈夫そうだ。
野営の準備を一通り終え、皆で一段落しながら今後の話をする。
「メルビアに着いたら、先にピエニモンキーのことを冒険者ギルドに報告してきます」
確定事項として告げると、ベルハイトが確認するように問う。
「去年はいなかったんですね?」
それに頷くと、ローガンも「あらら」と眉を寄せた。
遭遇しただけの魔物の存在を報告する。これが何を意味するのか、冒険者であるベルハイトとローガンは察したようだ。
「前回たまたま、いなかったんじゃないのか?」
僕はユリウスの問いは否定せず、
「ピエニモンキーは、簡単に縄張りを変える魔物じゃないんです」
という前提を前置きしてから、考えられる可能性の話をする。
「今回、すぐに僕達に気づいたということは、レッドモメントがあった近くに棲家があるんだと思います。食べ物に強い執着がある彼らが前回、姿を見せなかったということは、去年のこの時期は、ここにいなかった可能性が高いです」
「じゃあ、この一年でどこからか移動してきたということか」
ユリウスが合点がいったように言ったので、僕はさらに続ける。
「気になるのは、縄張りを変えた理由です。ピエニモンキーに限らず、魔物や普通の動物が縄張りを変える理由は、主に生存と繁殖に必要な要素が不足、または変動した場合だと言われています。重要なのは理由がどちらか、何故それらが不足または変動したのかという点です」
静かに聞いていたソニアが「あ」と口を開く。
「たとえば、食糧の不足が理由なら、そもそも食糧が足りなくなった原因は何か、ということですか?」
「そうです」
仮に“理由”が分かったとしても、“原因”が分からなければ、同様の事象が繰り返されることになる。事が生き物絡みなだけに、その原因は可能な限り解明し、対処する必要がある。
魔物の種類によっては、その活動範囲の移動一つで周囲の環境が変わることもある。他の生物の生息を妨げたり、人里の近くであれば、その生活を脅かす存在にもなりえる。
「特に魔物は生命力が強く、多少の変動には適応することが可能です。それにも関わらず棲家を移したということは、余程の原因があったのだと思います」
魔物の変化について、冒険者ギルドへ報告する必要は常にある。それに加えて今は、実際に魔物に影響を与えていた人工魔石の存在も気がかりだ。これがピエニモンキーの件に関係しているかは不明だが、どちらにしても、事が大きくならないうちに調査するにこしたことはない。
ピエニモンキーの移動は生存や繁殖のためか、あえて言及はしなかったが、それ以外の理由か。
可能性だけならば幾つもあったが、今は不安を煽るだけなので口にはせず、
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