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キャロルについて
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素材集めにうってつけの平原から町までは、そう遠くない。
「ふう……ずっとスライムを追いかけ回したから、へとへとです……」
カンタヴェールに帰ってくる頃には、俺はへとへとになってた。
そりゃそうだ、向こうの世界にいた時も体育系の部活には入ってなかったし、運動会じゃあ補欠の常連だったんだぞ。
タフな異世界生活に体がついていけないのも、無理はないだろ。
「なんだ、随分とへなちょこだな! 俺っちがお前さんの年のころには、すっぽんぽんで山をひとつ超えたってのによ!」
それは牛角族の皆さんがタフなだけでは。
「次の素材集めでも同じようにへばったら困るし――よし、決めた!」
なんて考えているうち、ブランドンさんがポン、と手を叩いた。
「イオリ、お前さんがこっちの世界でもやっていけるように、明日から俺っちがみっちり鍛えてやる! 牛角族みたいなムキムキマッチョにしてやるぜ!」
「え、ええーっ!?」
すっかり疲れた体で、俺は跳び上がった。
ブランドンさんみたいな体になった自分を想像したんだから、当然だ。
「安心しな、いきなりキツイこたぁ言わねえからよ! 初日だし、そうだな、腕立て腹筋背筋スクワットを500回ずつ、3セットだ!」
おまけにアスリートですら敬遠しそうなメニューを考案したんだから、いよいよ俺は命の危機まで覚えてしまった。
腕立て伏せも腹筋も背筋もスクワットも、どう頑張っても30回が限界なのに。
500回×3セットなんてやった日にはマジで筋肉が爆発するぞ。
「いやいやいや、俺を殺す気ですか!?」
「なーに甘えたこと言ってんだ、キャロルだってこれくらいは余裕でこなすぞ?」
「いくらなんでも、それは嘘でしょう――」
手を振って慌てる俺の後ろから、小さな声が聞こえてきた。
「……ほ、本当……です」
階段を下りてきたのは、ちょっぴり不服そうな顔をしたキャロルだ。
「あ、キャロル!」
俺が声をかけると、彼女は顔を手で隠して、そそくさと俺の後ろを走り去る。
「……ご、ごめんなさい。私、素材を取りに、行ってきます……」
なんというか、話したくないと言われてるような。
転移者は危ないって言われることが多いみたいだし、まだ警戒されてるのかも。
「キャロル、遅くなる前に帰って来いよ!」
「分かってる……」
アイテムショップの扉に手をかけて、顔も見せずにキャロルが言った。
「それと、お父さん……イオリさんに、変なこと言わないで……!」
そしてちょっぴり語気を強め、勢いよく扉を閉めて外に出て行ってしまった。
……やっぱり距離を置かれてる?
……俺、嫌われてるのかも?
「ありゃあ、すっかり反抗期だな……どうした、イオリ?」
ブランドンさんが首を傾げるくらいには、俺は複雑な表情をしてるみたいだ。
このまま黙ってるのも良くないし、いっそ打ち明けてみるか。
「いや、その……俺、キャロルに嫌われるようなことしちゃったかもって思ったんです。なんだか、距離を置かれてるような気がしたので……」
「そりゃ心配しなくていいぜ。あの子は昔から、ああなんだよ」
胸のうちの不安をよそに、ブランドンさんが言った。
「もしも嫌いな相手なら、キャロルは顔を出さないし無視するさ。第一、お前さんの相手をするときはいつもよりずっと楽しそうだぞ?」
「本当ですか?」
「おっと、気づいてねえのか? お前さんが店にいる時、扉の影から見てるんだぜ」
籠を置き、ブランドンさんが椅子に座る。
俺もつられて、テーブルを挟んでブランドンさんの向かい側に腰かけた。
「もしかしたら、イオリに気があるのかもな、がはは!」
女の子から気があると言われて、俺の口端が自然ににやけてしまう。
そりゃあ、キャロルみたいなかわいい子が自分を好いてくれているかも、と聞いたら誰だって今の俺みたいな気持ち悪い顔になるだろ。
「ま、まっさかぁ! 俺みたいな陰キャラに、キャロルが――」
「だが、一応忠告しとくぜ」
照れながら頭を掻く俺の言葉は、不意に遮られた。
いつの間にか右手に鉄くずを握っている、ブランドンさんの鋭い声で。
「あの子は母親に似て美人だが、まだ14だ。何かと大人びたくなる年頃でも、まだまだ子供だからな。近寄ってくる男は、俺っちが全部追い払うと決めてる」
彼は話しながら、ぎゅう、ぎゅう、と鉄くずを手のひらの中で丸める。
俺がどれだけ力を入れても曲がりそうもない鉄の欠片が、どんどん変形してゆく。
「イオリ、同じ屋根の下に住む者同士として仲良くなるのは大歓迎だ。でも、万が一、もしも、お前さんがキャロルを泣かすようなことをしたら――」
ムキムキの筋肉が膨れて、首筋と額にピキピキと血管が浮き出るほど力を込めたブランドンさんは、鉄くずをテーブルの上に転がした。
不規則な形の鉄くずは、すっかりキレイな球体になっていた。
「――こうなるぜ。覚えときな」
そしてブランドンさんの顔は、笑っていた。
俺だって笑い返したかった――彼の目が血走っていて、『ビキッ!?』『バキッ!?』とかいう擬音が聞こえそうな形相をしてなければ。
この人が本気になれば、いや、ならなくても俺をこうするのは造作もないに違いない。
「……き、肝に銘じます」
背中がびっしょり濡れるほどの汗を流しながら頷くと、ブランドンさんはやっと、いつものように笑ってくれた。
「昼からはアイテムの合成だ、『スライムのコア』と『琥珀膿汁』を準備しといてくれ! そんじゃ、俺っちは昼飯の準備をしてくるからな!」
椅子から立ち上がり、彼が大股で店の奥へと歩いていく。
ブランドンさんの姿が見えなくなって、俺はやっと息を吐くことができた。
(コワ~……)
ころり、と転がった鉄球に自分の頭を重ねてしまう。
冗談であってほしい、と俺は心から願った。
「ふう……ずっとスライムを追いかけ回したから、へとへとです……」
カンタヴェールに帰ってくる頃には、俺はへとへとになってた。
そりゃそうだ、向こうの世界にいた時も体育系の部活には入ってなかったし、運動会じゃあ補欠の常連だったんだぞ。
タフな異世界生活に体がついていけないのも、無理はないだろ。
「なんだ、随分とへなちょこだな! 俺っちがお前さんの年のころには、すっぽんぽんで山をひとつ超えたってのによ!」
それは牛角族の皆さんがタフなだけでは。
「次の素材集めでも同じようにへばったら困るし――よし、決めた!」
なんて考えているうち、ブランドンさんがポン、と手を叩いた。
「イオリ、お前さんがこっちの世界でもやっていけるように、明日から俺っちがみっちり鍛えてやる! 牛角族みたいなムキムキマッチョにしてやるぜ!」
「え、ええーっ!?」
すっかり疲れた体で、俺は跳び上がった。
ブランドンさんみたいな体になった自分を想像したんだから、当然だ。
「安心しな、いきなりキツイこたぁ言わねえからよ! 初日だし、そうだな、腕立て腹筋背筋スクワットを500回ずつ、3セットだ!」
おまけにアスリートですら敬遠しそうなメニューを考案したんだから、いよいよ俺は命の危機まで覚えてしまった。
腕立て伏せも腹筋も背筋もスクワットも、どう頑張っても30回が限界なのに。
500回×3セットなんてやった日にはマジで筋肉が爆発するぞ。
「いやいやいや、俺を殺す気ですか!?」
「なーに甘えたこと言ってんだ、キャロルだってこれくらいは余裕でこなすぞ?」
「いくらなんでも、それは嘘でしょう――」
手を振って慌てる俺の後ろから、小さな声が聞こえてきた。
「……ほ、本当……です」
階段を下りてきたのは、ちょっぴり不服そうな顔をしたキャロルだ。
「あ、キャロル!」
俺が声をかけると、彼女は顔を手で隠して、そそくさと俺の後ろを走り去る。
「……ご、ごめんなさい。私、素材を取りに、行ってきます……」
なんというか、話したくないと言われてるような。
転移者は危ないって言われることが多いみたいだし、まだ警戒されてるのかも。
「キャロル、遅くなる前に帰って来いよ!」
「分かってる……」
アイテムショップの扉に手をかけて、顔も見せずにキャロルが言った。
「それと、お父さん……イオリさんに、変なこと言わないで……!」
そしてちょっぴり語気を強め、勢いよく扉を閉めて外に出て行ってしまった。
……やっぱり距離を置かれてる?
……俺、嫌われてるのかも?
「ありゃあ、すっかり反抗期だな……どうした、イオリ?」
ブランドンさんが首を傾げるくらいには、俺は複雑な表情をしてるみたいだ。
このまま黙ってるのも良くないし、いっそ打ち明けてみるか。
「いや、その……俺、キャロルに嫌われるようなことしちゃったかもって思ったんです。なんだか、距離を置かれてるような気がしたので……」
「そりゃ心配しなくていいぜ。あの子は昔から、ああなんだよ」
胸のうちの不安をよそに、ブランドンさんが言った。
「もしも嫌いな相手なら、キャロルは顔を出さないし無視するさ。第一、お前さんの相手をするときはいつもよりずっと楽しそうだぞ?」
「本当ですか?」
「おっと、気づいてねえのか? お前さんが店にいる時、扉の影から見てるんだぜ」
籠を置き、ブランドンさんが椅子に座る。
俺もつられて、テーブルを挟んでブランドンさんの向かい側に腰かけた。
「もしかしたら、イオリに気があるのかもな、がはは!」
女の子から気があると言われて、俺の口端が自然ににやけてしまう。
そりゃあ、キャロルみたいなかわいい子が自分を好いてくれているかも、と聞いたら誰だって今の俺みたいな気持ち悪い顔になるだろ。
「ま、まっさかぁ! 俺みたいな陰キャラに、キャロルが――」
「だが、一応忠告しとくぜ」
照れながら頭を掻く俺の言葉は、不意に遮られた。
いつの間にか右手に鉄くずを握っている、ブランドンさんの鋭い声で。
「あの子は母親に似て美人だが、まだ14だ。何かと大人びたくなる年頃でも、まだまだ子供だからな。近寄ってくる男は、俺っちが全部追い払うと決めてる」
彼は話しながら、ぎゅう、ぎゅう、と鉄くずを手のひらの中で丸める。
俺がどれだけ力を入れても曲がりそうもない鉄の欠片が、どんどん変形してゆく。
「イオリ、同じ屋根の下に住む者同士として仲良くなるのは大歓迎だ。でも、万が一、もしも、お前さんがキャロルを泣かすようなことをしたら――」
ムキムキの筋肉が膨れて、首筋と額にピキピキと血管が浮き出るほど力を込めたブランドンさんは、鉄くずをテーブルの上に転がした。
不規則な形の鉄くずは、すっかりキレイな球体になっていた。
「――こうなるぜ。覚えときな」
そしてブランドンさんの顔は、笑っていた。
俺だって笑い返したかった――彼の目が血走っていて、『ビキッ!?』『バキッ!?』とかいう擬音が聞こえそうな形相をしてなければ。
この人が本気になれば、いや、ならなくても俺をこうするのは造作もないに違いない。
「……き、肝に銘じます」
背中がびっしょり濡れるほどの汗を流しながら頷くと、ブランドンさんはやっと、いつものように笑ってくれた。
「昼からはアイテムの合成だ、『スライムのコア』と『琥珀膿汁』を準備しといてくれ! そんじゃ、俺っちは昼飯の準備をしてくるからな!」
椅子から立ち上がり、彼が大股で店の奥へと歩いていく。
ブランドンさんの姿が見えなくなって、俺はやっと息を吐くことができた。
(コワ~……)
ころり、と転がった鉄球に自分の頭を重ねてしまう。
冗談であってほしい、と俺は心から願った。
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