秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
172 / 463
第四章 秘伝と導く音色

172 浄化剤です

しおりを挟む
別荘にやってきて二日目。

高耶が朝方の術のせいでまだ眠っていたこともあり、午前中、源龍は迅と別荘周辺の調査をしていた。

「うわぁ……これが霊穴の影響ってやつですか……怨霊が多くない?」
「確かにね……まだ力はそれほど出せないようだけど……この数はちょっと……」

霊穴の影響で、周辺の怨霊達が集まっているらしい。場所を移動してきたことで、それこそ崖崩れを起こしたりという力はまだないが、そこここに顔を出すので気持ち悪くて仕方がない。

「払っても払っても意味がないっていうのはこういうのを言うんだね……」
「榊さんでも初めてですか?」
「ないよ。高耶くんならありそうだけど……」
「やっぱスゴいんだなあっ」

高耶を褒める言動に、迅は敏感だ。それはもう、一気にテンションが上がる。

「高耶くんのこと、すごく好きなんだね」
「もちろんッ! 俺、童顔なんで、結構周りにナメられること多くて。なんで腕っぷしだけには自信を付けて、そういう連中を片っ端から投げ飛ばしてたんですけど、それで俺もちょっと調子に乗ってたっていうか……」

警察に入ってからも、負けることもほとんどなく、高く伸びた鼻はそれはもう周りを寄せ付けなかった。

「多分、それをゲンさんが気にしたんです。ある日、高耶くんに会いました。稽古を付ける側として来た高耶くんは、まだ中学生で……ちょっとイラっとしましたね」

もう誰も自分を童顔だとバカにできないという自信。それが目を曇らせていた。

「投げ飛ばされた時、何が起きたのか分からなかったんですよ……何度も何度も投げ飛ばされて、ようやく勝てない相手だって気付きました」

初めて負けたという気になった。今までは、誰かに負けると、体格差があったからとか、年齢的に経験が足りないとか理由を付けて納得していたのだ。だから、負けたという気はそれほど感じなかった。


『あんた。何と戦ってんだ? きちんと目の前の俺を見ろよ。あと、変な言い訳とか考えんな。誰だって負ける時は負ける。まずはそれを認めろ。それからなんで負けたかじゃなく、どうやったら勝てるかを考えろ。逃げんなよ?』


そう言われて次の相手に移っていった。その背中が、とても大きく見えた。

その上、自分自身が童顔や背の低いことを理由にしていたとに気付き、思いっきり恥じた。それを、高耶には見抜かれたと分かったのだ。

「も~、アレは痺れたっ。カッコ良すぎ! 思わず『師匠!』って呼びそうになりましたもん。心からっ。あの気持ち……もう一度感じたいッ!!」
「それは……かっこいいね」
「でっしょ!!」

このキラキラ、興奮状態の迅のお陰で、こういった雰囲気が大っ嫌いな怨霊達が幾つか浄化された。それを見た源龍は頬を引きつらせる。

「……うわぁ……スゴいな……これも高耶君効果……ちょっと自信失くす……」
「それからですねー……」

高耶君自慢を止めどなく続ける迅を引き連れて歩き回るだけで、怨霊達が半分近く消えていくのだからどうなのかと思う。

源龍はもう、迅を天然の浄化剤だと思うことにした。

「……高耶くんとそんなに一緒に居られないし……だからここ最近、本当に転職を考えてるんですよ!」
「刑事辞めてどうするの?」

除草剤でも撒いている気持ちになったことで、源龍も余裕が出てくる。なので、律儀に会話に付き合っていた。

「高耶くんの補佐ってどうやったらなれると思います!?」
「補佐……それ、今の私の立場かな?」
「代わってくださいッ!」
「イヤだよ」
「何で!? 俺の熱い気持ち分かってくれましたよね!? それを知ってもダメなの!?」
「ダメだよ。私は今、この位置を気に入ってるんだから」

本気でムッとした源龍だ。自分がそこまでこの位置に拘っているのだということに、今更ながらに気付いて少し驚く。

「ならっ、俺も一緒に!」
「え~……高耶君にはただでさえ優秀な式が居るんだよ? その上、メイドも増えたし……アレ、絶対に終わったらついてくるでしょう……」

源龍は子どもっぽいと思いながらもそう言わずにはいられなかった。ちょっと不満も溜まっていたのだ。迅とは年齢が近いというのもあった。

「分かるっ。分かります……アレはもう絶対についてきますよ……」
「でしょう? そこに君とか……暑苦しい」
「今の本音!! 本音だよね!?」
「本音だよ。ポロっと出たよ。こんなの……何十年振りだろう……」

まるでおもちゃを独り占めするように、親を取られたくないと思う子どものように、ポロリと本音が溢れた。

「榊さんって、もっと大人なイメージでした」
「何それ。私も人だよ? 高耶君みたいな完璧人間じゃないからね」
「あ~……高耶くんって、大人だもんね」
「だよね。背伸びしているって、嫌味な感じじゃなくて、アレは子どもを知らないっていうか」
「ソレっ! だから憧れるっていうか、傍に居たいっていうかあ」
「逆に助けたいと思うんだよね~。頼ってくれるの期待して待っちゃうんだ」
「そうそうっ」

なんだか、自然に高耶自慢で盛り上がる。自分はこういう高耶を知っている。これは知らないだろうという自慢大会。

これにより、源龍自身もいつの間にか浄化剤になっていたのだが、それに気付くことはなかった。

そうして、別荘に帰ってくると、日向で足を組んで本を読み、その傍で幸せそうに微笑んで佇むメイドにお茶を出されている高耶を見て立ち止まった。

そんな高耶の足下には獅子の姿になった綺翔が気持ち良さそうに寝ており、高耶の斜め前には高耶が読んだらしい本を整理する秘書っぽい服に変わった黒艶。

「……絵になるなあ……」
「……あの中に入るの? ちょっと自信なくなったよ……」
「……うん……」

因みに、高耶が読んでいるのは、過去の霊穴の資料や鬼のもの。難しい本を読みながら時に考えこむその横顔は、同性であっても見惚れるものだった。

************
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

処理中です...