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第四章 秘伝と導く音色
182 同じはず
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考えれば当然だった。
この鬼も家守りも、長い間陰陽師の末裔のそばにあったのだ。その知識を持っていてもおかしくはない。
恐らく、鬼は解放されるのをずっと待っていた。その知識を蓄えながら。
《これならどうだ?》
鬼が余裕の表情で、結界破りの術を構築していく。
その間にも鬼の足下には黒い氷が張っていく。結界内には瘴気が立ち込めるが、高耶はそれを退ける術を持っていた。更に、天柳が高耶の側まで氷が来ないよう、調整している。
「なっ、その術!」
「強化します!」
「重ね掛けするぞ!」
外がバタバタしている。だが、高耶はそれほど慌ててはいなかった。右手の人差し指をその術の一点に向ける。たったそれだけ。
《ッ、ぐっ……な、なぜだ!? なぜ術が消えた!? お前! お前は何をした!》
外にいる焔泉達も何が起きたのか分からなかったらしい。
「お前に教える気はない」
これは、秘伝の秘術の一つだ。
《……はっ、ハハハハハ! そうか! そうだろうな。これだけの術者の前で、術を破るなど……ふっ、はははっ。どうだ? 私と手を組まないか? お前は選ばれた存在だ! 我らと生きるに相応しい! お前は喰らわずにおいてやる》
愉快だと笑う鬼。そんな鬼を、高耶は注意深く見つめていた。
《奇跡的に私を退けたとして、今後こやつらと共に居られるのか? お前をきっと避けるぞ? 自分たちの術さえ退けられる力を持つお前を邪魔に思うはずだ!》
それは高耶も分かっている。単に力押しで耐えるしかなかった術。『結界崩し』と呼ばれる強力な術で、これを会得すれば、同業者に捕らえられることはないとして連盟の中でも忌まわしく思われている術だ。
それを破ったのだ。連盟としては良いことではあるが、新たな脅威と考える者もいるだろう。
「だからといって、お前達と共に行く気はない。お前達は、人を……お前達にとっての恨みの対象を消そうとしているのだろう」
最初に鬼と対峙してから、高耶は以前よりも多くの資料を読みあさり、鬼や鬼渡が話したことの根拠を探していた。
《そうだ! よく分かっているではないか! この地は元々、我らが棲まうはずだった。それを、愚かな生き物達が穢してしまったのだ!》
憎いという想いが瘴気と共に渦巻いていた。
《力ある者を悪と断じて、数によってそれを正当化した! 欲深い者が増え、魂が正しく回らなくなった! これを憂えて何が悪い! 取り戻すために消して何が悪い! 喰らうて糧として何が悪いのだ!》
「……」
分からなくはないと思ってしまうのだ。
鬼渡が、それを正しいと思っても仕方がないと高耶は思ってしまった。だが、それを人である高耶が認めるわけにはいかないのだ。
術を操るからこそ、それにあぐらをかいてはいけない。人であることを忘れてはいけない。
きっと、それを忘れてしまったのが鬼なのだ。
「……」
焔泉達も口を閉じる。その表情には迷いがあった。術者だからと避けられることも無いわけではない。違う存在だと距離を置かれることもある。
元々、連盟はそんな孤立してしまう術者の救済の意図もあった。孤独になることで、周りを恨まないように、力によって人々を傷付けることがないようにするためだ。
「人が愚かでも、神は応えてくれる」
そう高耶が口を開けば、鬼だけでなく焔泉達も目を向けた。
「その愚かさも人だと認めているからだ。神でさえ争わず、恨みを抱かないものではない。お前達もそうだ。こうして今、人を憎んで、恨んでいる」
《……っ》
鬼が怯んだ。纏わりついていた家守りだったものが、少しだけ引いた。鬼の浅黒い肌が見える。刺青も見えた。家守りも鬼の思想に同意していたのだろう。だが、ここで迷いが生まれた。
「力がある者も、ない者も変わらない。世界が仮にお前達のものになったとしても、お前達も個だ。今は一つの目標に向かっているために思いが一つでも、目標が達成された後はどうなる。お前達の中で力の差による差別が起きるだろう。数により、少数が悪だと断じることが起きないと言えるか?」
《……っ、我らは、矮小なお前達とは違……っ》
声に力がない。氷の侵攻は、完全に止まっていた。否定できないのだろう。
「この地が穢れているとお前達は言う……だが、本当にそうか? 新たに神が生まれ、神が見捨てずにいる世界が、本当に穢れているのか?」
《……》
「お前達の全てを否定しようとは思わない。だが、今のままでは共存することは叶わないだろう」
《……っ》
不安そうな目だった。見た目は子どもだ。大人にすがろうとするその姿は、本当に子どもにしか見えない。
その時、遙か上空に知った神の気配を感じた。それを遅れて鬼も感じたらしい。鬼は目を見開いて上を見上げたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
この鬼も家守りも、長い間陰陽師の末裔のそばにあったのだ。その知識を持っていてもおかしくはない。
恐らく、鬼は解放されるのをずっと待っていた。その知識を蓄えながら。
《これならどうだ?》
鬼が余裕の表情で、結界破りの術を構築していく。
その間にも鬼の足下には黒い氷が張っていく。結界内には瘴気が立ち込めるが、高耶はそれを退ける術を持っていた。更に、天柳が高耶の側まで氷が来ないよう、調整している。
「なっ、その術!」
「強化します!」
「重ね掛けするぞ!」
外がバタバタしている。だが、高耶はそれほど慌ててはいなかった。右手の人差し指をその術の一点に向ける。たったそれだけ。
《ッ、ぐっ……な、なぜだ!? なぜ術が消えた!? お前! お前は何をした!》
外にいる焔泉達も何が起きたのか分からなかったらしい。
「お前に教える気はない」
これは、秘伝の秘術の一つだ。
《……はっ、ハハハハハ! そうか! そうだろうな。これだけの術者の前で、術を破るなど……ふっ、はははっ。どうだ? 私と手を組まないか? お前は選ばれた存在だ! 我らと生きるに相応しい! お前は喰らわずにおいてやる》
愉快だと笑う鬼。そんな鬼を、高耶は注意深く見つめていた。
《奇跡的に私を退けたとして、今後こやつらと共に居られるのか? お前をきっと避けるぞ? 自分たちの術さえ退けられる力を持つお前を邪魔に思うはずだ!》
それは高耶も分かっている。単に力押しで耐えるしかなかった術。『結界崩し』と呼ばれる強力な術で、これを会得すれば、同業者に捕らえられることはないとして連盟の中でも忌まわしく思われている術だ。
それを破ったのだ。連盟としては良いことではあるが、新たな脅威と考える者もいるだろう。
「だからといって、お前達と共に行く気はない。お前達は、人を……お前達にとっての恨みの対象を消そうとしているのだろう」
最初に鬼と対峙してから、高耶は以前よりも多くの資料を読みあさり、鬼や鬼渡が話したことの根拠を探していた。
《そうだ! よく分かっているではないか! この地は元々、我らが棲まうはずだった。それを、愚かな生き物達が穢してしまったのだ!》
憎いという想いが瘴気と共に渦巻いていた。
《力ある者を悪と断じて、数によってそれを正当化した! 欲深い者が増え、魂が正しく回らなくなった! これを憂えて何が悪い! 取り戻すために消して何が悪い! 喰らうて糧として何が悪いのだ!》
「……」
分からなくはないと思ってしまうのだ。
鬼渡が、それを正しいと思っても仕方がないと高耶は思ってしまった。だが、それを人である高耶が認めるわけにはいかないのだ。
術を操るからこそ、それにあぐらをかいてはいけない。人であることを忘れてはいけない。
きっと、それを忘れてしまったのが鬼なのだ。
「……」
焔泉達も口を閉じる。その表情には迷いがあった。術者だからと避けられることも無いわけではない。違う存在だと距離を置かれることもある。
元々、連盟はそんな孤立してしまう術者の救済の意図もあった。孤独になることで、周りを恨まないように、力によって人々を傷付けることがないようにするためだ。
「人が愚かでも、神は応えてくれる」
そう高耶が口を開けば、鬼だけでなく焔泉達も目を向けた。
「その愚かさも人だと認めているからだ。神でさえ争わず、恨みを抱かないものではない。お前達もそうだ。こうして今、人を憎んで、恨んでいる」
《……っ》
鬼が怯んだ。纏わりついていた家守りだったものが、少しだけ引いた。鬼の浅黒い肌が見える。刺青も見えた。家守りも鬼の思想に同意していたのだろう。だが、ここで迷いが生まれた。
「力がある者も、ない者も変わらない。世界が仮にお前達のものになったとしても、お前達も個だ。今は一つの目標に向かっているために思いが一つでも、目標が達成された後はどうなる。お前達の中で力の差による差別が起きるだろう。数により、少数が悪だと断じることが起きないと言えるか?」
《……っ、我らは、矮小なお前達とは違……っ》
声に力がない。氷の侵攻は、完全に止まっていた。否定できないのだろう。
「この地が穢れているとお前達は言う……だが、本当にそうか? 新たに神が生まれ、神が見捨てずにいる世界が、本当に穢れているのか?」
《……》
「お前達の全てを否定しようとは思わない。だが、今のままでは共存することは叶わないだろう」
《……っ》
不安そうな目だった。見た目は子どもだ。大人にすがろうとするその姿は、本当に子どもにしか見えない。
その時、遙か上空に知った神の気配を感じた。それを遅れて鬼も感じたらしい。鬼は目を見開いて上を見上げたのだ。
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