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第五章 秘伝と天使と悪魔
191 視えない紋章
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優希が珀豪と常盤を連れて出て行ってから十五分ほどが経っていた。そこに店長が戻ってくる。
「お待たせしました。まだ奥はお話を?」
高耶達は、ブースにあったパイプ椅子を瀬良智世の従兄弟に持ってきてもらって、適当に集まって話をしていた。
「ええ。もうじき出て来るかと……あっ」
そこに秘書の男だけが出てきた。
「失礼いたします。秘伝様。主が話があると。お願いできますでしょうか」
「分かりました。店長には」
「わたくしが対応させていただきます」
「では、お願いします。店長。彼は連盟の首領の一人、橘家当主の秘書です。今回の件についての対応を説明してもらってください」
「わ、分かりました!」
この階の半分ほどを締めるらしく、シャッターが下りたのは見えていた。損害の補償は多少することになる。その説明を秘書の男がしてくれるはずだ。
「俊哉。物産展の方は大丈夫かもしれんし、行っていいぞ」
「え! ま、まあ、居てもしょうがないか……高耶の仕事の邪魔にもなるもんな……終わったら一応、メールくれ」
「分かった」
ヒラリと手を振り、高耶は奥に向かった。
「失礼します」
「高耶くん。悪いね。こっちに座って」
「はい……」
蓮次郎にすすめられたのは、二人が向き合って座る側ではなく、ひとつだけポツンとある奥の椅子。
確かに三人で話すならば分かれて座るべきだが、なぜこっちなのかと思わずにはいられない。
そんな高耶の渋い顔に気付いたらしい蓮次郎がくくくと笑った。
「高耶くんは今時の子なのに、こういう席順とか凄く気にするよね」
「そういう橘さん……」
「蓮次郎」
「……蓮次郎さんは、気にする時と気にしない時の差がありますよね……」
わざわざ呼び方を訂正された。霧矢の別荘の時に、どうしてもと懇願されたのだ。『レンさん』呼びよりかはと妥協した結果だった。
蓮次郎としては段階を踏むつもりだと、聞いていた焔泉達は呆れていたことを、高耶は知らない。
「私は人の好き嫌いがはっきりしているからね。後は、年功序列を重んじる時と実力主義でいく時の違いかな」
「……そうですか……」
蓮次郎は、高耶の実力を高く評価している。もちろん、自分よりも上であると。前回の鬼の一件で、最近は更に高耶を上に置く傾向があった。
「それで。何か問題が?」
ここは早く本題に入ろうと、意識の切り替えを促す。
「うん。大和さん。あの写真を」
「は、はい」
大和いづきは蓮次郎相手に緊張しているらしい。動揺しながらも、写真を表示したスマホを差し出してきた。
受け取って確認する。写っているのは、西洋の鎧が一つ。色が統一されておらず、白銀と金の部分があってちぐはぐ感がある。
「これは? ん?」
ふと何かが頭をよぎった。
「鎧……」
じっくり見つめると、細かく彫られている紋章に目が言った。
「この紋章……さっきの剣の柄にありませんでしたか?」
「その通り。確認したけど、瑠璃殿が祓ったと言った物には、同じような紋章があったんだ」
「なら、これと同じ……同じような?」
「そう。ほら、この腕の所。この紋章と胸の紋章は違うよね」
教えられて、高耶は確認する。見比べると確かに違う。欠けているからとかではない。恐らく別物だ。そして、共通点を見つけた。
「金の部分と銀の部分では、紋章が違う?」
「そういうこと。それと、この紋章と色。私たちにしか視えないようだ」
「え……」
大和いづきに確認すると、確かに視えていないらしい。
「写真に写っても一般的に視えない。ウチの子にも視えなかった。けど、我々二人は視える。この特徴は……」
「間違いなく悪魔関係ですね」
怨念はその存在を主張する傾向があるため、たいてい、写真に写すと一般人にも視えるようになる。
だが、悪魔系は隠そうとする力が働くため、写真に写り難い。だが、力がある程度ある者には写っているように視えるのだ。
「それも、かなり高位だね。ウチの秘書はそれなりの力はある。いざという時の切り札的な存在だからね。けど、それでも視えなかった。瑠璃殿が祓う前の現物を見て、辛うじてという具合だ」
祓った後。それぞれの色と紋章は一般にも見えるようになったらしい。
「……」
それで思い出したことがあった。
「……この鎧で思い出しました。先日、エルラントさんが鎧の話をしていたんです。最近、白銀の鎧が発見されたと……好事家達は一様に美しいと絶賛したけれど、自分にはそうは見えなかったと。そもそもが全部白銀ではなかったのが妙だったと」
「それがコレだと?」
「胸の紋章だけが燃えるように、紅く視えたらしいです。娘達にはその色は視えなかったようで、エルラントさんにだけ」
「紅く……? あの方だけ……胸の……」
一際大きな紋章が中心にあるが、左胸の所に小さな紋章がある。
蓮次郎は視える力を増幅させる術を発動する。そして、しばらく写真を見つめると、それに気付いたようだ。
「っ!! 確かに紅い紋章が……っ。高耶くんには普通に視えたのかな?」
「いえ、薄っすらと。エルラントさんの言葉を思い出して、意識したらはっきりしましたけど」
「……これは今どこに?」
大和いづきに蓮次郎が確認する。
「イギリスです。検査機関に。好事家達が既に掛け合っていて、今の状況は分かりかねますが……」
「イギリス……となれば、あちらが気付く……」
あちらの大陸には祓魔師がいる。ならば気付くだろう。悪魔系ならば彼らは特に敏感だ。
その鎧については大丈夫だろう。だが、高耶は嫌な予感がしていた。
「あの……この金と銀……もしかして、別々で本当は二つあるとか……ないでしょうか……」
「っ!!」
蓮次郎は驚愕したように目を丸くする。これほどわかりやすい表情は初めてだった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
「お待たせしました。まだ奥はお話を?」
高耶達は、ブースにあったパイプ椅子を瀬良智世の従兄弟に持ってきてもらって、適当に集まって話をしていた。
「ええ。もうじき出て来るかと……あっ」
そこに秘書の男だけが出てきた。
「失礼いたします。秘伝様。主が話があると。お願いできますでしょうか」
「分かりました。店長には」
「わたくしが対応させていただきます」
「では、お願いします。店長。彼は連盟の首領の一人、橘家当主の秘書です。今回の件についての対応を説明してもらってください」
「わ、分かりました!」
この階の半分ほどを締めるらしく、シャッターが下りたのは見えていた。損害の補償は多少することになる。その説明を秘書の男がしてくれるはずだ。
「俊哉。物産展の方は大丈夫かもしれんし、行っていいぞ」
「え! ま、まあ、居てもしょうがないか……高耶の仕事の邪魔にもなるもんな……終わったら一応、メールくれ」
「分かった」
ヒラリと手を振り、高耶は奥に向かった。
「失礼します」
「高耶くん。悪いね。こっちに座って」
「はい……」
蓮次郎にすすめられたのは、二人が向き合って座る側ではなく、ひとつだけポツンとある奥の椅子。
確かに三人で話すならば分かれて座るべきだが、なぜこっちなのかと思わずにはいられない。
そんな高耶の渋い顔に気付いたらしい蓮次郎がくくくと笑った。
「高耶くんは今時の子なのに、こういう席順とか凄く気にするよね」
「そういう橘さん……」
「蓮次郎」
「……蓮次郎さんは、気にする時と気にしない時の差がありますよね……」
わざわざ呼び方を訂正された。霧矢の別荘の時に、どうしてもと懇願されたのだ。『レンさん』呼びよりかはと妥協した結果だった。
蓮次郎としては段階を踏むつもりだと、聞いていた焔泉達は呆れていたことを、高耶は知らない。
「私は人の好き嫌いがはっきりしているからね。後は、年功序列を重んじる時と実力主義でいく時の違いかな」
「……そうですか……」
蓮次郎は、高耶の実力を高く評価している。もちろん、自分よりも上であると。前回の鬼の一件で、最近は更に高耶を上に置く傾向があった。
「それで。何か問題が?」
ここは早く本題に入ろうと、意識の切り替えを促す。
「うん。大和さん。あの写真を」
「は、はい」
大和いづきは蓮次郎相手に緊張しているらしい。動揺しながらも、写真を表示したスマホを差し出してきた。
受け取って確認する。写っているのは、西洋の鎧が一つ。色が統一されておらず、白銀と金の部分があってちぐはぐ感がある。
「これは? ん?」
ふと何かが頭をよぎった。
「鎧……」
じっくり見つめると、細かく彫られている紋章に目が言った。
「この紋章……さっきの剣の柄にありませんでしたか?」
「その通り。確認したけど、瑠璃殿が祓ったと言った物には、同じような紋章があったんだ」
「なら、これと同じ……同じような?」
「そう。ほら、この腕の所。この紋章と胸の紋章は違うよね」
教えられて、高耶は確認する。見比べると確かに違う。欠けているからとかではない。恐らく別物だ。そして、共通点を見つけた。
「金の部分と銀の部分では、紋章が違う?」
「そういうこと。それと、この紋章と色。私たちにしか視えないようだ」
「え……」
大和いづきに確認すると、確かに視えていないらしい。
「写真に写っても一般的に視えない。ウチの子にも視えなかった。けど、我々二人は視える。この特徴は……」
「間違いなく悪魔関係ですね」
怨念はその存在を主張する傾向があるため、たいてい、写真に写すと一般人にも視えるようになる。
だが、悪魔系は隠そうとする力が働くため、写真に写り難い。だが、力がある程度ある者には写っているように視えるのだ。
「それも、かなり高位だね。ウチの秘書はそれなりの力はある。いざという時の切り札的な存在だからね。けど、それでも視えなかった。瑠璃殿が祓う前の現物を見て、辛うじてという具合だ」
祓った後。それぞれの色と紋章は一般にも見えるようになったらしい。
「……」
それで思い出したことがあった。
「……この鎧で思い出しました。先日、エルラントさんが鎧の話をしていたんです。最近、白銀の鎧が発見されたと……好事家達は一様に美しいと絶賛したけれど、自分にはそうは見えなかったと。そもそもが全部白銀ではなかったのが妙だったと」
「それがコレだと?」
「胸の紋章だけが燃えるように、紅く視えたらしいです。娘達にはその色は視えなかったようで、エルラントさんにだけ」
「紅く……? あの方だけ……胸の……」
一際大きな紋章が中心にあるが、左胸の所に小さな紋章がある。
蓮次郎は視える力を増幅させる術を発動する。そして、しばらく写真を見つめると、それに気付いたようだ。
「っ!! 確かに紅い紋章が……っ。高耶くんには普通に視えたのかな?」
「いえ、薄っすらと。エルラントさんの言葉を思い出して、意識したらはっきりしましたけど」
「……これは今どこに?」
大和いづきに蓮次郎が確認する。
「イギリスです。検査機関に。好事家達が既に掛け合っていて、今の状況は分かりかねますが……」
「イギリス……となれば、あちらが気付く……」
あちらの大陸には祓魔師がいる。ならば気付くだろう。悪魔系ならば彼らは特に敏感だ。
その鎧については大丈夫だろう。だが、高耶は嫌な予感がしていた。
「あの……この金と銀……もしかして、別々で本当は二つあるとか……ないでしょうか……」
「っ!!」
蓮次郎は驚愕したように目を丸くする。これほどわかりやすい表情は初めてだった。
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