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第五章 秘伝と天使と悪魔
245 手詰まりです
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天使と悪魔は苦戦を強いられていた。
イスティアとキルティスによって結界が張られてすぐ、あとは兜だけとなっていた六体の鎧が、橘の結界を破壊した。
「ッ、なっ!?」
一番驚いたのは、蓮次郎を筆頭とした橘の術者達だ。当然だろう。結界には、絶対の自信があった。これは、天使だろうと悪魔だろうと関係なく、抑えられるという自信があったのだ。だが、それがいとも簡単に、それも、本物の天使や悪魔ではなく、憑いている状態のそれらが破った。
「こんな簡単に……」
呆然とする蓮次郎。そんな彼を、エルラントがフォローする。
「あれは仕方ないよ。一気に力が集中したようだからね。心配しなくても、強度は足りてたよ」
「ですが……」
「ほら、あれだよ。『火事場の馬鹿力』って言うやつだから」
「……そ、そうなのですか……?」
「ああ。だから、あの子達も慰めてあげて。ここであまり絶望とかしない方がいいから」
「っ、は、はいっ」
破られたことで、橘の術者達が地に手を突いていたのだ。そんな彼らを、連盟の術者達が必死で慰めていた。
蓮次郎は慌ててそんな彼らの下へ駆けていく。それを見送り、エルラントは、結界などのこの場の力の調整をする。
「イスティア、次元への干渉が強過ぎる。横穴空ける気かい? キルティス、天使の方に磁場が寄ってる。バランスを気を付けて」
「っ、わ、悪い。これくらいか。いやぁ、久々過ぎて感覚が……」
「わわっ、意外とバランス取りにくいっ。こ、これくらいねっ」
「そのままをしばらく維持。まったく、君たちはちょっと引きこもり過ぎたね。高耶君を土地神の方にやっていて良かったよ。がっかりされるところだ」
「「すみません……」」
二人は確かにこの場を任せられる力を持っているが、それを効率よく、かつ効果的に使えるかどうかは別だ。こうした場では、現場に幾度となく出て得られるさじ加減や感覚がものを言う。
それが遥か過去のものになっていれば、やはり感覚を思い出すのにそれなりの時間がかかるものだ。だが、そこはベテラン。イスティアもキルティスも、もうその感覚を思い出しつつあった。それでも、初めからビシッと決められなかったことは惜しい。
「任せるようにと大口を叩いたんだ。さっさと昔の感覚を思い出すように」
「「了解……」」
天使と悪魔は、鎧を抑え、そこから大元となる者を引きずり出そうと格闘する。本来、これが結界などの守りもなく行われれば、この土地だけでなく、周辺の土地も霊界や天界の気に乱され、土地の力が消滅し、不毛の地になっただろう。
その土地に住む者たちにも影響が出て、精神的におかしくなる者たちが溢れることになる。それほどまでに、霊界の気も天界の気も、人には有害なのだ。
「……イスティア、どうなっているんだい?」
「ん~、な~んか、抵抗が強いな。それも霊界の方だけ。天界の方は、多分すぐにでも行ける」
天界の方のものを今すぐに引っ張らないのは、霊界の方と同時でなければならないからだ。
「けど、これだけ場を整えてんのに、いくらなんでも引き抜けないとか、異常だぜ」
「そうよね? あれって、こんな引っかかる感じの所と繋がりを付けてないわよね?」
「おう。何かあった場合、きちんと処理できるようにしたよな?」
「そうそう。安全のための余白は作ったもの」
イスティアとキルティスは、鎧に施された術について知っていた。というより、二人によって組まれた術だった。契約の場にも、居たのだ。
二人が感知していないのは、契約した悪魔と天使だけ。二つの種族が手を取り合って、守護の契約をすることを願った、とある一族の願い通り、その器を用意したに過ぎない。どの悪魔や天使が同意するかは範疇外だった。
「だいたい、契約した一族が絶えたのに、契約が続行されてんのがおかしい。俺らの組んだ術では、上書きなんて出来ねえはずだったんだからな」
「それも契約者の死後もって……ないわよね。核の位置もおかしいわ。あんな次元の狭間近くに嵌まり込むなんて……あちら側から誘導でもされたのかしら……」
「誘導……」
もっと簡単に繋がりを切り、解放できるはずだったのだ。だが、それが出来ず、仮に切れたとしたら、核となるものが狭間の空間に取り残されることになる。それは、永劫にその場に留まり続けることを意味した。悪魔や天使にとっては、それは消滅よりも苦しいこと。
《なるほど。誘導か……それはあるかもな》
「充雪殿?」
《ああ。あちら側で誘導したやつが居るのかもしれん。そいつらからすれば『愚かな人間に手を貸す裏切り者』って感じだろうからな》
今回、暗躍したのは鬼渡だろう。それは何十年も前に仕掛けたこと。誰も気付かなかった。言葉巧みに誘導し、退路を断ったのだ。そして、洗脳した。
「切り捨てることは、きっと問題なくできる。けど、今手を離したら、あのまま、永劫にあの場に留まり、恨みを募らせるようになるだろうね……そうなれば……」
《間違いなく、ろくでもないものになるな……》
天使の方は助けられる。だが、悪魔の方は難しい。
「あ~、こりゃあ、既にこっちの声も聞こえてねえな」
「ねえねえ。天使の方もヤバいわよ。悪魔の方を助けられなかったら自爆する気満々みたい」
「……どうするよ……」
「どうしようかしら……」
「……」
《……》
瑠璃と玻璃の関係で分かるように、天使の方が執着心が強い。悪魔との絆ができていることは、鎧がお互いを助け合おうとしていることからもわかる。
鬼渡も分かっていたのだろう。悪魔の方を押さえれば、天使の方も自滅するだろうと。
考え込んでいたエルラントは、ゆっくりと顔を上げて、充雪に目を向けた。
「高耶君に、何か案がないか聞いてきてほしい。さすがにこのままではいけない」
《分かった》
少しでも何かヒントやきっかけとなる案をと願って充雪を見送った。
そして、戻ってきた充雪は、瑠璃と玻璃を伴っていた。玻璃の手には、金の指輪があった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
イスティアとキルティスによって結界が張られてすぐ、あとは兜だけとなっていた六体の鎧が、橘の結界を破壊した。
「ッ、なっ!?」
一番驚いたのは、蓮次郎を筆頭とした橘の術者達だ。当然だろう。結界には、絶対の自信があった。これは、天使だろうと悪魔だろうと関係なく、抑えられるという自信があったのだ。だが、それがいとも簡単に、それも、本物の天使や悪魔ではなく、憑いている状態のそれらが破った。
「こんな簡単に……」
呆然とする蓮次郎。そんな彼を、エルラントがフォローする。
「あれは仕方ないよ。一気に力が集中したようだからね。心配しなくても、強度は足りてたよ」
「ですが……」
「ほら、あれだよ。『火事場の馬鹿力』って言うやつだから」
「……そ、そうなのですか……?」
「ああ。だから、あの子達も慰めてあげて。ここであまり絶望とかしない方がいいから」
「っ、は、はいっ」
破られたことで、橘の術者達が地に手を突いていたのだ。そんな彼らを、連盟の術者達が必死で慰めていた。
蓮次郎は慌ててそんな彼らの下へ駆けていく。それを見送り、エルラントは、結界などのこの場の力の調整をする。
「イスティア、次元への干渉が強過ぎる。横穴空ける気かい? キルティス、天使の方に磁場が寄ってる。バランスを気を付けて」
「っ、わ、悪い。これくらいか。いやぁ、久々過ぎて感覚が……」
「わわっ、意外とバランス取りにくいっ。こ、これくらいねっ」
「そのままをしばらく維持。まったく、君たちはちょっと引きこもり過ぎたね。高耶君を土地神の方にやっていて良かったよ。がっかりされるところだ」
「「すみません……」」
二人は確かにこの場を任せられる力を持っているが、それを効率よく、かつ効果的に使えるかどうかは別だ。こうした場では、現場に幾度となく出て得られるさじ加減や感覚がものを言う。
それが遥か過去のものになっていれば、やはり感覚を思い出すのにそれなりの時間がかかるものだ。だが、そこはベテラン。イスティアもキルティスも、もうその感覚を思い出しつつあった。それでも、初めからビシッと決められなかったことは惜しい。
「任せるようにと大口を叩いたんだ。さっさと昔の感覚を思い出すように」
「「了解……」」
天使と悪魔は、鎧を抑え、そこから大元となる者を引きずり出そうと格闘する。本来、これが結界などの守りもなく行われれば、この土地だけでなく、周辺の土地も霊界や天界の気に乱され、土地の力が消滅し、不毛の地になっただろう。
その土地に住む者たちにも影響が出て、精神的におかしくなる者たちが溢れることになる。それほどまでに、霊界の気も天界の気も、人には有害なのだ。
「……イスティア、どうなっているんだい?」
「ん~、な~んか、抵抗が強いな。それも霊界の方だけ。天界の方は、多分すぐにでも行ける」
天界の方のものを今すぐに引っ張らないのは、霊界の方と同時でなければならないからだ。
「けど、これだけ場を整えてんのに、いくらなんでも引き抜けないとか、異常だぜ」
「そうよね? あれって、こんな引っかかる感じの所と繋がりを付けてないわよね?」
「おう。何かあった場合、きちんと処理できるようにしたよな?」
「そうそう。安全のための余白は作ったもの」
イスティアとキルティスは、鎧に施された術について知っていた。というより、二人によって組まれた術だった。契約の場にも、居たのだ。
二人が感知していないのは、契約した悪魔と天使だけ。二つの種族が手を取り合って、守護の契約をすることを願った、とある一族の願い通り、その器を用意したに過ぎない。どの悪魔や天使が同意するかは範疇外だった。
「だいたい、契約した一族が絶えたのに、契約が続行されてんのがおかしい。俺らの組んだ術では、上書きなんて出来ねえはずだったんだからな」
「それも契約者の死後もって……ないわよね。核の位置もおかしいわ。あんな次元の狭間近くに嵌まり込むなんて……あちら側から誘導でもされたのかしら……」
「誘導……」
もっと簡単に繋がりを切り、解放できるはずだったのだ。だが、それが出来ず、仮に切れたとしたら、核となるものが狭間の空間に取り残されることになる。それは、永劫にその場に留まり続けることを意味した。悪魔や天使にとっては、それは消滅よりも苦しいこと。
《なるほど。誘導か……それはあるかもな》
「充雪殿?」
《ああ。あちら側で誘導したやつが居るのかもしれん。そいつらからすれば『愚かな人間に手を貸す裏切り者』って感じだろうからな》
今回、暗躍したのは鬼渡だろう。それは何十年も前に仕掛けたこと。誰も気付かなかった。言葉巧みに誘導し、退路を断ったのだ。そして、洗脳した。
「切り捨てることは、きっと問題なくできる。けど、今手を離したら、あのまま、永劫にあの場に留まり、恨みを募らせるようになるだろうね……そうなれば……」
《間違いなく、ろくでもないものになるな……》
天使の方は助けられる。だが、悪魔の方は難しい。
「あ~、こりゃあ、既にこっちの声も聞こえてねえな」
「ねえねえ。天使の方もヤバいわよ。悪魔の方を助けられなかったら自爆する気満々みたい」
「……どうするよ……」
「どうしようかしら……」
「……」
《……》
瑠璃と玻璃の関係で分かるように、天使の方が執着心が強い。悪魔との絆ができていることは、鎧がお互いを助け合おうとしていることからもわかる。
鬼渡も分かっていたのだろう。悪魔の方を押さえれば、天使の方も自滅するだろうと。
考え込んでいたエルラントは、ゆっくりと顔を上げて、充雪に目を向けた。
「高耶君に、何か案がないか聞いてきてほしい。さすがにこのままではいけない」
《分かった》
少しでも何かヒントやきっかけとなる案をと願って充雪を見送った。
そして、戻ってきた充雪は、瑠璃と玻璃を伴っていた。玻璃の手には、金の指輪があった。
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