秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
282 / 463
第六章 秘伝と知己の集い

282 ピアノのレッスン

しおりを挟む
体育館に向かいながら、ソラ君と話しをする。

幸い、音楽室は特別教室棟にあり、体育館はその向こうだ。話しをしていても、授業中の教室の前は通らない。普通に話しができた。

「あまり気にしないようにな。優希達……あの三人は、夜でも朝でも練習できる場所があるから、少し多めに練習できただけだよ」
「……そんなところあるの? いえで?」
「ああ。特別な所があるんだ。休みの日は一日中、好きな時に弾ける。だから、君の練習が足りなかったとか、そういうことじゃないよ」
「……うん……」

彼にとっては、精一杯練習したのだというのは、聴けば分かった。

体育館では、舞台の袖にピアノが仕舞われていた。そこでそのまま使わせてもらう。

「これくらいなら、調律も必要ないかな。じゃあ、やってみようか」
「……はい」

どうしても苦手な所は出来てしまう。そこを気にせず弾ければ良いとしてしまうか、気にしてそこに囚われてしまうかは、人による。どちらも良くはない。

彼は気にする方だ。

「最初と最後はいいね。気になるのはこの中間部かな。音は拾えているから、後はどれだけイメージできるかだ」
「イメージ……」
「こうして、ピアノを弾いていない時に、完成した曲を頭で再生できるか?」
「……」
「一度弾いてみるから、楽譜を見ながら聴いて」

正しい曲をどれだけ自分の中に落とし込めるか。それが子どもには特に大きいだろう。

「見失わずに聴けたかな」
「うん……っ、どうしたら、こんなふうにひけるようになるの?」
「……」

『練習すれば』なんて答えでは納得しないだろうというのが、彼の必死な表情から伝わってきた。この答えは、何度だって聞いているだろう。

「沢山聴くことかな……それとイメージすること。自分が『こんな風に弾けたら』じゃなくて、『弾いてるんだ』ってイメージしてみる。そこに座って。今度は目を閉じて。俺が弾くのが、君が弾いてるつもりで聴いてごらん」

短い曲でも、最高の演奏ができたという満足感を得られるかどうか。それを感じられるかどうかが重要だと高耶は思っている。

達成感というのは、人を最も成長させる糧だろう。他人の評価ではなく、自分自身の中での満足感を得ること。これが、意外にも難しい。

「っ……」
「どうだった? 今までと少し違わなかったかな」
「っ、なんか……っ、すごくたのしかった」

興奮したように、目を輝かせる。何かをしっかりと感じているのが分かった。

「その気持ちを忘れずに。弾いてみようか」
「はいっ」

何かに真剣に取り組むことは、自分自身への挑戦が元だ。

その自分自身と向き合う姿勢や、やる気が神達にも伝わるもの。精神が鍛えられる場面は、伝わりやすいのだ。

「ここ、もう一度しっかりどう弾きたいか、どう弾くべきかをイメージしてみてやってみよう」
「はい!」

土地神が傍まで来ていることを感じながら、夢中になってピアノを弾く彼を見守った。

そろそろ授業時間が終わる。

「最後まで問題なく弾けるようになったな。物凄く集中できていたよ」
「もう……おわり?」
「ああ。時間だ。音楽室に一度戻ろう」

そうして部屋に戻る間、ソラ君は落ち着かない様子だった。

「どうした?」
「え、あ……せっかくひけるようになったのに……あしたからおじいちゃんのいえだから……こわれたピアノしかなくて……れんしゅうできないなって……」

弾けるようになったという手応えもきちんと感じていたのだろう。練習が出来ないことが不安そうだった。

「その壊れたピアノは、全く使えないのか?」
「おばあちゃんのピアノで……へんな音するから……ちゃんと、ぼうおん? してあるへやにあるんだけど……」
「それは惜しいね……良かったら見せてくれるかな。調律すれば大丈夫かもしれないし、帰りまでにお手紙を書いておくから、それをお家の人に渡してくれるかい?」
「なおせるの?」
「見てみないと分からないけどね。せっかくやる気になってるし、こういう時が一番練習するべき時だからね」
「っ、おねがいします!」

今のやる気に満ちた状態で、家で練習してもらえれば、土地神にも良い影響がある。

特に、今はこの子ども達を見守っているのだ。気にかけている子ども達の行動は、土地神の視野を広げる。端まで目が届くようになるだろう。

「おばあちゃんも、ピアノがすきで……足がわるくなってから、コンサートとかにもいけなくなったっていってたんだ……だから、ぼくがピアノひけるようになって、きかせたかったんだ」
「そうか……今回のも聞かせたいね」
「うん……」

この後、校長の那津にも一筆書いてもらい、連絡先も書いた。

すると、次の日の朝に連絡があった。どうやら、両親ではなく祖父母に直接手紙を渡したようだ。

そして、是非お願いしたいとのことで、優希達と共に家を訪ねることになった。

その家は、奇しくも神社のすぐ傍にあった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

聖女召喚2

胸の轟
ファンタジー
召喚に成功した男たちは歓喜した。これで憎き敵国を滅ぼすことが出来ると。

解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ
ファンタジー
 突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……  いわゆる追放物の短編作品です。  起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……  サクッと読んで頂ければ幸いです。 ※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。

処理中です...