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第六章 秘伝と知己の集い
290 神からのプレゼント
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小学校の方も、この数日で一気に落ち着いた。かなり焦り気味でピアノのレッスンをしたが、無事一通り弾けるようになり、ここまでこれば音楽教師の杉だけでも問題ないだろう。
高耶と修は一週間か二週間に一度見に行くだけとなった。
その日は、子ども達が下校した後。音楽室で修や杉、校長の那津と教頭の時島を交えて学芸会の進捗状況などの話し合いをしていた。
その間、BGM代わりに高耶がオルゴールバージョンの校歌を静かに、小さな音で響かせていたのだが、そこに、鳥の姿をした神が入ってきた。
高耶が居ること。その高耶がこの場に居る者たちを信頼していることが分かったのだろう。神はスルリと窓から入り込んできたのだ。
那津達は一瞬ビクリと緊張した様子だったが、高耶が目で制すると、席を立たずに静かに息を詰めた。
神の方は高耶の弾いているピアノの譜面立ての角に止まる。
《よい。そのままで……》
ピアノを止めるなと言われ、心地よさそうに目を閉じて留まる神のため、高耶はそのまま弾き続けていた。
《……凝っていた歪みが正された……ヌシに礼を言う……》
「いえ。子ども達が頑張ったからですよ」
《うむ……数人の子ども達の力だけで、ここまで変わるか……》
ゆったりと目を開け、外へ感覚を広げるように窓の外へと視線を向ける神。
穴となるほど凝っていたものが、高耶が動いたことでほとんど解きほぐれた。まだまだ力が滑らかに巡るとまではいかないが、かなりの変化だ。
「子どもだからでしょう……子どもが頑張る姿は、大人を動かします。行動だけでなく、心も……あれは、本当に不思議です」
《なるほど……そうかもしれん。面白いものだ》
「はい……」
子どものために、大人は自然と手を貸してしまう。大人だけではやらないことも、子どもが居れば出来る。そうさせる力が子ども達にはあった。
《繋がりの切れかけていた場所もあったが……再び繋がれたようだな……》
「こちらの管理も甘くなっていました。早急に見直しもしています」
高耶は、春奈のことがあり、すぐに連盟へ報告を入れた。これにより、各地で見直しが為されることになった。
徐々に管理する者のいなくなった神社などの調査や引き継ぎが行われる予定だ。
《うむ……また人と繋がれる……忘れ去られるのも自然なことだと受け入れてはいたが……やはりな……》
「……」
寂しいと、辛いと、神であっても感じるのだろう。少なくとも、高耶が顔を合わせてきた神々に、感情がないなんてことはなかった。だからこそ、高耶も力になりたいと思うのだ。
神は次いで、高耶を真っ直ぐに見つめる。
《……気を付けろ》
「私ですか?」
《人として生きている者で、これほど神力を放っている者ははじめてだ……どこぞに封じられぬように気を付けよ》
これまでも気をつけるようにと言われてはきたが、神に真剣に忠告されるほどではないと思っていた。
「……そこまで……ですか……」
《うむ……どれ、これを持っていると良い》
神と高耶の間に、光の玉が現れる。それが高耶の右の中指に落ちる。すると、金の細い指輪になった。
「これは……」
着けている感覚が全くない。恐らく、視える者も限られる物だろう。
《溢れ出る神力を、そこに溜めることが出来る。それでようやく、人の枠に納まるくらいになるだろう》
「……人の枠……」
どうやら、人の枠からはみ出ていたようだ。
《人というより、神に近くなっていたからな。側に置いている者の力で、誤魔化されていただけだ》
「そうでしたか……」
珀豪達が側に居たことで、誤魔化さていたらしい。
そこで用は済んだというように、神は翼を広げた。
《いつでも歓迎する。また来るが良い》
「はい。ありがとうございます」
そうして、神はまた窓から帰って行った。
「っ……御当主……もう大丈夫かしら?」
那津が、恐る恐る声をかけてくる。
「ええ。お帰りになりました」
「はあ……緊張したわ……」
修も肩の力を抜いてほっと息を吐く。
「神さまも、進捗を見にこられたのかな」
「そうですね。ここまでの所はご満足いただけたようです。学芸会、頑張ってもらわないといけませんね」
笑って告げれば、杉が胸を押さえる。
「私、プレッシャーに弱いんですけどっ」
「ふふふっ。失敗できないわね~」
「やめてくださいよ校長っ」
「神に奉納するようなものと考えた方が良さそうだな」
「っ、教頭までっ。ううっ、でも私が出るんじゃないですもんね……っ、子ども達ならっ……でも緊張する!」
杉の顔色が若干悪くなっていた。反対に、修は何だか嬉しそうだ。
「ピアノの発表会に出る子の先生の気持ちってこんななんだね。自分のコンサートの時より緊張するかもっ」
「修さんは何だか楽しそうですね」
「楽しいよっ。子ども達に先生って呼ばれるのも嬉しいしね。それに成果を発表できるっていうのはね……うん。楽しいよ」
「それは良かったです」
「もちろん、高耶くんと一緒にやるのが一番だけどね。だからコンサート、一緒にやろうよ」
修の冬のコンサートで、高耶が友情出演するという話があった。それにまだ、正式に了解していなかったのだ。
ここまで言われては、断れない。何よりも高耶も修との共演は楽しみだった。
「はい。やりましょう」
「っ、本当!? やった! すぐに候補の曲の楽譜を用意するよ! わあ~、急がないと! プログラムも調整してっ」
手帳を出して、メモを取り出す修に、高耶は苦笑しながら、そういえばと思い出す。
「エルラントさんが、手が足りなければ手伝いたいと言っていましたよ。相談すると喜ぶと思います」
「本当? いいのかな? ちょっとメールだけしてみようかな……」
「ええ。してみてください」
きっと、すぐに既読も付いて、返事も返ってくるだろう。あちらも嬉し過ぎて、咄嗟に日本語で返せないかもしれない。
「っ、わあっ、えっと、あ~、これは何語だろ……」
「ドイツ語かフランス語です。けど、すぐに日本語で打ち直してきますよ」
予想通りだったようだ。話している間にすぐにまたメールが来たようだ。
「あっ、本当だ。打ち合わせ……瑶迦さんの所でっ。今すぐ!?」
「さすがエルラントさんですね。扉繋げますよ。帰りはいつも通り家からですが、いいですか?」
「もちろん! あっ、それでは私はこれで失礼しますね」
修は慌ただしく校長達に挨拶をする。
その間に、高耶は適当な戸棚を修の靴の入った下駄箱に繋いで取る。修はそれを受け取って、改めて高耶が繋いだ扉を通り、瑶迦の所へと向かった。
修も慣れたもので、意味がわからないのは杉だけ。時島も平然としている。
「えっと……今のは……なんでそこから靴が……それに、廊下じゃなくて違う場所が向こう側に……」
「そういうことも出来るんだよ」
「そういうことも出来るのよ」
「……なるほど……聞くのはやめます」
時島と那津に何でもないことのように言われ、杉は黙った。色々と突っ込まれるのは避けられたと、高耶はピアノ演奏を再開する。そして、一人呟いた。
「……明日は統二の学校か……」
また仕事が増えないと良いなと願いながらも、視界に入る神からもらった金の指輪の反射する光に、少しだけ不安も感じていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
高耶と修は一週間か二週間に一度見に行くだけとなった。
その日は、子ども達が下校した後。音楽室で修や杉、校長の那津と教頭の時島を交えて学芸会の進捗状況などの話し合いをしていた。
その間、BGM代わりに高耶がオルゴールバージョンの校歌を静かに、小さな音で響かせていたのだが、そこに、鳥の姿をした神が入ってきた。
高耶が居ること。その高耶がこの場に居る者たちを信頼していることが分かったのだろう。神はスルリと窓から入り込んできたのだ。
那津達は一瞬ビクリと緊張した様子だったが、高耶が目で制すると、席を立たずに静かに息を詰めた。
神の方は高耶の弾いているピアノの譜面立ての角に止まる。
《よい。そのままで……》
ピアノを止めるなと言われ、心地よさそうに目を閉じて留まる神のため、高耶はそのまま弾き続けていた。
《……凝っていた歪みが正された……ヌシに礼を言う……》
「いえ。子ども達が頑張ったからですよ」
《うむ……数人の子ども達の力だけで、ここまで変わるか……》
ゆったりと目を開け、外へ感覚を広げるように窓の外へと視線を向ける神。
穴となるほど凝っていたものが、高耶が動いたことでほとんど解きほぐれた。まだまだ力が滑らかに巡るとまではいかないが、かなりの変化だ。
「子どもだからでしょう……子どもが頑張る姿は、大人を動かします。行動だけでなく、心も……あれは、本当に不思議です」
《なるほど……そうかもしれん。面白いものだ》
「はい……」
子どものために、大人は自然と手を貸してしまう。大人だけではやらないことも、子どもが居れば出来る。そうさせる力が子ども達にはあった。
《繋がりの切れかけていた場所もあったが……再び繋がれたようだな……》
「こちらの管理も甘くなっていました。早急に見直しもしています」
高耶は、春奈のことがあり、すぐに連盟へ報告を入れた。これにより、各地で見直しが為されることになった。
徐々に管理する者のいなくなった神社などの調査や引き継ぎが行われる予定だ。
《うむ……また人と繋がれる……忘れ去られるのも自然なことだと受け入れてはいたが……やはりな……》
「……」
寂しいと、辛いと、神であっても感じるのだろう。少なくとも、高耶が顔を合わせてきた神々に、感情がないなんてことはなかった。だからこそ、高耶も力になりたいと思うのだ。
神は次いで、高耶を真っ直ぐに見つめる。
《……気を付けろ》
「私ですか?」
《人として生きている者で、これほど神力を放っている者ははじめてだ……どこぞに封じられぬように気を付けよ》
これまでも気をつけるようにと言われてはきたが、神に真剣に忠告されるほどではないと思っていた。
「……そこまで……ですか……」
《うむ……どれ、これを持っていると良い》
神と高耶の間に、光の玉が現れる。それが高耶の右の中指に落ちる。すると、金の細い指輪になった。
「これは……」
着けている感覚が全くない。恐らく、視える者も限られる物だろう。
《溢れ出る神力を、そこに溜めることが出来る。それでようやく、人の枠に納まるくらいになるだろう》
「……人の枠……」
どうやら、人の枠からはみ出ていたようだ。
《人というより、神に近くなっていたからな。側に置いている者の力で、誤魔化されていただけだ》
「そうでしたか……」
珀豪達が側に居たことで、誤魔化さていたらしい。
そこで用は済んだというように、神は翼を広げた。
《いつでも歓迎する。また来るが良い》
「はい。ありがとうございます」
そうして、神はまた窓から帰って行った。
「っ……御当主……もう大丈夫かしら?」
那津が、恐る恐る声をかけてくる。
「ええ。お帰りになりました」
「はあ……緊張したわ……」
修も肩の力を抜いてほっと息を吐く。
「神さまも、進捗を見にこられたのかな」
「そうですね。ここまでの所はご満足いただけたようです。学芸会、頑張ってもらわないといけませんね」
笑って告げれば、杉が胸を押さえる。
「私、プレッシャーに弱いんですけどっ」
「ふふふっ。失敗できないわね~」
「やめてくださいよ校長っ」
「神に奉納するようなものと考えた方が良さそうだな」
「っ、教頭までっ。ううっ、でも私が出るんじゃないですもんね……っ、子ども達ならっ……でも緊張する!」
杉の顔色が若干悪くなっていた。反対に、修は何だか嬉しそうだ。
「ピアノの発表会に出る子の先生の気持ちってこんななんだね。自分のコンサートの時より緊張するかもっ」
「修さんは何だか楽しそうですね」
「楽しいよっ。子ども達に先生って呼ばれるのも嬉しいしね。それに成果を発表できるっていうのはね……うん。楽しいよ」
「それは良かったです」
「もちろん、高耶くんと一緒にやるのが一番だけどね。だからコンサート、一緒にやろうよ」
修の冬のコンサートで、高耶が友情出演するという話があった。それにまだ、正式に了解していなかったのだ。
ここまで言われては、断れない。何よりも高耶も修との共演は楽しみだった。
「はい。やりましょう」
「っ、本当!? やった! すぐに候補の曲の楽譜を用意するよ! わあ~、急がないと! プログラムも調整してっ」
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「エルラントさんが、手が足りなければ手伝いたいと言っていましたよ。相談すると喜ぶと思います」
「本当? いいのかな? ちょっとメールだけしてみようかな……」
「ええ。してみてください」
きっと、すぐに既読も付いて、返事も返ってくるだろう。あちらも嬉し過ぎて、咄嗟に日本語で返せないかもしれない。
「っ、わあっ、えっと、あ~、これは何語だろ……」
「ドイツ語かフランス語です。けど、すぐに日本語で打ち直してきますよ」
予想通りだったようだ。話している間にすぐにまたメールが来たようだ。
「あっ、本当だ。打ち合わせ……瑶迦さんの所でっ。今すぐ!?」
「さすがエルラントさんですね。扉繋げますよ。帰りはいつも通り家からですが、いいですか?」
「もちろん! あっ、それでは私はこれで失礼しますね」
修は慌ただしく校長達に挨拶をする。
その間に、高耶は適当な戸棚を修の靴の入った下駄箱に繋いで取る。修はそれを受け取って、改めて高耶が繋いだ扉を通り、瑶迦の所へと向かった。
修も慣れたもので、意味がわからないのは杉だけ。時島も平然としている。
「えっと……今のは……なんでそこから靴が……それに、廊下じゃなくて違う場所が向こう側に……」
「そういうことも出来るんだよ」
「そういうことも出来るのよ」
「……なるほど……聞くのはやめます」
時島と那津に何でもないことのように言われ、杉は黙った。色々と突っ込まれるのは避けられたと、高耶はピアノ演奏を再開する。そして、一人呟いた。
「……明日は統二の学校か……」
また仕事が増えないと良いなと願いながらも、視界に入る神からもらった金の指輪の反射する光に、少しだけ不安も感じていた。
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読んでくださりありがとうございます◎
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