秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
336 / 463
第六章 秘伝と知己の集い

336 徹夜しました

しおりを挟む
意外にも何とかなるものだと思える半日だった。

「……終わった……」

高耶は長々と息を吐く。日が昇って白い太陽の光が目に痛い。夜中ずっと神様を宥め、接待のような事をしていたのだ。

心身ともに物凄く疲れたというのが高耶の感想だった。

そして、徹夜明けのせいか、絶望的な状況を経験したせいなのか、神楽部隊を中心として、神々の相手をして来た一同のテンションは高めだった。

「いやあ~っ、本当に、今回は特に秘伝の御当主がいらっしゃらなかったらと思うと、ゾッとしますよっ」
「普通に死を覚悟しましたね……本当にっ、本当にっ、ありがとうございました!!」

高耶を拝む者が六割。

「土砂降りになった時は本当にどうしようかとっ……っ、龍神様の姿が三つあると気づいた時の絶望はもうっ……ううっ……雨怖い……っ」
「息出来ないくらいの雨って……滝か? 滝行か? うん。滝行かも……」

未だ混乱するのが一割。

雨雲が来るなあと見つめていた先に、一体だと思っていた龍神の顔が三つ確認できた一同はひっと息を呑んだ。それが最初の衝撃だった。

「さすがは、秘伝の御当主です。あれを見ても特に慌てもせず、顔色も変えないのですからねえ。頼もしかったですよっ!」
「いや……その……何とかなって良かったです……」

その時、高耶は『キングギ◯ラか!?』と、思わず興奮して目を輝かせたのだが、それは気付かれなかったようだ。

そして、残りの三割は珍しいものを見たなあと、その話で今から酒盛りでも始めようかという元気さ。

「あっはっはっはっ。いやあ、本当に、出雲もびっくりな大集合でしたなあっ」
「ちょっ、なんで笑えるの!? おじいっ、頭おかしくなった!?」
「笑うしかない状況だったしなあっ。俺も笑えたっ」
「あんなに慌てたのは初めてだわいっ。これがテンパったってやつだなあっ」

年配の者達ほど、晴れやかに笑っている。あまりの異常事態に、笑うしかなかったというわけだ。

目に見えて異常が出たのは、雨が降ったことだけ。あとはちょっとガラの悪くなった怒り心頭の神達を宥めるだけで済んだのは幸いだった。

高耶が廊下で息を吐いていれば、部屋から出て来た蓮次郎が、戸に寄り掛かりながらしみじみと細い目を更に細めた。

「ふう~。いやあ~、良い天気だねえ~。目に染みるよ。まったく、不毛の地とかにされたらヤバかったねえ。神様は祟るから~」

振り返って確認した蓮次郎の顔には、明らかな疲れが見えた。ひたすら神具の手入れをし、浄化をしていたのだ。徹夜したため顔色が悪い。

それらの神具などは、行脚師達も使い、本来の場所に戻されていっている。現在もまだ走り回っていた。

「ええ……それも、ここの土地神は休眠状態のようなので、手を出されたらどうなっていたか……」

高耶が気にしていたのはそこだ。よって全力で接待した。

「高耶くんもだけど、神格持ちのセッちゃんが居てくれて助かったよ……今回は本当に、神楽部隊もほぼ全員集まってたってのも大きいね……」
「素早く対応できたのは良かったです。休暇になるはずだった伊調さん達には申し訳なかったのですが……」

懐かしい女将達との交流と、懐かしい場所でのゆったりとした時間を過ごせるはずが、まさかの徹夜作業だ。巻き込んでしまって申し訳ないと高耶は思っていた。

しかし、それは高耶にもいえること。

伊調が晴れやかな様子で声をかけてくる。

「御当主こそ、楽しい同窓会だったはずですのに。貴重なご友人達との時間を奪ってしまいました」
「あ、いえ……」

友人達と一緒に居たとしても、高耶には楽しく騒ぐなんてことが出来たかと言われれば、多分それほどでもない。恋バナとか、最近の話題とか、そうしたものに高耶は中々交ざれない。前の晩も早々に床についていたのだから、昨晩もそう変わらなかっただろう。

そうした、今時の若者の友人達との付き合い方が分からない高耶は、何と言ったらいいのかと少し困っていれば、そこに俊哉がやって来た。様子を見に来たらしく、不安顔の武雄と一緒だ。

「高耶の場合は、同年代の奴らとの騒ぎ方を知らねえから夜寝るだけだって。こっちのが賑やかに過ごせたんじゃね? ってか、何? もしかして徹夜? おっさんも?」

俊哉が蓮次郎に、顔を向ける。

「やべえ顔色してんじゃん……飯は?」
「忘れてたね」
「確かに、忘れていましたね。夕食からバタバタでしたし」
「っ、わぁぁぁっ、すみません! 何か入れる雰囲気じゃなくてっ。というか、なんでかここに入れなくてっ」

武雄が頭を下げる。朝食さえも食べられますかと聞ける雰囲気ではなかったのだ。というか、物理的に武雄達は入れなかった。

「いや、食べてる暇なかったし、珀豪達もこっちに呼んじまったしな……というか、女将達が入って来てたら危なかった。だから、結界で入れなくしてたんだよ」

そう高耶が説明すると、武雄が少し落ち着く。

「結界って……本当に何か壁があるみたいになってて……あれが結界……」
「ああ。悪いが、今から軽く食べられるものを頼んで良いか? あと、温泉今から入れるか?」
「あ、うん。その確認したくて俊哉がそろそろ入れるっていうから来たんだ。食事の用意するよ。えっと……何人分?」

そうだったと高耶は部屋の方に目を向ける。

現在、転がっているのも居るが、げん達や清掃部隊の者、橘家の者、焔泉が呼んだ者など、かなりの人数が来ている。

今現在、外に出ている者も居た。

「軽く五、六十人分いいか? 大鍋で、自分たちで取ってもいいから」
「あ~、うん。分かった。あっ、あと、温泉も大丈夫。大浴場も好きに入って」
「助かる。蓮次郎さん、伊調さん達も、温泉入って、軽く食べてから休みましょう。先ず水分は摂ってください」
「そうするよ。はあ……うん、温泉かあ。いいねえ」
「いいですねえ。さっぱりしてきましょうか。濡れた者もいますから」

そうして、怒涛の夜の戦いが終わった。









**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...