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第一章 魔術師の日常
001 王妃になるために
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『女神なんてお断りですっ。』勝手に文庫化記念◎
同時期に別サイトで投稿していたものを改稿し
毎日投稿いたします♪
お暇潰しに気楽にご覧ください◎
**********
そこは、広大な闘技場。
どんな魔術にも破壊されないよう、強固な結界が幾重にもかけられ、万が一にも、観客席や闘技場の外に被害が出ないようになっている。
魔族が誇る、世界一強固な国立闘技場である。
そこで今、この世界で最強と目されている二人の男女が闘っていた。
「っ……これならっ」
展開された魔方陣が、巨大な炎の龍を生み出し、相手に襲い掛かる。
「っく……」
それを、両手を前に突き出し、前面に展開した魔方陣で受け止めた男は、奥歯を噛み締めて耐えた。
「次はこれっ」
炎を出し尽くすと、女の方は次に小さな魔方陣を幾つも展開、発動させる。
「っな……っ」
放たれた火の球を見れば、『ファイヤーボール』と呼ばれる初級の攻撃魔術だ。しかし、それは普通の『ファイヤーボール』とは一味も二味も違った。
速度は通常の三倍。
個数も、通常一つの魔方陣に三つが限度なのだが五つ出現しており、更にこの世界でも十人程しか出来ないと言われる、最上難易度の同時展開を五つ発動させている。
一つの球の大きさは、拳程と小さいが驚異を隠しきれない。距離を取る為に舞台の端まで下がっていなければ、避ける事はできなかっただろう。
『ザシュッ』とあり得ない音が聞こえ、男は戦慄する。
「なっ!?」
自慢の魔剣で避けきれなかった球を切ったのだが、明らかにおかしな手応えだった。
ゴロンっと切れた物が真っ二つになってサイドに転がるのを目の端に捉え、血の気が引いた。
「っ、ただの炎の球ではないのかっ。な、何が何でも避けねば……っ」
まだまだ出現して向かってくる炎の球に、最大限の身体能力で回避行動を取る。しかし、それに気を取られて、男はその接近に気付かなかった。
「っなッ……!」
ドコッと、瞬間的に移動してきた相手に腹を蹴られ、吹き飛ばされる。そのまま場外へ出され、あっけなく倒れた。
「ふぅ……ふふっ、勝ったわっ!」
舞台の上で勝利を宣言した『彼女』は、満面の笑みをうかべ、握りしめた両手を高らかに振り上げた。それに応えるように、闘いを見守っていた者達が沸き立つ。
「すごいよ、姫様ぁぁぁっ」
「本当に勝ちやがった……」
「やったぁぁっ、姫様っ。これで、誰もが認める『お妃様』ですっ」
「すぐに婚約式の用意をっ」
「「「リズリール様ぁぁぁっ」」」
大きな複数の声に首を傾げる。
「え……こんなにギャラリーいたっけ……」
『彼女』ーーリズリールは、いつの間にか十倍ほど増えていた観客に驚き、その姿勢のまま固まった。始めた時は城の人達だけだったはずだ。
ぐるりと見回すと、間違いなくこの国の国民の多くがこの場に集っている様子に、ゆっくり腕を下ろし、目を数回瞬せた。
「あ、王様が立った」
「おお、何ともないようだな」
「さすがは、我らの王」
そんな観客席からの言葉に、ふっと『彼』に目を向ける。
先程吹き飛ばした『彼』は、軽やかに歩きながら服の埃を落とし、舞台に上がって歩み寄ってきた。
「ごめんね、ウィル。怪我は?」
「いや。最後のは予想外だったがな……」
「ふふっ。ここまで来て、手加減は出来ないもの」
その言葉に苦笑して、ウィルバート・ティエルード・サンドリュークは、リズリールを抱き上げた。
「まったく……何なら、お前が王になるか?」
「ヤダ。私の目的は、ウィルの『お嫁さん』になる事だもの。『王』なんて役職はいらない。ウィルも王様なんて辞めて、私の世界に来ない? ちゃんと養ってあげるから」
「いや……夫としては、養われる側は遠慮したい……リズが嫌なら『王』は辞めてもいいがな」
そんな台詞を、舞台でイチャイチャと顔を近付け合って吐く二人に、観客は静まり返った。
そして、唐突に正気に返り一斉に叫んだ。
「「「国王様っ、リズリール様、万ざぁいぃぃっ!!」」」
そう、誰もが同じ思いだった。
『リズリール様を早く王妃にっっっ!!』
そうしなければ、ウィルバートが本当に退位しかねない。国民はあまねく知っていた。自分達の王は、最も強く、最も賢く、最も王に相応しい。そんな王が、唯一愛した女性が異世界から来た天才魔術師。
『リズリール』
今年十六歳になる少女だ。
「聞こえてたみたいだね。ウィルに王様辞めて欲しくないって、みんな必死だよ?」
「そう言う事なのか? まぁ良い。これで、国民全てがリズを王妃と認めた。このまま結婚するか?」
額と額をくっ付け、変わらずラブラブっぷりを披露していると、今度は宰相達が飛んできた。
「お待ちくだされぇぇっ。先ずは婚約式ですっ。これは大切な国としての行事っ! その上初の婚約式です! 勝手をされては困りますぅっっっ」
それはもう、泣きそうなほどの勢いで、国の重鎮達が多くの民が見ているその場所で土下座した。
「「……任せる……」」
思わず二人で呟いた言葉は、全く同じ響きだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 10
◉『女神なんてお断りですっ。』
文庫版だけの書き下ろし番外編もあります。
よろしくお願いします!
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そこは、広大な闘技場。
どんな魔術にも破壊されないよう、強固な結界が幾重にもかけられ、万が一にも、観客席や闘技場の外に被害が出ないようになっている。
魔族が誇る、世界一強固な国立闘技場である。
そこで今、この世界で最強と目されている二人の男女が闘っていた。
「っ……これならっ」
展開された魔方陣が、巨大な炎の龍を生み出し、相手に襲い掛かる。
「っく……」
それを、両手を前に突き出し、前面に展開した魔方陣で受け止めた男は、奥歯を噛み締めて耐えた。
「次はこれっ」
炎を出し尽くすと、女の方は次に小さな魔方陣を幾つも展開、発動させる。
「っな……っ」
放たれた火の球を見れば、『ファイヤーボール』と呼ばれる初級の攻撃魔術だ。しかし、それは普通の『ファイヤーボール』とは一味も二味も違った。
速度は通常の三倍。
個数も、通常一つの魔方陣に三つが限度なのだが五つ出現しており、更にこの世界でも十人程しか出来ないと言われる、最上難易度の同時展開を五つ発動させている。
一つの球の大きさは、拳程と小さいが驚異を隠しきれない。距離を取る為に舞台の端まで下がっていなければ、避ける事はできなかっただろう。
『ザシュッ』とあり得ない音が聞こえ、男は戦慄する。
「なっ!?」
自慢の魔剣で避けきれなかった球を切ったのだが、明らかにおかしな手応えだった。
ゴロンっと切れた物が真っ二つになってサイドに転がるのを目の端に捉え、血の気が引いた。
「っ、ただの炎の球ではないのかっ。な、何が何でも避けねば……っ」
まだまだ出現して向かってくる炎の球に、最大限の身体能力で回避行動を取る。しかし、それに気を取られて、男はその接近に気付かなかった。
「っなッ……!」
ドコッと、瞬間的に移動してきた相手に腹を蹴られ、吹き飛ばされる。そのまま場外へ出され、あっけなく倒れた。
「ふぅ……ふふっ、勝ったわっ!」
舞台の上で勝利を宣言した『彼女』は、満面の笑みをうかべ、握りしめた両手を高らかに振り上げた。それに応えるように、闘いを見守っていた者達が沸き立つ。
「すごいよ、姫様ぁぁぁっ」
「本当に勝ちやがった……」
「やったぁぁっ、姫様っ。これで、誰もが認める『お妃様』ですっ」
「すぐに婚約式の用意をっ」
「「「リズリール様ぁぁぁっ」」」
大きな複数の声に首を傾げる。
「え……こんなにギャラリーいたっけ……」
『彼女』ーーリズリールは、いつの間にか十倍ほど増えていた観客に驚き、その姿勢のまま固まった。始めた時は城の人達だけだったはずだ。
ぐるりと見回すと、間違いなくこの国の国民の多くがこの場に集っている様子に、ゆっくり腕を下ろし、目を数回瞬せた。
「あ、王様が立った」
「おお、何ともないようだな」
「さすがは、我らの王」
そんな観客席からの言葉に、ふっと『彼』に目を向ける。
先程吹き飛ばした『彼』は、軽やかに歩きながら服の埃を落とし、舞台に上がって歩み寄ってきた。
「ごめんね、ウィル。怪我は?」
「いや。最後のは予想外だったがな……」
「ふふっ。ここまで来て、手加減は出来ないもの」
その言葉に苦笑して、ウィルバート・ティエルード・サンドリュークは、リズリールを抱き上げた。
「まったく……何なら、お前が王になるか?」
「ヤダ。私の目的は、ウィルの『お嫁さん』になる事だもの。『王』なんて役職はいらない。ウィルも王様なんて辞めて、私の世界に来ない? ちゃんと養ってあげるから」
「いや……夫としては、養われる側は遠慮したい……リズが嫌なら『王』は辞めてもいいがな」
そんな台詞を、舞台でイチャイチャと顔を近付け合って吐く二人に、観客は静まり返った。
そして、唐突に正気に返り一斉に叫んだ。
「「「国王様っ、リズリール様、万ざぁいぃぃっ!!」」」
そう、誰もが同じ思いだった。
『リズリール様を早く王妃にっっっ!!』
そうしなければ、ウィルバートが本当に退位しかねない。国民はあまねく知っていた。自分達の王は、最も強く、最も賢く、最も王に相応しい。そんな王が、唯一愛した女性が異世界から来た天才魔術師。
『リズリール』
今年十六歳になる少女だ。
「聞こえてたみたいだね。ウィルに王様辞めて欲しくないって、みんな必死だよ?」
「そう言う事なのか? まぁ良い。これで、国民全てがリズを王妃と認めた。このまま結婚するか?」
額と額をくっ付け、変わらずラブラブっぷりを披露していると、今度は宰相達が飛んできた。
「お待ちくだされぇぇっ。先ずは婚約式ですっ。これは大切な国としての行事っ! その上初の婚約式です! 勝手をされては困りますぅっっっ」
それはもう、泣きそうなほどの勢いで、国の重鎮達が多くの民が見ているその場所で土下座した。
「「……任せる……」」
思わず二人で呟いた言葉は、全く同じ響きだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 10
◉『女神なんてお断りですっ。』
文庫版だけの書き下ろし番外編もあります。
よろしくお願いします!
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