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第一章 魔術師の日常
010 俺の『姉』
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ずっと気になっていた。
頭が良くて。
何でも出来て。
可愛くて綺麗な俺の『姉』
今でも、何度も好きだと思って、その度に落胆する。
『血の繋がった姉』
小さい頃から、理修の存在は知っていた。その姿も、お袋に隠れて親父が祖父さんから送られてきた写真を見せてくれていたから忘れた事はない。
毎年、親父宛に送られてくる写真。ずっと、それが楽しみだった。体が弱い為に、空気の綺麗な田舎で暮らしているんだと聞いていたから心配もしていた。
それも、七つになる頃にはもう大丈夫だと知り、いつ会えるのかと親父に聞いては困らせた。
そう、明良は『姉』に恋をしていた。
それを自覚したのは、八才の時。子どもながらに真剣に悩んだ。そして、あの日。朝から親父が珍しく声を荒立てていた。
それだけなら、部屋に大人しく引っ込んでいただろう。だが、漏れ聞こえた言葉の中に、『リズ』と『亡くなった』と言う単語があった事に、体を強張らせた。
奇しくも、三日前に近所で葬儀があり『亡くなった』と言う言葉の意味が分かってしまったのだ。
「っ、リズが、死んだ……っ?」
その時の喪失感を、忘れる事はできない。何もかもが遠く感じられ、音さえも聞こえなくなった。最初にそんな俺の異変に気付いたのは兄の拓海だった。
「っ……おいっ。アキラッ。っおいっ!!」
はっと気付いた時、拓海の声で驚いて部屋から出てきた親父と目が合った。その時、真っ先に口をついて出たのは一言だけ。
「っリズはっ?」
「っ……明良……」
目を見開く親父に、もう一度問いかける。俺には、その言葉しかなかったのだ。
「っ大丈夫だ。でも、お祖父さんが亡くなって、寂しがっていると思うから、今から迎えに行こう。二人とも、制服に着替えておいで」
その言葉で『亡くなった』のが理修ではなかった事に気付き、ほっとすると同時に不謹慎ではあるが、やっと会えると思って嬉しかった。
嫌がるお袋を引きずるように葬儀の会場に着くと、真っ先に理修を探した。もう、全てが終わっていたが、まだ沢山の人が残っていた。
そして、その沢山の人に囲まれる理修の姿を発見し、不意に不安になった。
大人達に囲まれても、気丈な態度ではっきりと受け答えて頭を下げている理修の様子に、親父もお袋も驚いているようだった。
理修は、この時まだ十才。けれど、周りの大人達はその態度に驚いている様子はない。皆が親しげに、時に抱き締めて何かを訴えていた。
『一緒に暮らそう』
それを親父が言う前に、多くの大人達が口にする。
『こちらでは生きにくいだろう』
そう言って、手を差し伸べる者もいた。親父もお袋も、俺自身も動く事ができなかった。
いつしか端に寄り、他の人達が帰ってしまうまで立ち尽くしていた。
やがてぽつんと一人、理修だけが取り残された所で、ようやく親父が動いた。一歩を踏み出すと、同時にこちらに気付いた理修が立ち上がった。
目が合った。
「……はじめまして。リズといいます……」
そんな他人行儀な挨拶が、初めて聞いた理修の声だった。
お袋は、祖父さんと仲が悪いと言うのは知っていた。一度も会った事のない母方の『祖父』を初めて見たのは、理修と暮らし始めて数日後の事だった。
写真でさえ見たことのなかった祖父。
その日、何気無く覗いた理修の部屋。机に置かれた写真立てが目に入った。写真の中では、理修と微笑みを向ける男の姿があった。
「どうしたの?」
「っ……!!」
じっと目を凝らして見ていた為に、背後に近付いていた理修に気付かなかったのだ。
「ごめん……ビックリした?」
申し訳なさそうに、理修が言う。そして、俺が見ていた物に気付くと、部屋に駆け込み写真立てを手に戻ってきた。
「これね。これは、じぃさまだよ」
「………」
その写真を見れば見る程、俺の中のイメージと違い過ぎて、酷く混乱した。そもそも、お袋の偏った言葉のせいで、俺の中の祖父さんは『頑固ジジィ』になっていたのだ。
だが、写真の中で微笑むのは『祖父さん』と呼ぶのも憚れるような、日本人離れした綺麗な人だった。もちろん、皺も刻まれているのだが『頑固ジジィ』にはとても見えない。
「……じぃさん……?」
「そうだよ?すっごく『若作り』でしょ?」
そう、嬉しそうに言うリズにどう返したら良いのか分からなかった。
「……『若作り』って……」
その姿は、世間一般の『じぃさん』より若く見える。けれど、なぜかとても不思議で奇妙な違和感を感じた。しかし、その正体に気付く事はなかった。
「あってみたかった……」
「じぃさまに? そっかぁ……でも、男の子にはキビシイ人だったから、あわなくてセイカイだったとおもうよ?」
どう言う意味だろう。理修は腕を組み、仕切りに頷いている。
「『男は強くあるもの』『男は戦場に出て一人前』って言ってたものね。マゴだし。『遠慮なし』ってなるよね。じぃさまだもん。少し『脳筋』なところがあったからね……」
「…………」
一体、なんの話かわからない。そんな言葉が、顔に出ていたのだろう。それに気付いた理修が説明する。
「あ、うんとね。もしあってたら、きっと『後悔』してたよってこと。じぃさま、じつは、アキラくんに目をつけてたから」
「えっ?」
会ったことはないのに。
「じぃさまは、アキラくんのことしってたよ? じぃさまだもん。それで『根性のあるやつ』ってうれしそうに言ってたから、あってたらタイヘンだったとおもうよ」
その時究極的にわかったのは、理修にとって『じぃさま』が全てだったのだと言う事。
そしてこの日、祖父さんについての謎が一気に増えたのだった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 7. 18
頭が良くて。
何でも出来て。
可愛くて綺麗な俺の『姉』
今でも、何度も好きだと思って、その度に落胆する。
『血の繋がった姉』
小さい頃から、理修の存在は知っていた。その姿も、お袋に隠れて親父が祖父さんから送られてきた写真を見せてくれていたから忘れた事はない。
毎年、親父宛に送られてくる写真。ずっと、それが楽しみだった。体が弱い為に、空気の綺麗な田舎で暮らしているんだと聞いていたから心配もしていた。
それも、七つになる頃にはもう大丈夫だと知り、いつ会えるのかと親父に聞いては困らせた。
そう、明良は『姉』に恋をしていた。
それを自覚したのは、八才の時。子どもながらに真剣に悩んだ。そして、あの日。朝から親父が珍しく声を荒立てていた。
それだけなら、部屋に大人しく引っ込んでいただろう。だが、漏れ聞こえた言葉の中に、『リズ』と『亡くなった』と言う単語があった事に、体を強張らせた。
奇しくも、三日前に近所で葬儀があり『亡くなった』と言う言葉の意味が分かってしまったのだ。
「っ、リズが、死んだ……っ?」
その時の喪失感を、忘れる事はできない。何もかもが遠く感じられ、音さえも聞こえなくなった。最初にそんな俺の異変に気付いたのは兄の拓海だった。
「っ……おいっ。アキラッ。っおいっ!!」
はっと気付いた時、拓海の声で驚いて部屋から出てきた親父と目が合った。その時、真っ先に口をついて出たのは一言だけ。
「っリズはっ?」
「っ……明良……」
目を見開く親父に、もう一度問いかける。俺には、その言葉しかなかったのだ。
「っ大丈夫だ。でも、お祖父さんが亡くなって、寂しがっていると思うから、今から迎えに行こう。二人とも、制服に着替えておいで」
その言葉で『亡くなった』のが理修ではなかった事に気付き、ほっとすると同時に不謹慎ではあるが、やっと会えると思って嬉しかった。
嫌がるお袋を引きずるように葬儀の会場に着くと、真っ先に理修を探した。もう、全てが終わっていたが、まだ沢山の人が残っていた。
そして、その沢山の人に囲まれる理修の姿を発見し、不意に不安になった。
大人達に囲まれても、気丈な態度ではっきりと受け答えて頭を下げている理修の様子に、親父もお袋も驚いているようだった。
理修は、この時まだ十才。けれど、周りの大人達はその態度に驚いている様子はない。皆が親しげに、時に抱き締めて何かを訴えていた。
『一緒に暮らそう』
それを親父が言う前に、多くの大人達が口にする。
『こちらでは生きにくいだろう』
そう言って、手を差し伸べる者もいた。親父もお袋も、俺自身も動く事ができなかった。
いつしか端に寄り、他の人達が帰ってしまうまで立ち尽くしていた。
やがてぽつんと一人、理修だけが取り残された所で、ようやく親父が動いた。一歩を踏み出すと、同時にこちらに気付いた理修が立ち上がった。
目が合った。
「……はじめまして。リズといいます……」
そんな他人行儀な挨拶が、初めて聞いた理修の声だった。
お袋は、祖父さんと仲が悪いと言うのは知っていた。一度も会った事のない母方の『祖父』を初めて見たのは、理修と暮らし始めて数日後の事だった。
写真でさえ見たことのなかった祖父。
その日、何気無く覗いた理修の部屋。机に置かれた写真立てが目に入った。写真の中では、理修と微笑みを向ける男の姿があった。
「どうしたの?」
「っ……!!」
じっと目を凝らして見ていた為に、背後に近付いていた理修に気付かなかったのだ。
「ごめん……ビックリした?」
申し訳なさそうに、理修が言う。そして、俺が見ていた物に気付くと、部屋に駆け込み写真立てを手に戻ってきた。
「これね。これは、じぃさまだよ」
「………」
その写真を見れば見る程、俺の中のイメージと違い過ぎて、酷く混乱した。そもそも、お袋の偏った言葉のせいで、俺の中の祖父さんは『頑固ジジィ』になっていたのだ。
だが、写真の中で微笑むのは『祖父さん』と呼ぶのも憚れるような、日本人離れした綺麗な人だった。もちろん、皺も刻まれているのだが『頑固ジジィ』にはとても見えない。
「……じぃさん……?」
「そうだよ?すっごく『若作り』でしょ?」
そう、嬉しそうに言うリズにどう返したら良いのか分からなかった。
「……『若作り』って……」
その姿は、世間一般の『じぃさん』より若く見える。けれど、なぜかとても不思議で奇妙な違和感を感じた。しかし、その正体に気付く事はなかった。
「あってみたかった……」
「じぃさまに? そっかぁ……でも、男の子にはキビシイ人だったから、あわなくてセイカイだったとおもうよ?」
どう言う意味だろう。理修は腕を組み、仕切りに頷いている。
「『男は強くあるもの』『男は戦場に出て一人前』って言ってたものね。マゴだし。『遠慮なし』ってなるよね。じぃさまだもん。少し『脳筋』なところがあったからね……」
「…………」
一体、なんの話かわからない。そんな言葉が、顔に出ていたのだろう。それに気付いた理修が説明する。
「あ、うんとね。もしあってたら、きっと『後悔』してたよってこと。じぃさま、じつは、アキラくんに目をつけてたから」
「えっ?」
会ったことはないのに。
「じぃさまは、アキラくんのことしってたよ? じぃさまだもん。それで『根性のあるやつ』ってうれしそうに言ってたから、あってたらタイヘンだったとおもうよ」
その時究極的にわかったのは、理修にとって『じぃさま』が全てだったのだと言う事。
そしてこの日、祖父さんについての謎が一気に増えたのだった。
*********
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2019. 7. 18
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