異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

文字の大きさ
38 / 80
第四章 再びの勇者召喚

038 巻き込んで異世界?

しおりを挟む
司は、その声を再び聞いた時『懐かしい』と感じていた。それが苦い記憶であっても、確かに存在した思い出なのだ。

ただ何と無く日々を送ることに不安を感じていた頃。まるでそれが救いであるように、その声が聞こえ、世界が開けた。息苦しいと感じていた事にさえ気付けなかった日々が終わりを迎えたのだ。そして、今日再びその声が聞こえていることに、戸惑いと少しの期待を感じていた。

光に呑まれる感覚は、ここ数年の理修と共に世界を渡る時の感覚で慣れてしまっていた。また自分は召喚されたのだと冷静に理解する。それはとても奇妙な感覚だった。

戸惑わないのは、自分以外の殆どの『勇者』が、再びの召喚を経験していると知っているからだ。中でも銀次は別格だ。そして、何度召喚されても、笑ながら帰ってくる銀次を見ている事で、何の心配もないのだと確信していた。

だが今、無事に召喚された司は、目を見開いて混乱していた。それは、召喚された場所や、出迎えた人のせいではない。

「ここは、どこ?」
「なんだよ……ここ……」
「どうゆう事っ?」

そんな、召喚初心者の反応をする知り合い達が目の前にいたからだ。

「こんな事が……」

自分の召喚に、誰かを巻き込んでしまうとは予想出来なかった司は、召喚した昔の知り合いなど眼中になかった。

「ようこそおいでくださいました。勇者様方」

司は、その言葉で、ようやく周りに目を向けた。わざとらしく両手を広げてそんな言葉を発したのは、少しだけ老けたように見える大司教だ。そして、その後ろ。祭壇の上で 膝をつくき、大きな目を潤ませている少女が目に入る。

「……ミリア……」

それが聖女の名前。生まれた時からこの神殿から出た事がないと言っていた少女は、未だ幼く見えた。しかし、その表情や瞳を見て、司は気付いた。

「変わったな……」

姿は殆ど変わりない。だが、その纏う雰囲気が昔とは違うと分かる。それを裏付けるように、聖女ミリアが口を開いた。

「グラン様。お待ちください。皆様、混乱なさっています。一度お部屋にご案内いたしましょう」

司は、表情に出さないまでもこれには驚いていた。昔のミリアならば、こんな時、大司教相手に意見など言わなかった。それが大司教でなくても、自分の意見を言葉にするミリアを見るのは初めてだったのだ。ただ、人形のように聖女を演じていた少女は今、不安に瞳を揺らしながらも、しっかりとした言葉を発していた。

「……そうですね。失礼いたしました。どうぞ、お部屋にご案内いたします。落ち着かれましたら、改めて事情のご説明をさせていただきましょう」

その大司教の言葉に頷き、案内について神殿を後にする。その際、ミリアの縋るような視線に気付きながらも、司は最後まで目を合わせようとはしなかった。

案内された部屋。神殿の関係者が退出し、気配が離れたのを確認した司は、先ず頭を下げた。

「巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「ちょっ、頭を上げてちょうだい。あなたが謝る事はないわ」
「そうだよ。君が悪い訳じゃない」
「いえ……」

そこで司は、ここが自分がかつて『勇者』として召喚された異世界である事。そして『勇者』である自分が、再びの召喚を予感していながらも、巻き込んでしまった事を話した。

「このように、誰かを巻き込むとは思わなかったので……本当に、申し訳ない」

そう言って、司はもう一度深く頭を下げた。それに由佳子が笑みを浮かべる。

「頭を上げてちょうだい。むしろ感謝したいわ。まさか、久し振りの休日で異世界旅行が出来るなんて、凄くワクワクするじゃない」
「え?」

目の前の由佳子は、その言葉が嘘ではないと一目で分かる程、キラキラと輝く笑顔を見せていた。

「すげぇよ。異世界!」
「中世のヨーロッパ風ってのがまさしくって感じだな」

明良と拓海は、キョロキョロと部屋を物色していた。

「ねぇ。ドラゴンとかもいるのかしら?」
「え、は、はい……」
「そっか、姉さんはエヴィ君に会ってないんだ」
「なになにそれ?ちょっと、内緒にするなんて酷いじゃない」
「お義姉さんったら……ふふっ」

こんな状況で、珍しく充花までが笑みを浮かべていた。

「……ど、どうなってるんだ?」

まったくこの状況に動じず、異世界と言うものを体験し、満喫しようとする理修の家族に、司は救われるような気持ちになった。

「さすがは理修の家族だな……」

そう、不思議と納得できてしまった司だった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 11
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...