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第四章 再びの勇者召喚
038 巻き込んで異世界?
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司は、その声を再び聞いた時『懐かしい』と感じていた。それが苦い記憶であっても、確かに存在した思い出なのだ。
ただ何と無く日々を送ることに不安を感じていた頃。まるでそれが救いであるように、その声が聞こえ、世界が開けた。息苦しいと感じていた事にさえ気付けなかった日々が終わりを迎えたのだ。そして、今日再びその声が聞こえていることに、戸惑いと少しの期待を感じていた。
光に呑まれる感覚は、ここ数年の理修と共に世界を渡る時の感覚で慣れてしまっていた。また自分は召喚されたのだと冷静に理解する。それはとても奇妙な感覚だった。
戸惑わないのは、自分以外の殆どの『勇者』が、再びの召喚を経験していると知っているからだ。中でも銀次は別格だ。そして、何度召喚されても、笑ながら帰ってくる銀次を見ている事で、何の心配もないのだと確信していた。
だが今、無事に召喚された司は、目を見開いて混乱していた。それは、召喚された場所や、出迎えた人のせいではない。
「ここは、どこ?」
「なんだよ……ここ……」
「どうゆう事っ?」
そんな、召喚初心者の反応をする知り合い達が目の前にいたからだ。
「こんな事が……」
自分の召喚に、誰かを巻き込んでしまうとは予想出来なかった司は、召喚した昔の知り合いなど眼中になかった。
「ようこそおいでくださいました。勇者様方」
司は、その言葉で、ようやく周りに目を向けた。わざとらしく両手を広げてそんな言葉を発したのは、少しだけ老けたように見える大司教だ。そして、その後ろ。祭壇の上で 膝をつくき、大きな目を潤ませている少女が目に入る。
「……ミリア……」
それが聖女の名前。生まれた時からこの神殿から出た事がないと言っていた少女は、未だ幼く見えた。しかし、その表情や瞳を見て、司は気付いた。
「変わったな……」
姿は殆ど変わりない。だが、その纏う雰囲気が昔とは違うと分かる。それを裏付けるように、聖女ミリアが口を開いた。
「グラン様。お待ちください。皆様、混乱なさっています。一度お部屋にご案内いたしましょう」
司は、表情に出さないまでもこれには驚いていた。昔のミリアならば、こんな時、大司教相手に意見など言わなかった。それが大司教でなくても、自分の意見を言葉にするミリアを見るのは初めてだったのだ。ただ、人形のように聖女を演じていた少女は今、不安に瞳を揺らしながらも、しっかりとした言葉を発していた。
「……そうですね。失礼いたしました。どうぞ、お部屋にご案内いたします。落ち着かれましたら、改めて事情のご説明をさせていただきましょう」
その大司教の言葉に頷き、案内について神殿を後にする。その際、ミリアの縋るような視線に気付きながらも、司は最後まで目を合わせようとはしなかった。
案内された部屋。神殿の関係者が退出し、気配が離れたのを確認した司は、先ず頭を下げた。
「巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「ちょっ、頭を上げてちょうだい。あなたが謝る事はないわ」
「そうだよ。君が悪い訳じゃない」
「いえ……」
そこで司は、ここが自分がかつて『勇者』として召喚された異世界である事。そして『勇者』である自分が、再びの召喚を予感していながらも、巻き込んでしまった事を話した。
「このように、誰かを巻き込むとは思わなかったので……本当に、申し訳ない」
そう言って、司はもう一度深く頭を下げた。それに由佳子が笑みを浮かべる。
「頭を上げてちょうだい。むしろ感謝したいわ。まさか、久し振りの休日で異世界旅行が出来るなんて、凄くワクワクするじゃない」
「え?」
目の前の由佳子は、その言葉が嘘ではないと一目で分かる程、キラキラと輝く笑顔を見せていた。
「すげぇよ。異世界!」
「中世のヨーロッパ風ってのがまさしくって感じだな」
明良と拓海は、キョロキョロと部屋を物色していた。
「ねぇ。ドラゴンとかもいるのかしら?」
「え、は、はい……」
「そっか、姉さんはエヴィ君に会ってないんだ」
「なになにそれ?ちょっと、内緒にするなんて酷いじゃない」
「お義姉さんったら……ふふっ」
こんな状況で、珍しく充花までが笑みを浮かべていた。
「……ど、どうなってるんだ?」
まったくこの状況に動じず、異世界と言うものを体験し、満喫しようとする理修の家族に、司は救われるような気持ちになった。
「さすがは理修の家族だな……」
そう、不思議と納得できてしまった司だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 11
ただ何と無く日々を送ることに不安を感じていた頃。まるでそれが救いであるように、その声が聞こえ、世界が開けた。息苦しいと感じていた事にさえ気付けなかった日々が終わりを迎えたのだ。そして、今日再びその声が聞こえていることに、戸惑いと少しの期待を感じていた。
光に呑まれる感覚は、ここ数年の理修と共に世界を渡る時の感覚で慣れてしまっていた。また自分は召喚されたのだと冷静に理解する。それはとても奇妙な感覚だった。
戸惑わないのは、自分以外の殆どの『勇者』が、再びの召喚を経験していると知っているからだ。中でも銀次は別格だ。そして、何度召喚されても、笑ながら帰ってくる銀次を見ている事で、何の心配もないのだと確信していた。
だが今、無事に召喚された司は、目を見開いて混乱していた。それは、召喚された場所や、出迎えた人のせいではない。
「ここは、どこ?」
「なんだよ……ここ……」
「どうゆう事っ?」
そんな、召喚初心者の反応をする知り合い達が目の前にいたからだ。
「こんな事が……」
自分の召喚に、誰かを巻き込んでしまうとは予想出来なかった司は、召喚した昔の知り合いなど眼中になかった。
「ようこそおいでくださいました。勇者様方」
司は、その言葉で、ようやく周りに目を向けた。わざとらしく両手を広げてそんな言葉を発したのは、少しだけ老けたように見える大司教だ。そして、その後ろ。祭壇の上で 膝をつくき、大きな目を潤ませている少女が目に入る。
「……ミリア……」
それが聖女の名前。生まれた時からこの神殿から出た事がないと言っていた少女は、未だ幼く見えた。しかし、その表情や瞳を見て、司は気付いた。
「変わったな……」
姿は殆ど変わりない。だが、その纏う雰囲気が昔とは違うと分かる。それを裏付けるように、聖女ミリアが口を開いた。
「グラン様。お待ちください。皆様、混乱なさっています。一度お部屋にご案内いたしましょう」
司は、表情に出さないまでもこれには驚いていた。昔のミリアならば、こんな時、大司教相手に意見など言わなかった。それが大司教でなくても、自分の意見を言葉にするミリアを見るのは初めてだったのだ。ただ、人形のように聖女を演じていた少女は今、不安に瞳を揺らしながらも、しっかりとした言葉を発していた。
「……そうですね。失礼いたしました。どうぞ、お部屋にご案内いたします。落ち着かれましたら、改めて事情のご説明をさせていただきましょう」
その大司教の言葉に頷き、案内について神殿を後にする。その際、ミリアの縋るような視線に気付きながらも、司は最後まで目を合わせようとはしなかった。
案内された部屋。神殿の関係者が退出し、気配が離れたのを確認した司は、先ず頭を下げた。
「巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「ちょっ、頭を上げてちょうだい。あなたが謝る事はないわ」
「そうだよ。君が悪い訳じゃない」
「いえ……」
そこで司は、ここが自分がかつて『勇者』として召喚された異世界である事。そして『勇者』である自分が、再びの召喚を予感していながらも、巻き込んでしまった事を話した。
「このように、誰かを巻き込むとは思わなかったので……本当に、申し訳ない」
そう言って、司はもう一度深く頭を下げた。それに由佳子が笑みを浮かべる。
「頭を上げてちょうだい。むしろ感謝したいわ。まさか、久し振りの休日で異世界旅行が出来るなんて、凄くワクワクするじゃない」
「え?」
目の前の由佳子は、その言葉が嘘ではないと一目で分かる程、キラキラと輝く笑顔を見せていた。
「すげぇよ。異世界!」
「中世のヨーロッパ風ってのがまさしくって感じだな」
明良と拓海は、キョロキョロと部屋を物色していた。
「ねぇ。ドラゴンとかもいるのかしら?」
「え、は、はい……」
「そっか、姉さんはエヴィ君に会ってないんだ」
「なになにそれ?ちょっと、内緒にするなんて酷いじゃない」
「お義姉さんったら……ふふっ」
こんな状況で、珍しく充花までが笑みを浮かべていた。
「……ど、どうなってるんだ?」
まったくこの状況に動じず、異世界と言うものを体験し、満喫しようとする理修の家族に、司は救われるような気持ちになった。
「さすがは理修の家族だな……」
そう、不思議と納得できてしまった司だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 11
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