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第五章 封印の黒い魔人
052 転移する者
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ジェスラートは守護の魔女の一人だ。もう何百年とこの次元を守ってきた。
魔女の中でも実力はトップクラス。だが、そんなジェスラートでさえ、敵わないと思った者が存在した。
『リュートリール』
一般的に魔力は男よりも女の方が高く、受け継がれやすい事が分かっていた。魔女が多いのはその為だ。しかし、リュートリールは異質だった。その魔力も知識も全てにおいて、どの魔女達より優れていた。
「次元を渡ってきたのか」
「あぁ。お邪魔する。ここの次元は、素晴らしい結界があるな。危うく弾かれる所だったよ」
リュートリールは地球に降り立つと、真っ先にジェスラートの下へと挨拶にやって来た。ジェスラートは日本のとある山の中にいた。そこへリュートリールは、過たず真っ直ぐにやって来たのだ。
リュートリールには、守護の結界が誰によって張られているのか、その中で誰が最も実力ある者なのかが分かったようだ。
そして、結界に弾かれれば転移が失敗となり、次元の狭間へと弾き飛ばされる。それを危なかったと笑い飛ばしてしまっている事にジェスラートは驚いた。
「それで? 何をしに来た?」
全ての世界、次元に守護者が存在している訳ではないが、別の次元に移動する事はリスクを伴う。転移に失敗する事がないとは言えないのだ。
そもそも、転移の為には何らかの目標となるモノや場所がなくてはならない。
リュートリールは、この次元に初めて来た。何を目標にし、何を目的としてきたのかをジェスラートは知りたいと思った。
「別に。ここには力ある者が極端に集まっていたから気になって」
「は?」
リュートリールには、ジェスラートが警戒しているのが分かっていた。だからこそ、嘘偽らざる本心を臆面もなく告げた。
ジェスラートにもそれが分かった。だからこそ、次元を渡るという危険を犯してまで『気になった』というだけで行動したリュートリールが分からなくなった。
「バカか?隣り近所の家を訪問するとは訳が違うんだぞ?」
「そうか?私にはあまり変わらんのだがな」
「………」
ここで、リュートリールはジェスラートを絶句させるという偉業を成し遂げた。ジェスラートが全く二の句が継げないなどという事は、後にも先にもこの時だけだった。
「なんだ?何かおかしな事を言ったか?」
「あ……あぁ……お前みたいなバカを初めて見たよ……」
「はっはっはっ、それは誉め言葉だ。前例がないとは素晴らしいな」
「いや……ま、まぁいい……」
ジェスラートは、これほど理解出来ない思考の持ち主も珍しいと、逆に少しだけ印象が好転した。
「それで?何がしたいんだ?」
今度はどんな応えが返ってくるのだろうと、内心期待しながら待った。
「そうだなぁ……私も仲間に入れてくれ」
「な、仲間だと?」
「そうだ。数カ所だが、強い力を持った者だけで固まって生活しているのだろう?その里に私も入れてくれ。転移についてのリスクを知っているという事は、こちらでも転移魔術を使える者がいるという事だ。私は、これまでいくつもの次元を渡り、沢山の世界を見て来たが、転移を知る者はいなかった」
それが、リュートリールには寂しかったのだ。自分と同じ世界を見る事が出来る者がいない。それは、トゥルーベルで理解していた。だから次元を渡り、探していたのだ。同じ孤独を知る者を。
「……いいだろう。だが里ではない。組織だ。会社とも言うがな。仲間になるならば、お前にも何か役目を担ってもらうぞ」
「あぁ。お安い御用だ」
こうして、リュートリールがシャドーフィールドへ入った。
後に、このジェスラートと出会った山と一帯の森をリュートリールは購入する。そして、やがて家を建て、家族を得る事になるのだ。
◆ ◆ ◆
ミリアは一人、誰にも気付かれる事なく神殿の奥へと来ていた。
「ふっ、ふふふ……」
その声は間違いなくミリアのもの。しかし、ミリアが本来持つ雰囲気とは響きが違う。
「ふっ、あはははは……遂に、遂に見つけたっ」
大人しく、伏せがちになる普段のミリアからは考えられない恍惚とした瞳。可笑しくて、嬉しくて仕方がないといった様子で両手を広げて、その場でクルクルと回る。
どの表情も仕草も、ミリアではあり得ないと示す。
「ふふふ、不満があるとすれば、この貧相な体ね。でも、いいわ。きっと、きっとあの人なら気付いてくれるもの」
立ち止まると、うっとりとした表情で手を胸の前で組む。
まるで乞い願うように、恋人の来訪を待ち望む者のように。そして、それは間違いではない。
「ここよ。私はここにいるわ」
愛する人が自分を見つけ、会いに来てくれるのを待っているのだ。
「早く……早く……」
焦れる事さえ楽しんで、ミリアではあり得ない何者かは囁き続ける。
「待っても来ないかもしれないわよ」
「っ、誰っ?」
そこに現れたのは、理修。そして、少し遅れてその人も現れた。
「そうだな。貴様の待ち人は永遠に来ない。理由は……最期に教えてやろう」
「な、に?」
ジェスラートは、いつも通りの不敵な笑みを浮かべ、ソレに言った。
「ジェス姐……」
ジェスラートの登場に驚いたのは、理修も同じだ。全く気配を感じなかったのだ。
「ふっ、お前を目当てに転移したからな。久し振りにそんな顔を見たぞ」
そう言って、ジェスラートは理修を追い越しざま、頭を乱暴に撫でていった。
カツカツと靴音を響かせながら、ジェスラートはソレに近付いていく。
「その体は乗っ取ったのか。本体は……あぁ、そこにあるな」
「やっ、やめろっ、触るな!」
ジェスラートが目を向けた先。そこに、クリスタルがはめ込まれた床がある。そして、その中に、年老いた老婆が眠っていたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
魔女の中でも実力はトップクラス。だが、そんなジェスラートでさえ、敵わないと思った者が存在した。
『リュートリール』
一般的に魔力は男よりも女の方が高く、受け継がれやすい事が分かっていた。魔女が多いのはその為だ。しかし、リュートリールは異質だった。その魔力も知識も全てにおいて、どの魔女達より優れていた。
「次元を渡ってきたのか」
「あぁ。お邪魔する。ここの次元は、素晴らしい結界があるな。危うく弾かれる所だったよ」
リュートリールは地球に降り立つと、真っ先にジェスラートの下へと挨拶にやって来た。ジェスラートは日本のとある山の中にいた。そこへリュートリールは、過たず真っ直ぐにやって来たのだ。
リュートリールには、守護の結界が誰によって張られているのか、その中で誰が最も実力ある者なのかが分かったようだ。
そして、結界に弾かれれば転移が失敗となり、次元の狭間へと弾き飛ばされる。それを危なかったと笑い飛ばしてしまっている事にジェスラートは驚いた。
「それで? 何をしに来た?」
全ての世界、次元に守護者が存在している訳ではないが、別の次元に移動する事はリスクを伴う。転移に失敗する事がないとは言えないのだ。
そもそも、転移の為には何らかの目標となるモノや場所がなくてはならない。
リュートリールは、この次元に初めて来た。何を目標にし、何を目的としてきたのかをジェスラートは知りたいと思った。
「別に。ここには力ある者が極端に集まっていたから気になって」
「は?」
リュートリールには、ジェスラートが警戒しているのが分かっていた。だからこそ、嘘偽らざる本心を臆面もなく告げた。
ジェスラートにもそれが分かった。だからこそ、次元を渡るという危険を犯してまで『気になった』というだけで行動したリュートリールが分からなくなった。
「バカか?隣り近所の家を訪問するとは訳が違うんだぞ?」
「そうか?私にはあまり変わらんのだがな」
「………」
ここで、リュートリールはジェスラートを絶句させるという偉業を成し遂げた。ジェスラートが全く二の句が継げないなどという事は、後にも先にもこの時だけだった。
「なんだ?何かおかしな事を言ったか?」
「あ……あぁ……お前みたいなバカを初めて見たよ……」
「はっはっはっ、それは誉め言葉だ。前例がないとは素晴らしいな」
「いや……ま、まぁいい……」
ジェスラートは、これほど理解出来ない思考の持ち主も珍しいと、逆に少しだけ印象が好転した。
「それで?何がしたいんだ?」
今度はどんな応えが返ってくるのだろうと、内心期待しながら待った。
「そうだなぁ……私も仲間に入れてくれ」
「な、仲間だと?」
「そうだ。数カ所だが、強い力を持った者だけで固まって生活しているのだろう?その里に私も入れてくれ。転移についてのリスクを知っているという事は、こちらでも転移魔術を使える者がいるという事だ。私は、これまでいくつもの次元を渡り、沢山の世界を見て来たが、転移を知る者はいなかった」
それが、リュートリールには寂しかったのだ。自分と同じ世界を見る事が出来る者がいない。それは、トゥルーベルで理解していた。だから次元を渡り、探していたのだ。同じ孤独を知る者を。
「……いいだろう。だが里ではない。組織だ。会社とも言うがな。仲間になるならば、お前にも何か役目を担ってもらうぞ」
「あぁ。お安い御用だ」
こうして、リュートリールがシャドーフィールドへ入った。
後に、このジェスラートと出会った山と一帯の森をリュートリールは購入する。そして、やがて家を建て、家族を得る事になるのだ。
◆ ◆ ◆
ミリアは一人、誰にも気付かれる事なく神殿の奥へと来ていた。
「ふっ、ふふふ……」
その声は間違いなくミリアのもの。しかし、ミリアが本来持つ雰囲気とは響きが違う。
「ふっ、あはははは……遂に、遂に見つけたっ」
大人しく、伏せがちになる普段のミリアからは考えられない恍惚とした瞳。可笑しくて、嬉しくて仕方がないといった様子で両手を広げて、その場でクルクルと回る。
どの表情も仕草も、ミリアではあり得ないと示す。
「ふふふ、不満があるとすれば、この貧相な体ね。でも、いいわ。きっと、きっとあの人なら気付いてくれるもの」
立ち止まると、うっとりとした表情で手を胸の前で組む。
まるで乞い願うように、恋人の来訪を待ち望む者のように。そして、それは間違いではない。
「ここよ。私はここにいるわ」
愛する人が自分を見つけ、会いに来てくれるのを待っているのだ。
「早く……早く……」
焦れる事さえ楽しんで、ミリアではあり得ない何者かは囁き続ける。
「待っても来ないかもしれないわよ」
「っ、誰っ?」
そこに現れたのは、理修。そして、少し遅れてその人も現れた。
「そうだな。貴様の待ち人は永遠に来ない。理由は……最期に教えてやろう」
「な、に?」
ジェスラートは、いつも通りの不敵な笑みを浮かべ、ソレに言った。
「ジェス姐……」
ジェスラートの登場に驚いたのは、理修も同じだ。全く気配を感じなかったのだ。
「ふっ、お前を目当てに転移したからな。久し振りにそんな顔を見たぞ」
そう言って、ジェスラートは理修を追い越しざま、頭を乱暴に撫でていった。
カツカツと靴音を響かせながら、ジェスラートはソレに近付いていく。
「その体は乗っ取ったのか。本体は……あぁ、そこにあるな」
「やっ、やめろっ、触るな!」
ジェスラートが目を向けた先。そこに、クリスタルがはめ込まれた床がある。そして、その中に、年老いた老婆が眠っていたのだ。
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