異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

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第五章 封印の黒い魔人

060 新たな伝説となる

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司には辛い光景だったのだろう。

たった今消えた者達とは親しくはないが、言葉を交わした事はあったのだ。

「っ……り、理修……今……」

司は、それでも目を逸らす事なく、呆然と彼らの消えた場所に目を向けていた。

「司……これが、神だよ。人の身で考えられる慈悲など、神に求めてはいけない。正しいか正しくないかなど、しょせんは人が勝手に決めた事。神は絶対。それだけなの」
「……っ……これが神……」

これを理不尽だと思うのは間違いだ。神は望んだからといって、何でも与えてくれる便利な存在ではない。

人の感覚では知り得ないことわりの中で存在するものなのだから。

「……どうして……」
「あいつらは神を謀った。当然の結果でしょう。そして……恐らくあの女も……」
「あの女……?」

理修は感じていたのだ。この魔神の悲しみの意味が。

「エヴィ……司。こっちへ」
「あ、あぁ……」

司は顔を強張らせたままだが、エヴィスタが理修の横へ寄せる。

「剣と、その使い手です」

理修がそう魔神へと告げた。すると、魔神は真っ直ぐに理修と司へと顔を向けた。

《……カエる……》
「……分かりました」

たった一言。しかし、言葉以上のものを理解した理修は、緊張して身体を強張らせたままの司へと目を向ける。

「司。剣を抜いて」
「え……」

理修の鋭い視線が、司に突き刺さる。

「この神は、自身の世界には帰る気はないの。それよりも、自身が加護を与えたその剣の一部となって眠りたいと言っているのよ」
「剣の……?」

その言葉を聞いて、司はようやく理解した。

その決断に驚き、魔神に目を向けた司は、魔神の目らしきものを確認できなくても、なぜか静かに見つめ返されているように感じられた。

「……おれっ……いえ。私で良いのですか……?」
《ツヨきココロ……カンじる……ケンがコタえだ》
「剣が……っ……」

司は、ようやくこの魔神が神なのだと本当に理解した。

おぞましい姿に感じるのは、恐怖だけではない。それは畏怖だ。次元の違う者に対するもの。

その中で感じる視線。そこにあるのは、静かな感情の伴わない無意だった。

「……分かりました……」

そう言った時、司には何をしなくてはならないのかが唐突に分かった。

その様子に、理修はエヴィスタに乗った司を魔神の目前に残し、距離をとる。

そして、司が剣を頭上高く振り上げた所を、恐怖に震えるダグストの民達も見上げている事に気付いた。

寄る辺を失くした民達にとって、司は希望だった。

全てを神に……魔神に祈る事で存在していた国。頭を失くしたその国は、一から作り直される事になる。

その中で、司がどういう役割を担う事になるのか、それを分かっていても、理修に止める気はなかった。

「……これが……この国の新たな一歩ね……」

そんな呟きは、誰にも届かない。

司の剣が、光を集める。

それは優しく、強い、創生の光に似ていると、それを知る理修は思った。

光を集めきった司は、その剣を一気に魔神へと振り下ろす。すると、剣から光が放たれ、魔神の体を縦に割る。

光りの走る場所から、魔神は光の粒子となり、吸い込まれるかのように剣へと消えていった。

『わぁぁぁ』
『消えたっ』
『勇者様~』

その全てを見ていたダグストの民達は、一斉に湧き立つ。

しかし、そんな声は司には届いていないかのように、司は静かにその剣を見つめるのだった。

◆  ◆  ◆

神殿の地下。

狂った女の様子を、出現させた椅子に座り、退屈そうに眺めていたジェスラートは、不意に女の気配が変わった事に気が付いた。

「まさか……」

その理由に思い至り、ジェスラートは感覚を広げる。

「……なるほど……潔い神もいたものだな……」

神は、この世界が自身のいる場所ではないと悟ったのだ。そして、女へ向けていた想いも振り切り、その存在を新たな力へと変換して消えた。

「さて、ではあっけないが、そろそろ締めだな」

地上では、勇者の存在に湧き立っている。それに少々ジェスラートは呆れながらも、じっくりと神が消えた事による女の変化を観察する。

その時、女は突然動きを止めたのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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