73 / 80
第七章 思い描いた未来
073 総帥は今日も悩む
しおりを挟む
いつも通り、今日も仕事を始めたオルバルトだが、次第に落ち着きを失くしていく。ふとした毎に、机を何度も手にしたペンの先で叩き、もうかれこれ三時間程続いていた。
「総帥……集中してください」
「うっ、気になるのだから仕方がないだろうっ」
「私にはその音の方が気になります」
「っ……」
普段のペースならば終わっているはずの仕事が、未だ半分も進んでいない事に気付いた氷坂は、鋭い視線をオルバルトへと一瞬向ける。
「今回で、あの子が首を縦に振らなければ、きっぱりと諦めて候補者の選定をしていただく約束ですよ」
「わ、わ、分かっているっ……」
「……はぁ……まぁ、あの二人ならば、上手くやるでしょう。なんだかんだ言っても、兄妹ですからね」
兄妹というのは、拓海と明良の事だ。そして、彼ら二人は今、トゥルーベルへと出向き、理修にとある交渉をしに行っている。
「今まで空席にし続けたんですから、そう急がれる事もないと思いますけれどね」
「いや、今までが異常だったのだ。ジェスラートのやつ……さっさと音を上げれば良いものをっ」
「聞こえますよ」
「ふんっ、知った事か。あの強がりめ」
理修への交渉。その内容は、長く放置していた大切な役目の任命だ。
地球が存在する次元では、異世界の者が下手に干渉しないよう、結界を張って管理している。
それを担うのが、五人の魔女達だ。その膨大な魔力と知識によって、この次元を守護してきた。
だが、あの聖女ミーナの干渉の折、その結界に穴を開け、手引きした魔女が一人いた。その一人は、リュートリールの絶大な力を妬んでいたと後で判明している。
リュートリールが死んだと知ったその魔女は、出来心でやったこととはいえ、その行いを恥じ、自ら命を絶っていた。
これにより、守護の魔女の席が一席空いてしまったのである。
それでも今まで、残る四人の魔女達で負担し、何とか済ませていた。しかし、やはり無理があったのだ。そこで、理修が候補に上がった。
「守護の魔女になれば、定期的にこちらへも来てもらわなくてはなりません。結婚して既に十数年と経ちましたが、最近は、一時でもあの世界から離れませんからね」
「そうなのだっ。あの頑固者!少々こちらに顔を見せるだけではないかっ」
理修は結婚して、トゥルーベルへと居を移していた。その上、理修の両親である義久と充花も、トゥルーベルにあるリュートリールの屋敷に住むようになった。
兄弟である拓海と明良は、大学を卒業するまでに理修から魔術を教わり、シャドーフィールドに就職を決めた。
その為、二人は地球で暮らしているが、週末には実家に帰ると言って、トゥルーベルの両親の元へと次元を渡るのだ。
「あの二人も、今や立派にリュートリール様のお孫さんと言えますし、リズちゃんを頷かせる事も出来るのではないかと思いますよ」
一癖も二癖も、それ以上もあるリュートリールの孫。その血はしっかりと引き継がれていると、ここ十年程で理解できていた。
「まぁ……根回しとか……見た目はそう見えないのに、計算高い所はそっくりだ……」
「二人とも、企業に引っ張りだこですからね」
派遣事業部所属である拓海と明良は、どんな企業でもそつなく仕事をこなし、その能力の高さも評価され、重宝されている。
「やっぱり、リズの兄弟だな……」
「ええ。ですから、あの二人でダメならば、誰が行ってもダメです。諦めてくださいね」
「くっ……」
オルバルトが諦めきれない理由は簡単だ。ただ、理修と会えなくなった事が不満なのだ。
「あの二人でダメならばっ、私が自ら行くまでだっ!」
「……どれだけ必死ですか……」
理修へのオルバルトの親心は本物であり、とてもうっとおしい程、重くしつこいのだった。
◆ ◆ ◆
オルバルトが、ダメダメな決意をしている丁度その時。
「この辺な気がするんだがな」
「そうだな……多分、あの辺りに……っ、居たっ」
ユウキを国へと送り届けた拓海と明良は、その足で、サンドリュークへと向かった。
「ウィル兄さんっ」
向かったは向かったのだが、二人は、理修への交渉の札を得る為、その間にある森へと足を踏み入れていた。
そして、切り札と成り得るウィルバートを見つけたのである。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「総帥……集中してください」
「うっ、気になるのだから仕方がないだろうっ」
「私にはその音の方が気になります」
「っ……」
普段のペースならば終わっているはずの仕事が、未だ半分も進んでいない事に気付いた氷坂は、鋭い視線をオルバルトへと一瞬向ける。
「今回で、あの子が首を縦に振らなければ、きっぱりと諦めて候補者の選定をしていただく約束ですよ」
「わ、わ、分かっているっ……」
「……はぁ……まぁ、あの二人ならば、上手くやるでしょう。なんだかんだ言っても、兄妹ですからね」
兄妹というのは、拓海と明良の事だ。そして、彼ら二人は今、トゥルーベルへと出向き、理修にとある交渉をしに行っている。
「今まで空席にし続けたんですから、そう急がれる事もないと思いますけれどね」
「いや、今までが異常だったのだ。ジェスラートのやつ……さっさと音を上げれば良いものをっ」
「聞こえますよ」
「ふんっ、知った事か。あの強がりめ」
理修への交渉。その内容は、長く放置していた大切な役目の任命だ。
地球が存在する次元では、異世界の者が下手に干渉しないよう、結界を張って管理している。
それを担うのが、五人の魔女達だ。その膨大な魔力と知識によって、この次元を守護してきた。
だが、あの聖女ミーナの干渉の折、その結界に穴を開け、手引きした魔女が一人いた。その一人は、リュートリールの絶大な力を妬んでいたと後で判明している。
リュートリールが死んだと知ったその魔女は、出来心でやったこととはいえ、その行いを恥じ、自ら命を絶っていた。
これにより、守護の魔女の席が一席空いてしまったのである。
それでも今まで、残る四人の魔女達で負担し、何とか済ませていた。しかし、やはり無理があったのだ。そこで、理修が候補に上がった。
「守護の魔女になれば、定期的にこちらへも来てもらわなくてはなりません。結婚して既に十数年と経ちましたが、最近は、一時でもあの世界から離れませんからね」
「そうなのだっ。あの頑固者!少々こちらに顔を見せるだけではないかっ」
理修は結婚して、トゥルーベルへと居を移していた。その上、理修の両親である義久と充花も、トゥルーベルにあるリュートリールの屋敷に住むようになった。
兄弟である拓海と明良は、大学を卒業するまでに理修から魔術を教わり、シャドーフィールドに就職を決めた。
その為、二人は地球で暮らしているが、週末には実家に帰ると言って、トゥルーベルの両親の元へと次元を渡るのだ。
「あの二人も、今や立派にリュートリール様のお孫さんと言えますし、リズちゃんを頷かせる事も出来るのではないかと思いますよ」
一癖も二癖も、それ以上もあるリュートリールの孫。その血はしっかりと引き継がれていると、ここ十年程で理解できていた。
「まぁ……根回しとか……見た目はそう見えないのに、計算高い所はそっくりだ……」
「二人とも、企業に引っ張りだこですからね」
派遣事業部所属である拓海と明良は、どんな企業でもそつなく仕事をこなし、その能力の高さも評価され、重宝されている。
「やっぱり、リズの兄弟だな……」
「ええ。ですから、あの二人でダメならば、誰が行ってもダメです。諦めてくださいね」
「くっ……」
オルバルトが諦めきれない理由は簡単だ。ただ、理修と会えなくなった事が不満なのだ。
「あの二人でダメならばっ、私が自ら行くまでだっ!」
「……どれだけ必死ですか……」
理修へのオルバルトの親心は本物であり、とてもうっとおしい程、重くしつこいのだった。
◆ ◆ ◆
オルバルトが、ダメダメな決意をしている丁度その時。
「この辺な気がするんだがな」
「そうだな……多分、あの辺りに……っ、居たっ」
ユウキを国へと送り届けた拓海と明良は、その足で、サンドリュークへと向かった。
「ウィル兄さんっ」
向かったは向かったのだが、二人は、理修への交渉の札を得る為、その間にある森へと足を踏み入れていた。
そして、切り札と成り得るウィルバートを見つけたのである。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
45
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。
しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。
全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。
クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる