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最高に幸せな……
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服を着て、外に出ると、すっかり晴れ、太陽が昇り始めていた。
長く続いた雨は止み、木々や建物に残っている雨粒は、朝日に照らされてキラキラと輝いている。
雨上がりの世界は、生命力に満ちていて、とても美しい。
先ほどまで聞いていた罪の告白と密室で欲望のままに身体を求めあったことは、淫らで罪深い悪夢だったように思えてくる。
「ねぇ、ユディットさんは初めてだったんだよね? 全然血が出てなかったけど」
「……え?」
雨上がりの気持ちのよい朝の雰囲気に似つかわしくない質問。思わず聞き返してしまう。
ジェラルドの金髪も太陽でキラキラと輝き、その青い瞳は晴れ渡った空の様に優しげだ。いつもの室長に見えるけど……。
「つまり処女だったんだよね?」
「え……あ、はい」
どうしてそんなことを聞くのかしら。
不貞を、疑われて……と老爺の声がよぎる。
「身体は、大丈夫かなって思って。年甲斐もなく興奮してしまって、無理させたんじゃないかな」
「あ、大丈夫です。ちょっと、身体が痛いですけど」
そういうことか、と胸を撫で下ろす。
「だったら、よかった。私の家に今日引っ越そう。研究所も辞めようか」
「え? どうしてですか? せっかく研究したくて入ったのに、仕事は辞めたくないです」
「3年も研究をできていないし、いいじゃないか。君にはバルバブルー家の女主人として役目を務めて欲しいんだ」
「……え?」
「私と結婚しよう」
そんなに急に? 好きな人との両想いになったのが、つい数時間前。いきなり結婚なんて、急展開だ。
でも……断る理由はない、よね? 両想いだし、何より他の人に奪われたくない。
理性では理解しているが、なぜか即答できずに黙っていると、ぎゅっと抱きしめられた。
「絶対に幸せにするから、ね?」
「…………は、はい」
耳元で囁かれ、つい返事をしてしまう。
(そうよね。室長となら、私、幸せになれるよね……)
◇
それから、あっという間に研究所を辞めさせられ、結婚してしまった。
バルバブルー家は由緒ある家らしく、日々女主人として仕事を学ぶ。その中で、自分の意見を持つことは許されないと教えられた。
外出や買い物は、許可なくできなかったので、鳥籠へ閉じ込められたような気分になることもあるが、屋敷の人々はとても親切であった。
「奥様、旦那様がお帰りになりました」
執事がドアをノックして、入ってくる。
「はい」と執事の後について、玄関ホールへ向かう。
彼の父の前執事は、長い間病に臥せていたそうだが、ユディットが引越す少し前に亡くなったそうだ。
今は40代の息子が執事として、働いている。
……きっと偶然よ。
「旦那様、おかえりなさいませ」
「ユディット、ただいま。清楚で可憐で完璧な私の妻」
交際0日婚であったが、ジェラルドは相変わらず優しく、日々平和な新婚生活だ。とろける様な微笑みを浮かべ、彼女を抱きしめる。
「月のものは来た?」
ジェラルドは、ユディットの耳元で囁く。ビクリと緊張が走る。
「いえ……まだです」
「明日、医者を呼ぼう。君がバルバブルー家の血統の証を持つの子を産んでくれれば嬉しいな」
お子、金髪碧眼で、ナカっタ、……自分のコでナイ、トォ、子と……地下牢へ、……そのまま餓死ィ……
しわがれ声が頭の中で響く。
「私は最高に幸せな男だ」
「はい……私も幸せ……です」
老爺の告解が頭の片隅にいつまでもこびりついている。
ちらりと執事の顔を一瞥する。無表情でこちらを凝視している。いつも何を考えているか分からない。
そんなことないよね、彼の愛を信じなきゃだよね?
そう自分に言い聞かせながらも、『どうか……生まれてくる子どもが、金髪碧眼の子であります様に』と願う。
ユディットは、震える腕をジェラルドに回した。
長く続いた雨は止み、木々や建物に残っている雨粒は、朝日に照らされてキラキラと輝いている。
雨上がりの世界は、生命力に満ちていて、とても美しい。
先ほどまで聞いていた罪の告白と密室で欲望のままに身体を求めあったことは、淫らで罪深い悪夢だったように思えてくる。
「ねぇ、ユディットさんは初めてだったんだよね? 全然血が出てなかったけど」
「……え?」
雨上がりの気持ちのよい朝の雰囲気に似つかわしくない質問。思わず聞き返してしまう。
ジェラルドの金髪も太陽でキラキラと輝き、その青い瞳は晴れ渡った空の様に優しげだ。いつもの室長に見えるけど……。
「つまり処女だったんだよね?」
「え……あ、はい」
どうしてそんなことを聞くのかしら。
不貞を、疑われて……と老爺の声がよぎる。
「身体は、大丈夫かなって思って。年甲斐もなく興奮してしまって、無理させたんじゃないかな」
「あ、大丈夫です。ちょっと、身体が痛いですけど」
そういうことか、と胸を撫で下ろす。
「だったら、よかった。私の家に今日引っ越そう。研究所も辞めようか」
「え? どうしてですか? せっかく研究したくて入ったのに、仕事は辞めたくないです」
「3年も研究をできていないし、いいじゃないか。君にはバルバブルー家の女主人として役目を務めて欲しいんだ」
「……え?」
「私と結婚しよう」
そんなに急に? 好きな人との両想いになったのが、つい数時間前。いきなり結婚なんて、急展開だ。
でも……断る理由はない、よね? 両想いだし、何より他の人に奪われたくない。
理性では理解しているが、なぜか即答できずに黙っていると、ぎゅっと抱きしめられた。
「絶対に幸せにするから、ね?」
「…………は、はい」
耳元で囁かれ、つい返事をしてしまう。
(そうよね。室長となら、私、幸せになれるよね……)
◇
それから、あっという間に研究所を辞めさせられ、結婚してしまった。
バルバブルー家は由緒ある家らしく、日々女主人として仕事を学ぶ。その中で、自分の意見を持つことは許されないと教えられた。
外出や買い物は、許可なくできなかったので、鳥籠へ閉じ込められたような気分になることもあるが、屋敷の人々はとても親切であった。
「奥様、旦那様がお帰りになりました」
執事がドアをノックして、入ってくる。
「はい」と執事の後について、玄関ホールへ向かう。
彼の父の前執事は、長い間病に臥せていたそうだが、ユディットが引越す少し前に亡くなったそうだ。
今は40代の息子が執事として、働いている。
……きっと偶然よ。
「旦那様、おかえりなさいませ」
「ユディット、ただいま。清楚で可憐で完璧な私の妻」
交際0日婚であったが、ジェラルドは相変わらず優しく、日々平和な新婚生活だ。とろける様な微笑みを浮かべ、彼女を抱きしめる。
「月のものは来た?」
ジェラルドは、ユディットの耳元で囁く。ビクリと緊張が走る。
「いえ……まだです」
「明日、医者を呼ぼう。君がバルバブルー家の血統の証を持つの子を産んでくれれば嬉しいな」
お子、金髪碧眼で、ナカっタ、……自分のコでナイ、トォ、子と……地下牢へ、……そのまま餓死ィ……
しわがれ声が頭の中で響く。
「私は最高に幸せな男だ」
「はい……私も幸せ……です」
老爺の告解が頭の片隅にいつまでもこびりついている。
ちらりと執事の顔を一瞥する。無表情でこちらを凝視している。いつも何を考えているか分からない。
そんなことないよね、彼の愛を信じなきゃだよね?
そう自分に言い聞かせながらも、『どうか……生まれてくる子どもが、金髪碧眼の子であります様に』と願う。
ユディットは、震える腕をジェラルドに回した。
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