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所謂、政略結婚だった。
幼い頃から許嫁としてお互い接してきて、僕は彼のことを人として尊敬もしてたし、彼に恋心を抱いていた。
好きだった。
結婚する相手が彼で本当に良かった。
彼のために実家での花嫁修行も頑張ってきた。
彼と結婚して、子供を持って、幸せな家庭を築いていくものだと当たり前のように思っていた。
神原財閥の四男として生まれた僕は、3歳の頃Ωと診断された。
格式ある家に生まれたΩは、大抵家の中で教育を全て受け、そのまま外の世界に出す事なく同等の家柄のαにもらい受けられることが多い。
僕もいつだったか綾くんと顔合わせをした。
度々綾くんは会いにきてくれて、僕も家から車で送ってもらって遊びに行ったこともある。
優しくって、穏やかな人で、もちろんαだからとても優秀でお父さんの会社を継げるように留学をしたり、真摯な人だった。
彼の仕事が落ち着いた僕が20になった年、僕たちは結婚して番になった。
すごくすごく幸せな時間だった。
始まりは親の決めた婚約だったけどそこに確かに穏やかな愛はあると思っていた。
まだ2人での生活を大事にしたいという彼の希望で、ヒート時はピルを服用していたけれど、そろそろ子供を設けようかと話していた、結婚3年目の秋。
異変の始まりは忘れもしない11/10。
僕達の結婚記念日だった。
家に帰る前には必ず今から帰るよと連絡をくれるが、その日はなかなか連絡が来なかった。
いつもは遅くなる時も連絡をくれるのに、何かあったのかと心配をしながら待ち続けた。
あまりにも遅いので申し訳ないと思いながらも秘書の笹本さんに電話をすると、急遽今日から何日か地方へ出張になったと言われた。
何も用意を持っていないはずだから準備して届けようと申し出たが、こちらで準備するから不要だと言われ、言われるがまま床についた。
この時はまだそんな事もあるのかくらいにしか思っていなかったと思う。
そしてそのまま1週間帰ってこなかった。
使用人達もなんだかよそよそしいし、何か良くない予感はしていた。
帰宅するから居間へと促されて着いていくと、そこには1週間ぶりに会う彼とその隣に寄り添うように噛み跡のある男のΩが座っていた。
それを見て察してしまった僕はそれ以上視界に2人の姿を入れることができなかった。
逃げるように部屋に入って内鍵をかけた。
頭が真っ白だった。
後から秘書の笹本さんが離婚届と番届けを持ってきた。
運命の番だったそう。
僕の実家には番届けを出して僕の面倒をみるという条件で、離婚の許可は取ったと言われた。
要は僕は愛人でむこうは正妻でもいいと何かしらの条件と共に認めたのだろう。
番届けは配偶者と別に番が居る場合に設けられた制度で、届ける事で扶養に入れたり子供ができた時に戸籍に入れられたりとΩとその子供を守るためにできた制度である。
僕と彼は番になっているから離れられない。
だからきっとこっちで面倒見てもらう方が、安定した生活を送れると家族は思って、番届けを出すようにしたのだと思う。
これで最低限の僕の生活は保証されたはずだった。
彼は週一ではあるが僕の部屋にも顔を出してくれて、少しだけ触れてくれて帰って行く。
愛情が不足するとΩは弱って行くから、それを防ぐため最低限の触れ合いだけしてくれるのだ。
そして、発情期が来た。
実は幼いうちから薬のコントロール下にあった僕の発情期は彼以外に相手をしてもらった事もなければ、1人で乗り切った事もない。
今週医師にみてもらって抑制剤を出してもらう手筈になっていたが、周期に乱れが出てそれよりも先に発情期が来てしまったため市販のものしか手元にない。
市販の薬は飲んでも効いてる感じがなくて、波に今にも飲まれてしまいそうだった。
今まで彼は発情期に関して何も口にしなかったけれど、呼んでも許されるだろうか。
番いになった以上、彼以外の人は酷い拒否反応が出てしまうから、他の人に助けてもらうなんて事はできない。
彼がここで過ごしていた時のものをとにかくかき集めて、
足りなくて、
彼以外には埋められない穴が深く深く空いて苦しくて、
気がついたら緊急用の携帯に電話をしていた。
電話口に出た彼は僕の様子から察したように、
「ごめんね。」
とだけ言った。
息をするのも苦しくて、熱くてグチャグチャで、ヒートが明けて目が覚めると、あまりに酷い有り様に僕は一体何をしているのだろうかと乾いた笑いが漏れた。
とりあえず部屋を片付け、何をしたのか分からないけど傷と痣と自分の体液や涙の跡で汚れた体を綺麗にした。
幼い頃から許嫁としてお互い接してきて、僕は彼のことを人として尊敬もしてたし、彼に恋心を抱いていた。
好きだった。
結婚する相手が彼で本当に良かった。
彼のために実家での花嫁修行も頑張ってきた。
彼と結婚して、子供を持って、幸せな家庭を築いていくものだと当たり前のように思っていた。
神原財閥の四男として生まれた僕は、3歳の頃Ωと診断された。
格式ある家に生まれたΩは、大抵家の中で教育を全て受け、そのまま外の世界に出す事なく同等の家柄のαにもらい受けられることが多い。
僕もいつだったか綾くんと顔合わせをした。
度々綾くんは会いにきてくれて、僕も家から車で送ってもらって遊びに行ったこともある。
優しくって、穏やかな人で、もちろんαだからとても優秀でお父さんの会社を継げるように留学をしたり、真摯な人だった。
彼の仕事が落ち着いた僕が20になった年、僕たちは結婚して番になった。
すごくすごく幸せな時間だった。
始まりは親の決めた婚約だったけどそこに確かに穏やかな愛はあると思っていた。
まだ2人での生活を大事にしたいという彼の希望で、ヒート時はピルを服用していたけれど、そろそろ子供を設けようかと話していた、結婚3年目の秋。
異変の始まりは忘れもしない11/10。
僕達の結婚記念日だった。
家に帰る前には必ず今から帰るよと連絡をくれるが、その日はなかなか連絡が来なかった。
いつもは遅くなる時も連絡をくれるのに、何かあったのかと心配をしながら待ち続けた。
あまりにも遅いので申し訳ないと思いながらも秘書の笹本さんに電話をすると、急遽今日から何日か地方へ出張になったと言われた。
何も用意を持っていないはずだから準備して届けようと申し出たが、こちらで準備するから不要だと言われ、言われるがまま床についた。
この時はまだそんな事もあるのかくらいにしか思っていなかったと思う。
そしてそのまま1週間帰ってこなかった。
使用人達もなんだかよそよそしいし、何か良くない予感はしていた。
帰宅するから居間へと促されて着いていくと、そこには1週間ぶりに会う彼とその隣に寄り添うように噛み跡のある男のΩが座っていた。
それを見て察してしまった僕はそれ以上視界に2人の姿を入れることができなかった。
逃げるように部屋に入って内鍵をかけた。
頭が真っ白だった。
後から秘書の笹本さんが離婚届と番届けを持ってきた。
運命の番だったそう。
僕の実家には番届けを出して僕の面倒をみるという条件で、離婚の許可は取ったと言われた。
要は僕は愛人でむこうは正妻でもいいと何かしらの条件と共に認めたのだろう。
番届けは配偶者と別に番が居る場合に設けられた制度で、届ける事で扶養に入れたり子供ができた時に戸籍に入れられたりとΩとその子供を守るためにできた制度である。
僕と彼は番になっているから離れられない。
だからきっとこっちで面倒見てもらう方が、安定した生活を送れると家族は思って、番届けを出すようにしたのだと思う。
これで最低限の僕の生活は保証されたはずだった。
彼は週一ではあるが僕の部屋にも顔を出してくれて、少しだけ触れてくれて帰って行く。
愛情が不足するとΩは弱って行くから、それを防ぐため最低限の触れ合いだけしてくれるのだ。
そして、発情期が来た。
実は幼いうちから薬のコントロール下にあった僕の発情期は彼以外に相手をしてもらった事もなければ、1人で乗り切った事もない。
今週医師にみてもらって抑制剤を出してもらう手筈になっていたが、周期に乱れが出てそれよりも先に発情期が来てしまったため市販のものしか手元にない。
市販の薬は飲んでも効いてる感じがなくて、波に今にも飲まれてしまいそうだった。
今まで彼は発情期に関して何も口にしなかったけれど、呼んでも許されるだろうか。
番いになった以上、彼以外の人は酷い拒否反応が出てしまうから、他の人に助けてもらうなんて事はできない。
彼がここで過ごしていた時のものをとにかくかき集めて、
足りなくて、
彼以外には埋められない穴が深く深く空いて苦しくて、
気がついたら緊急用の携帯に電話をしていた。
電話口に出た彼は僕の様子から察したように、
「ごめんね。」
とだけ言った。
息をするのも苦しくて、熱くてグチャグチャで、ヒートが明けて目が覚めると、あまりに酷い有り様に僕は一体何をしているのだろうかと乾いた笑いが漏れた。
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