引きこもり魔女に恋をした騎士の徒然なる日々の物語 〜魔女の呪いを解く魔法〜

保桜さやか

文字の大きさ
2 / 13

13、夏の午後のお話

しおりを挟む
「今日もありがとう!」

 そう言って手を挙げるとふよふよとその生き物は近づいてくる。

「触っても怒らないですよ」

 触れられる距離にやってきたところで彼女に告げると、彼女はおずおずと、それでも白い手をそっと伸ばす。

 いつも俺が豪快に撫でていて、それにしか慣れていないのだろう。

 生き物も驚いたようにさらに大きくクククッと鳴き、彼女の手をフワフワの羽で隠す。

 いきなり包みこまれた彼女もきゃっ!と最初は驚いたようだったけど次は両手を添え、そのまま顔を埋めるように距離を縮めていた。

「生き物がお好きなのですか?」

 声を掛けるとビクッとして、彼女は恐る恐る生き物から手を離す。

 未だに俺には警戒を解く様子はない。

「あ、すみません……お好きならまたいずれご紹介したいものたちがいっぱいいて……」

 今では友好的になり、朝のトレーニング仲間になった橋の向こうの動物たちだ。

 結界を解かない限り彼らには会えないけど、それでも近いうちに彼女にも紹介したいと思っていた。

 あの生き物たちもかなり警戒していたようだけど、ここにはこんなにも可愛い人が住んでいるのだとわかったら最初からもっと穏やかやに現れたに違いない。

「では、荷物を下ろしますね。ちょっと風が吹きますから気をつけてくださいね」

 彼女は再び手を伸ばす様子がなかったため、一言忠告し、「下ろしてくれ」とふよふよ浮かぶ生き物に合図を送る。

 いつもどおり、ボフン!という音を立てて風船がしぼむように生き物も小さくなっていく。

 ふわっと風があたりを揺らすため、彼女を背に庇うようにして荷物が現れるのを待つ。

 突然吹いた突風に長い長い髪が靡く。

 驚いた様子の彼女はいつもよりも自分の肌が空気に触れていることに気づいていない。

 息をのむのがわかる。

 こうやって年相応の表情を見せてくれるのは嬉しかった。

「これらがいつも王宮から送られてくるものです」

 目が合って怖がられる前に告げる。

「魔女様も欲しいものがあれば言ってくださいね。ここに届くのにどのくらいの日数がかかっているかはわからないんですが、生活できるものは揃っていると思います」

 野菜の数々と果物。

 夏の衣服なども含まれていた。

 そして生活用品もろもろ。

「それにしても、ここはあまり夏らしくないですね」

 夏物の衣服を手にしてふと思う。

 春は花が咲いていた記憶があるが、今は照りつける日差しがないせいか、そこまで暑いと思わず、今まで経験していた夏の訪れを実感できていないのが正直なところだった。 

「あの雲が晴れたら何か変わるんですかね?」

 暑すぎるのも困るため、程よい気候ならそれでいいけど、などと思っていると彼女も同じように空を見上げるのが目に入った。

「あっ……あの……」

「クククククッ」

 彼女に声をかけようとしたとき、身軽になった生き物は得意げに彼女の周りをふよふよ舞った。

「あっ……」

 彼女も頬を染めて嬉しそうに瞳を細めたため、微笑ましいやら悔しいやらで複雑な気持ちになりながらも見守ることを決めた。

 ふよふよと、遠慮なしに彼女にまとわりつく生き物。

 見ていたら、なんでお前だけ……と言ってしまいそうだったため、彼女に断りを入れて荷物を室内に運んでいく。

「……か、かわいい」

 何度目かに彼女のそばを通ったとき、小さな声が聞こえ、手に持っていた荷物を盛大に落としかけたのはここだけの話しである。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...