魔法少女のモブ兄はヤンデレ魔導騎士の愛に息が出来ない

油淋丼

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モブ兄転生

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子供の頃から幼い妹とテレビにしがみつい朝早くに見るのが日課だ。

俺は特撮系を見て、次の時間にやる女児向けアニメを妹のついでに見ていた。

変身ヒーローが好きだったから、魔法少女モノのストーリーも楽しく見ていた。

三人の女の子と女の子達を守る黒髪の騎士。
悪の組織と戦う姿は格好良くて、最終回は魔法少女の一人と騎士が結ばれて終わった。
感動して、ポロポロと涙を流したから印象に残っている。

中学生に上がる頃から部活が忙しくなり、テレビを見る事はなかった。

高校に上がった頃、サッカー部の朝練中に倒れた。

それから難病になり、数ヶ月間ずっと窓を見つめる日々になった。

いつも頭が部活でいっぱいでこんなに穏やかに過ごしたのは何年ぶりだろうかと眺めていた。

久々に見たテレビは、懐かしいあの女児向けアニメの再放送がしていた。
全部で50話あるから見るのは大変だけど、見たのが途中からでストーリーがクライマックスになっていた。

あの時は楽しく見ていた、こんな事になるとは思わなかった。

ポタポタとテーブルが濡れて、俺は自分の運命に怯えて過ごした。
治る事がない病気、外の太陽を浴びる事も出来ない。

いつか、また外に出て元気に走り回りたい。
最期くらい、幸せな思い出のまま終わらせたい。

意識が遠のくその日まで、俺は幸せな日々の記憶を生きていた。











第二の人生は、大人になりたい…俺の願いはそれだけでいい。

大人になったら、子供では出来ない事を出来る。
お酒を飲んだり、大学のサークルに入ったり、好きな人と結ばれる。
俺の大人のイメージは昔と変わらなかった。

朝の慌ただしいリビングでバターを塗ったパンを齧る。
母は父のぶんの朝食をテーブルに並べて、父と妹を呼んでいた。

先にリビングに入って来たのは茶髪のツインテールの妹で、夜ふかしをしていたのか慌てている。

何も塗っていないパンを口に咥えて、リビングを出ていた。
まるで昔の漫画のドジっ子ヒロインのようだな。

まぁ、あながち間違ってもいないのが怖いところだ。

リビングの窓から見える、あり得ない光景に目を逸らしたい。

第二の人生も、普通の生活を迎えられそうにない。
両親のように何も見えない方が幸せなのに、なんで俺は見えているんだろう。

この世界は見た目生前の世界と何も変わらない風景だ。
俺が死んで何十年後かは分からないが、世界は変わっていた。

まず、外にいるタコのような触手が見える。

きっかけは分からない、ある日突然アレが見えた。

「ごちそうさま、いってきます」

両手を合わせて朝食を食べ終わり、学校に向かうために家を出た。
触手がいた方に視線を向けると、不思議な格好をした少女が三人いた。

その中の一人に見覚えがあった、肩まで長いツインテールが腰より長いツインテールになっている違いしかない。

妹に似ているというか、妹本人だろうが俺は声を掛ける事をしないで学校に向かった。

こういう場合は、見て見ぬふりをするべきだ。
何の力もないのに、余計な事をしてとんでもない事にはなりたくない。

好奇心は身を滅ぼすとあのアニメで嫌というほど知った。

この世界は悪魔達と魔物によって人間の世界が見知らぬ間侵略されている。
少女も普通の女子中学生だった、友達と遊んで部活に忙しく過ごしていた。

そんなある日、夜空を見つめていたら光り輝いて目の前に光が落ちてきた。

少女の目の前には綺麗なオッドアイの黒猫だった。

魔法帝国の騎士でこの世界に悪魔が侵略している事を知り、守るために協力を求めた。

黒猫は美しい黒髪の少年に変身して少女達を導いた。

戦っていくうちに、少女と騎士の少年は惹かれ合っていく。
将来を約束する仲になり、アニメは終わった。

その続きはないが、結婚したんだと想像出来る。

少女の兄はずっと「お兄ちゃん」と呼ばれているから、作品中に本名を呼ばれる事はなかった。
エピソードの一つに、兄が戦いに巻き込まれた話があった。
少女の身内だから人質に拐われて、ピンチになった。

兄はずっと意識を失っていて、兄妹の絆で助ける事が出来た。
意識がなかったからか、兄はその時の記憶がなくなって終わった。

どんな学校生活をしているのか、恋人はいるのか全く分からない。

それ以降、画面の端に出てくるが触れないキャラクターになった。

それほどまでに、重要人物ではないモブ兄だ。
俺も薄い記憶の中で思い出そうとしても、それくらいしか思い出せない。

容姿が思い出せなくて、自分の顔で気付いたより妹の顔でこの世界を知った。
モブだと思っていたが、こんなに特徴のない顔だったのか。

自分の茶髪を弄り、頬を引っ張っても何も変わる事はない。

アニメでは兄は見えない一般人だったから、俺もそうした。
見えるのは何かしらの幻覚だ…きっと生前の記憶がそうさせている気がする。

妹と友人達の格好は女児向けアニメの変身後のヒロインの格好にそっくりだった。
この世界はまさかのアニメの世界なのか、信じられないが…実際に信じられない触手を見たから、信じるしかない。

後ろを振り返ると、元の中学生の姿になった少女達と俺とそう歳が変わらない少年がいた。

今日は何話なんだろう、もしかしてアニメ外?
それを考える日々で、ちょっとしたクイズになっていた。

子供の頃は、皆を守るヒーローに憧れていた。
喧嘩は苦手でも、正しい事をしようと思っていた。

でも、まさかアニメの世界の魔法少女の兄に生まれ変わるとは思わなかった。

少年と一瞬だけ目線が合い、慌てて学校に向かった。
とりあえず、俺が平和に過ごすには何も知らない事だ。

俺は何の能力もない一般人、この世界の平和は魔法少女達に守られている。

俺の背中を見つめる後ろ姿を見つめる視線に気付く事はなかった。

「やばっ、もうそろそろ行かないと遅刻じゃん!」

「ナイトハルト、学校までピューッと運べる?」

「………」

「ナイトハルト?」

「…早く行かないと遅刻するぞ」

何処か上の空の少年にどうしたのかと不思議そうに見ている少女達。
いつもなにか考え事をしている事はあるが、今日は少しだけ違うように思えた。

それは一瞬の事ですぐにいつも通りの彼に戻った。

戦いに集中していたから、今が登校時間というのをすっかり忘れていた。

少女達は慌てて学校に向かって走っていき、少年も後ろから付いて行く。

これが彼らの日常、それに忍び寄る真っ黒な影。

影はまっすぐと目の前だけを見つめて、ない口をニヤリと笑わせた。
すぐにその姿は自分の化身である触手と共に消えていった。
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