初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン

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2-2. 改めて見た彼はとんでもなく顔整い

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「だって、上森藍央だよ? うちの学校全体で間違いなく一番人気の。中高併せても明らかトップの」
「へぇ……有名人なんだ」
「なんで知らないのよ……毎年のバレンタインで抱えきれないほどチョコやらクッキーやら手紙やら何やら貰ってるでしょ」
「俺、バレンタインは貰う方じゃなくて作る方だから」
「今年の球技大会で、両手いっぱいに差し入れの飲み物抱えたり、天高く聳えるタオルタワーが形成されて、イケメン大道芸人って言われてたでしょ」
「俺、球技苦手すぎて実行委員やってたから、記録係として関わった種目以外見てない」

 桃花に凄い形相で睨まれる。
 呆れと怒りと諦めを雑に混ぜたような顔だ。
 それをシオンがまじまじと見ている間にも、藍央は女子生徒から声を掛けられている。
 全部、笑顔で断っている。

 そしてシオンに視線を移した藍央は突然、思いついたようにこう言った。

「そうだ。もしかして眼鏡落としてない? 黒いフレームの」
「あ、俺の! 落としてる!」
「よかった。お爺さんが見つけて渡してくれたから一応持って来たんだ。取りに行ってくるからちょい待ってて」
「え、あ、俺が行く――って足が長すぎて歩くのはやっ」

 どんどんと遠くなる背中を見つめる。
 金髪だし、ピアスも開いているし、黙っていると僅かにダルそうな見た目なのにいい人そうだ。

「ギャップの森の主……」
「何それ。てか、上森藍央が登場するなんてビックリするじゃん。心構えゼロすぎて心臓に悪いよ、シオンんんん」
「ミーハーじゃない桃花がそんなになるくらいレアキャラなの?」
「SSRね。しかもキラキラ加工されてるやつ。あの見た目あの身長でクラスは理系特進の9組、親はお金持ちって噂。いつも一緒にいる男子ふたり以外には特に仲いいメンツはいないみたいだけど、意外と人たらしで優しいって」
「9組ってことは理樹と一緒だ」
「あ、食いつくとこそこ? あんた、上森藍央に全然興味ないのね」
「ないね。女子じゃないし、俺にそっちの趣味はないし」

 王子様的なキャラに萌えるのは、基本女子だろう。
 同性にときめくなんて今までしたこともないし、考えてみたこともない。

「まぁ、確かに。でも時代も時代だし、同性に特別な感情抱いてもなんも不思議じゃないわ。女子だって女子アイドルにキャーキャー言うんだから、男子だって男子アイドルにキャーキャー言ってもおかしくないよね」
「アイドルなの? らの、くんって?」
「藍央でいいよ」

 戻ってきた金髪男子はそう言った。

「藍色の藍に、中央の央で、らのね。呼び捨てでいい」
「じゃあ、俺も呼び捨てで。八坂シオン、名前はカタカナ」
「へぇ、珍しいね。もしかして兄弟がいたりして、名前はクオンだったりして」
「え、なんで分かんの? 姉ちゃんがクオン。飼ってる犬はワオン」
「あはは、三姉弟だ。シオンとクオンって世界的にヒットしたRPGのキャラ名だよね。スマホ版をやったことあるから」
「当たり。父さんが大好きで子供にはぜったいそう名付けるって決めてたらしい」

 似合ってるな、と言いながら、藍央は持って来た眼鏡をシオンの目元に掛けた。
 てっきり渡してくれるのかと思っていたので、その予想だにしない行動に一瞬動きが奪われる。
 ひとつまばたきをして、目を開ける。

 開いた目は、限界を超えて大きく見開かれた。
 レンズ越し、クリアになった視界の中にはとんでもないイケメンがいたから。

「え……すっごい顔整いがいる……」
「はぁ? あんた、いまさら?」
「微妙にぼやけてよく見えてなかったから……これは女子も男子もキャーキャー言うな。納得。異議申し立て即却下」
「あはは、褒められてるってことだよね?」
「うん、一応とっても褒めてる」
「それはありがとう」

 ひとつひとつのパーツが過不足なくちょうどいいバランスで配置されているな、と感心しながら人様のご尊顔を眺めていると、その持ち主がぐいっと近づいて来た。
 屈んでいるようで、同じ視線の高さになる。

 そして、世界は明確な輪郭を失った。

「え、なに?」
「んー……」

 けれど次の瞬間には、曖昧な存在は消え去る。

「あの、何がしたいの?」
「んー……」

 目の前のイケメンが、眼鏡を掛けたり外したりいている。
 シオンの顔の上で。
 理由も説明も予備動作もなく、淡々と、何かを結論付けるように。

 何回か繰り返して満足したのか、その不可解な行動は突然に終わりを迎えた。
 だからシオンは尋ねずにはいられなかった。

「何かの研究? イグノーベル賞でも狙ってる?」
「これといって狙ってない。いや、眼鏡しない方が可愛いなと思って」
「……は?」
「丸いつり目が可愛いから、眼鏡で隠しちゃうのはもったいないなと思っただけ。コンタクトにしないの?」
「したかったんだけど、眼精疲労で頭痛からの乗り物酔い、っていう最悪コースを辿る悪夢しか思いつかなくて、諦めたんだ」

 光には影がある。
 便利なものには裏がある。
 慣れないうちは長時間着用していると頭痛などの弊害が出てくると聞いて、自分が手を出してはいけない代物だと即行で遠ざかったシオンだ。

「酔いやすい体質?」
「うん、絶賛改善中」
「そっか。頑張れ」
「ありがと」
「シオン、そろそろ行かないと昼休みなくなっちゃうわ」
「俺たち行くね。眼鏡、ありがと」
「じゃあな」

 擦れ違う。

 その瞬間、大きな手に髪をくしゃりと撫でられた。

 え……と思って見上げた同級生の顔は、唇の端を持ち上げているところしか見られなかった。
 足を前へと踏み出せずに、振り返る。

 その人は自分と会話していたことが不思議なくらい、あっという間に数人に囲まれていた。

「しーおーんー!」
「うん、今行く」

 角を曲がって道を急ぐ。

「藍央くん、何見てるのー?」

 自分がいなくなった場所を、『金髪の顔整い』が見つめているとも知らずに。
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