初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン

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9-3. 球技大会③

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 試合は予想通り、点取り合戦だった。
 白いTシャツの九組と赤いビブスを着用した四組の総勢十名が、流れるような速さで右に左に移動して行く。
 チームメイトを呼ぶ声、スニーカーが床を擦る摩擦音、ボールがゴールネットを揺らす音、歓声。
 笑顔が溢れて、真剣な眼差しが溢れて、きらめく汗が溢れて、体育館は興奮の渦に包まれる。

 残り五秒。

 点差は九組の二点ビハインド。
 いつの間にか両手を強く握っていたシオンの前を、ドリブルをしながら通る藍央。
 その口元はほのかに微笑んでいた。

 動きが止まる。
 ボールを持っている藍央が軽やかにジャンプして、大きな半円の外側からシュートを放つ。

 それは綺麗な弧を描きながら、真っ直ぐにゴールへと吸い込まれた。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 観客の悲鳴と共に試合終了のブザーが鳴った。

「え……勝った……」

 いつの間にか観客席から下りてきてそばで見守っていた他の九組のクラスメイトが、コートへと雪崩れ込み喜びを分かち合う。
 傍らでは女子に囲まれてタオルのプレゼント攻めに遭っている藍央が、その輪を強引に抜けてシオンの元へと駆け寄ってきた。

「藍央おめでとー!」
「シオン、俺勝ったー!」

 ハイテンションな彼は珍しい。
 試合に勝った喜びでリミッターが外れているらしく、シオンは藍央の大きな身体に抱き締められた。
 戦い終わった後のどうにも抑えきれない興奮は同性であるなら理解できるので、シオンはしばらくそのまま大人しく腕を回されるがままになっていた。


 少しだけ、原因不明の胸の高鳴りに、気づかないふりして。




 午後四時すぎには閉会式が行われた。
 高二の九組は準優勝だった。
 藍央と理樹の頑張りで二種目で優勝したにも関わらず二位で、優勝することを信じて疑わなかった面々はがっくりと肩を落とした。
 女子バスケ、男子卓球、ドッジボールと、エントリーした全種目で優勝した強者高三生のクラスがあり、そこが颯爽と優勝旗を攫って行った。

 黄金のフレンジが風に靡いていた。




 午後七時半、後片付けと打ち上げを終えたシオンは学校最寄りの駅でベンチに座っていた。
 隣にはなぜか金髪の顔整いが座っている。

「ごめんな、付き合わせちゃって」
「俺が手伝いたいって言ったんだよ。朝早くから準備して夜も片付けしてって、実行委員とボランティアって大変だね。お疲れ様」
「うーん、ありがと」

 閉会式後、ほとんどの生徒が帰路に着く中で、シオンは後片付けに追われていた。
 球技大会用に作成した看板の撤去や待機場所として使用していた空き教室の掃除、各種ポスターを剥がし、備品を確認して収納、と仕事は山のようにある。

 明日は休みで明後日は終業式なので、片づけは今日しか出来ない。
 準備は数日掛けて行えても、片づけには半日もないので猫の手も借りたい忙しさだった。

 そこにひょっこりと現れた、バスケのスリーポイント王子様。
 後ろにいた後輩たちがそう囁くのが聞こえてしまって、笑いを噛み殺せなかったシオンだ。
 手伝うと立候補してくれた藍央に、悪いと思いながら甘えてしまって、気がつけばすっかり夜になっていた。

 オレンジの太陽もさよならを告げた夜空には、満月が爛々と輝いている。
 星の金平糖を敷き詰めた上に、まん丸に落としたキャラメルアイスのよう。

「腹減ったな。シオン、何か食べて帰んない? ハンバーガーとか牛丼とか」
「うーん……パフェ……」
「え、パフェ? あんま甘すぎるもの食べないのに珍しいね」
「う……、ん」
「シオン? もしかして眠い?」
「……俺、ネミタス」

 今日は弁当作りのために早朝から起きていたため、シオンのバッテリーは底をついたようだ。
 黒髪はかくかくと揺れ始めて、最終的には動かなくなった。
 そのままで七分、藍央の肩で眠る。

 あっという間の七分。
 潮風が吹く中で、ホームに迎えが滑りこんでくる。

「電車来たからとりあえず立とう、シオン。電車の中で寝ようね」
「……う、ん」

 電車というワードを聞いてシオンは覚束なく立ち上がった。
 目は半開きだ。
 一歩を踏み出したその不確かさにヘルプが必要だと思われたらしく、手を繋がれて誘導された。

 小さい子みたいだ……。

 シオンは頭の中で、微かにそう思っただけだった。



 乗客のほとんどいない単線に、ブレザー姿の高校生がふたり。
 彼らは手を繋いだままで座った。
 大きい金髪の片方が、目を閉じるもう片方の黒髪を自分の肩へと倒し寄りかかるようにさせながら。
 優しい眼差しで、眠る人ばかりを眺めていた。


 気づく者はいない。
 海に揺れる月だけが見ていた。
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