婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井

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謎の男の奇妙な執着4

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 カフェを出たらすでに馬車が用意されていた。
 明るいところで見るとなおのこと豪華な馬車である。
 その馬車の中で、ステラは困っていた。
  
 ハウンドを利用する。
 つまり換金可能な装飾品を買ってもらうつもりだった。
 
 しかしいざとなるとどう切り出せばいいのか分からないのだ。
 じっと観察しても微笑まれるばかり。
 親にもおねだりが成功したことがないのに、ほぼ初対面の男に対して買ってもらうというのは冷静になると不可能に思える。

(ところでどこへ向かっているのかしら)

 馬車はそこまで速度が出ていない。
 貴族の多い地区を、さらに中心部へと向かっているようだ。
 
 ゆっくりと馬車が止まる。
 降りるとそこはかなりの有名店だという高級仕立屋だった。
 
 ガラス張りで華やかに賑わう『マリオン』。
 高級ブティックであるマリオンに、ステラが足を踏み入れたことがない。

 ブリジットが新作ドレスを自慢する際に出てくる名前が看板に掲げられていたから分かっただけだ。
 ここに何の用事があるのだろうか、とステラはいぶかしむ。いや、立ちすくんでいた。
 わざわざ仕立屋に足を運ぶような美しく着飾った紳士淑女がいる場に、明らかにお古を着た人間が入っていけるわけがない。

「行きましょうか」

 ふと昨日のパーティーを思い出す。
(分不相応な場所へ連れて行って恥をかかせるつもりなのかしら)

 胸がずきりと痛む。
 その理由も分からないまま、ステラはエスコートされるまま足を動かしていた。


「ようこそお越しくださいました」

 店内は客同士がかち合わないような造りになっていた。
 それぞれに仕立て人が付き、個室へと案内されるようだ。
 少なくとも、昨日のようなことにはならなさそうだとステラは体の力を抜く。

 はじめに迎えてくれた人が案内してくれていたが、ハウンドが何かを言うと個室へついた途端奥から人が出てきて担当者が変わった。

 白髪交じりの髪を肩上ですっぱりと切りそろえた初老の女性で、見るからに自信たっぷりだ。
 そのまま女性とハウンドが何かを相談している。
 女性は呆れたり怒ったり頭が痛そうにしている。よほど無茶な要求でもしているらしい。 

(昨日来たばかり……という設定に真実味を持たせるために今何か仕立てるのかしら)

 採寸からとなるとけっこうな時間がかかるかもしれない。
 ステラはもともと暇だったので、歩かず休んでいられるのならむしろ丁度いいほどだ。

「ステラ様、こちらへ。お好きな色はありますか?」

 ハウンドに呼ばれて試着室へ近づく。

(どうして私の好きな色なんて聞くのかしら。いえ、そうやって私の好感度を上げようとしているんだわ。隙のない人ね)

 とはいえいきなり言われても困る。
 騙されている最中であることを考えれば、意地悪で似合わない色を選べばいいのだろうが、せっかくお金を使うのであればちゃんとしたものの方がいい、と思ってしまう。

「……薔薇色」

 口にして、しまったと気づく。
 好きな色など気にしたことがないステラは、ヒントを求めるように周囲を見渡していた。
 その中でひと際目を引いたのがハウンドの瞳だったのだ。

「あら、センスいいわね」

 女性がウインクをして笑う。

「あ、あの今のは……」

 てきぱきと指示を出し始めた女性に向かって違う、とはとても言い出せない空気だった。
 ステラは薔薇色も嫌いではない。
 それどころか確かに、かなり好きな色だ。

「お似合いだと思いますよ」

 ハウンドも頬を緩めて笑っている。

(ん? お似合い?)

「さあ採寸するわよ。パターンはその後」

 ステラは試着室に押し込められる。ドレスは着たままだが、カーテンまで閉められたので慌てて女性に訴えた。

「えっ、あの、私じゃないです! 今日はあの人……ハウンドさんのものを仕立てに来て」

「あら? でも彼はあなたのものを一式揃えるって言っていたわよ」

「は、はあ?」
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