21 / 83
敵だらけのお茶会5
しおりを挟む
ハウンドは当然のように帰りの馬車に乗り込んで当たり前のように向かいに座った。
図々しさにあきれるが、それより彼の馬車より数段ランクが違うので少し恥ずかしい。
(セシリア様はあの場でハウンドを舞踏会に誘わなかったわね)
不思議なことは他にもある。
二人は妙に気安く話していた。詐欺師と侯爵家のご令嬢に接点などありえるのだろうか。
(セシリア様も騙されている? いえ、正体を全て知っていて遊び相手にしているとか……?)
貴族であれば結婚と恋愛を別のもとだと考えている人も少なくないし、その相手を庶民にしている人も多い。
しかし実際に接してみたセシリアは、少なくとも未婚の状態で遊ぶような人には見えなかった。
「お茶会を楽しまれたようですね」
「あなた、けっこう前から会話を聞いていたでしょう」
「はい! しばらく社交界と縁遠く緊張していらしたはずなのに、きちんと自分の立場を示していらして素敵でした」
「あれを面白がるなんて趣味が悪いわ」
あの時は表情を取り繕っていたものの心臓はバクバクして生きている心地がしなかったのだ。
ハウンドが早めに出てきてくれたなら令嬢たちもうやむやに納得してあんな肝が冷える重いをしなくてすんだはずである。
恨めし気に睨むと、そんなステラの考えなど分かっているというように微笑まれる。
「では舞踏会の日は早めにお迎えに参りますね」
「あなたは誘われていないじゃない」
「エスコート役は必要でしょう?」
ステラは言葉に詰まる。ハウンドの指摘は図星だった。
侯爵家の舞踏会であれば父もエスコート約を断らないだろうと思っているが、ブリジットが嫌がれば分が悪い。
「前のパーティーでも遅れてしまってお力になれなかったので」
どうやって断ろうかと口を開くが、そこでふと考えた。
(舞踏会に連れていけば、ライバルにあたるご令嬢方の目がハウンドに集中するのではないかしら。つまり、ライバルが減る……!)
ステラは自分が、異性から見て魅力的ではないと理解していた。
地味なのにきつい顔で、性格も可愛げがない。
さらに、つい最近派手に婚約解消された訳ありだ。
ここから婚約者を見つけるという難題をこなすのであれば使えるものは使わないとむしろ傲慢というものだろうとステラは考えた。
エスコートを了承し、よろしくと伝える。
そしてずっと言おうとしていたことをやっと口にすた。
「……ドレス、助かったわ。私が言い返せたのも、見た目で軽んじられなかったからよ」
いつもの普段着用ドレスで参加していたら、おそらく口をきいてくれなかっただろう。
社交界のマナーを守れない人間に、会話の参加チケットは配られない。
「よくお似合いですよ。試着されていた時も見惚れてしまいましたが……。今日緑に囲まれたあの庭園であなたを見ると、花のようで思わず動けなくなってしまいました」
おそらく褒めてくれているのだろうが、因果関係が謎すぎる。
不審がるステラに気付いたのか、ハウンドは頬を染めて照れたように一度視線を外す。
そしてあらためて、欲をちらりと覗かせた薔薇色の瞳でじっと見つめる。
「手折ってしまおうかと思ったのです。ひときわ美しい白百合を」
ゾクゾクと背中が泡立つ。
必死に隠そうとして、隠しきれない捕食者の瞳から目を離せない。
視線に射抜かれて、知らず呼吸が浅くなった。
心臓がばくりと音を立て、ハウンドに聞かれてしまうのではないかと思わず恐れた。
「あまり制御できる自信がなかったので、しばらく待っていたのです。……まあ、今も、制御しきれているのか自信はありませんが」
いつのまにか手を取られて、唇を見せつけるように押し付けられる。
その熱さと柔らかさにステラは驚いてビクリと反応してしまう。
狭い馬車の中、ハウンドの熱が侵入してきたかのようにステラに移りはじめていた。
「……ッ」
どうしようと慌てて混乱したところで、馬車が止まった。
はっと我に帰る。家に着いたらしい。
見慣れた景色を窓の外に確認して、知らず緊張していた体の力を抜く。
御者が扉をノックして、雇い主が扉を開けるのを待っている。
「残念」
油断しているステラの手に、今度はちゅっと音を立てて軽いキスを落とす。
とっさのことに固まるステラをよそに、扉を開けて平然とエスコートするハウンドが憎たらしい。
(詐欺師にいいようにされてどうするのよ)
そう思うものの、顔の熱さはどうしようもない。
玄関のドアを開けようとするハウンドを振り切って、せめて誰にも見られないようにと二階の自室へ駆け上がった。
部屋に入るステラの姿を、そのドレスを姉が見ていることに気付かずに。
図々しさにあきれるが、それより彼の馬車より数段ランクが違うので少し恥ずかしい。
(セシリア様はあの場でハウンドを舞踏会に誘わなかったわね)
不思議なことは他にもある。
二人は妙に気安く話していた。詐欺師と侯爵家のご令嬢に接点などありえるのだろうか。
(セシリア様も騙されている? いえ、正体を全て知っていて遊び相手にしているとか……?)
貴族であれば結婚と恋愛を別のもとだと考えている人も少なくないし、その相手を庶民にしている人も多い。
しかし実際に接してみたセシリアは、少なくとも未婚の状態で遊ぶような人には見えなかった。
「お茶会を楽しまれたようですね」
「あなた、けっこう前から会話を聞いていたでしょう」
「はい! しばらく社交界と縁遠く緊張していらしたはずなのに、きちんと自分の立場を示していらして素敵でした」
「あれを面白がるなんて趣味が悪いわ」
あの時は表情を取り繕っていたものの心臓はバクバクして生きている心地がしなかったのだ。
ハウンドが早めに出てきてくれたなら令嬢たちもうやむやに納得してあんな肝が冷える重いをしなくてすんだはずである。
恨めし気に睨むと、そんなステラの考えなど分かっているというように微笑まれる。
「では舞踏会の日は早めにお迎えに参りますね」
「あなたは誘われていないじゃない」
「エスコート役は必要でしょう?」
ステラは言葉に詰まる。ハウンドの指摘は図星だった。
侯爵家の舞踏会であれば父もエスコート約を断らないだろうと思っているが、ブリジットが嫌がれば分が悪い。
「前のパーティーでも遅れてしまってお力になれなかったので」
どうやって断ろうかと口を開くが、そこでふと考えた。
(舞踏会に連れていけば、ライバルにあたるご令嬢方の目がハウンドに集中するのではないかしら。つまり、ライバルが減る……!)
ステラは自分が、異性から見て魅力的ではないと理解していた。
地味なのにきつい顔で、性格も可愛げがない。
さらに、つい最近派手に婚約解消された訳ありだ。
ここから婚約者を見つけるという難題をこなすのであれば使えるものは使わないとむしろ傲慢というものだろうとステラは考えた。
エスコートを了承し、よろしくと伝える。
そしてずっと言おうとしていたことをやっと口にすた。
「……ドレス、助かったわ。私が言い返せたのも、見た目で軽んじられなかったからよ」
いつもの普段着用ドレスで参加していたら、おそらく口をきいてくれなかっただろう。
社交界のマナーを守れない人間に、会話の参加チケットは配られない。
「よくお似合いですよ。試着されていた時も見惚れてしまいましたが……。今日緑に囲まれたあの庭園であなたを見ると、花のようで思わず動けなくなってしまいました」
おそらく褒めてくれているのだろうが、因果関係が謎すぎる。
不審がるステラに気付いたのか、ハウンドは頬を染めて照れたように一度視線を外す。
そしてあらためて、欲をちらりと覗かせた薔薇色の瞳でじっと見つめる。
「手折ってしまおうかと思ったのです。ひときわ美しい白百合を」
ゾクゾクと背中が泡立つ。
必死に隠そうとして、隠しきれない捕食者の瞳から目を離せない。
視線に射抜かれて、知らず呼吸が浅くなった。
心臓がばくりと音を立て、ハウンドに聞かれてしまうのではないかと思わず恐れた。
「あまり制御できる自信がなかったので、しばらく待っていたのです。……まあ、今も、制御しきれているのか自信はありませんが」
いつのまにか手を取られて、唇を見せつけるように押し付けられる。
その熱さと柔らかさにステラは驚いてビクリと反応してしまう。
狭い馬車の中、ハウンドの熱が侵入してきたかのようにステラに移りはじめていた。
「……ッ」
どうしようと慌てて混乱したところで、馬車が止まった。
はっと我に帰る。家に着いたらしい。
見慣れた景色を窓の外に確認して、知らず緊張していた体の力を抜く。
御者が扉をノックして、雇い主が扉を開けるのを待っている。
「残念」
油断しているステラの手に、今度はちゅっと音を立てて軽いキスを落とす。
とっさのことに固まるステラをよそに、扉を開けて平然とエスコートするハウンドが憎たらしい。
(詐欺師にいいようにされてどうするのよ)
そう思うものの、顔の熱さはどうしようもない。
玄関のドアを開けようとするハウンドを振り切って、せめて誰にも見られないようにと二階の自室へ駆け上がった。
部屋に入るステラの姿を、そのドレスを姉が見ていることに気付かずに。
209
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる