婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井

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見舞い騒動2

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 デリックの部屋に来たのは幼いころ、顔合わせの後の一度だけだ。
 昔のことすぎて彼の部屋に変化があるのかどうかも分からない。

 ノックをして入ると、デリックはベッドの上にいた。
 デリックはステラの方を見てしばらく呆けたあと、慌てて顔をそむけた。

(……怒っているわよね。私は彼が怒っていない時を知らないけれど)

「何しにきたんだよ」

「謝りにきたのよ。あのパーティーでのこと。その、怪我の具合はどうかしら」

「なんでお前が謝るんだよ。俺を殴ったのはあの野郎だろ」

「そうだけど、私のためにしてくれたんだから私も謝るわよ。申し訳なかったわね」

 デリックはベッドの上からステラを睨みつけた。
 仰々しく包帯が巻かれた頬は既にかなり腫れがひいているようだった。

 心配していたほどではなかったらしい。
 もう少ししたらいつも通りになるだろうことが露出している部分からうかがえた。

「思っていたより元気そうね。もうすぐ社交界に復帰できるかしら」

 この期に及んでデリックに好かれようとは思っていなかった。
 それはブリジットの役目なのだ。
 謝罪の前に言いたいことは言っておきたかった。
 ハウンドがすでに社交界に復帰できるくらいに口さがない貴族達から聞いていた。

「お前、俺がいない間にやりたい放題しているらしいな。ブリジットから聞いたぞ」

「婚約者がいなくなったんだもの。新しい婚約者を探すのは当然でしょう」

 デリックは「新しい婚約者……」と口の中でもごもごとつぶやいていた。

「家の事情で私は社交界にも出られなかったけど、もう関係ないもの。それで婚約者を探したからってやりたい放題なんて言われる筋合いはないわ」

「お、お前みたいな醜い女がいまさら男を捕まえられるわけないだろ」

「そうかもしれないわね」

 以前だったらデリックの言葉に傷ついていた。
 しかし、今のステラは不思議と何も思わない。

 今は婚約者ではないからだろうか。それとも。

「……もし誰もいないなら婚約を戻しても良い」

「は?」

 デリックはいつも訳の分からないことを言っているが、今の発言はとくに理解不能だった。

「戻すって、ブリジットはどうするのよ。それにあなただって今度こそ何を言われるか分からないわよ」

「俺のことを心配してくれてるんだな」

「違うわよ!」

(デリックと関わる機会が増えるだけで嫌なのに、婚約しなおし? 冗談じゃないわ)

 しかしステラの心中などデリックが察するはずもない。
 彼は悲劇の主人公のごとく、力なくうなだれた。

「ブリジットは冷たくなった。見舞にもだんだん来なくなってるし……。俺を殴った男を追いかけているらしい」 

 それは事実なのでステラは口をつぐむ。
 両親の手前、謝罪の要求という体裁でステラから情報を引き出そうとしているが彼女がハウンドに興味を持っていることは明らかである。

「その点、お前は逆だそうじゃないか。お前があの男を骨抜きにしているって聞いてるぞ」

「そ、そんなわけないじゃない」

 デリックはじっとステラを見つめて「どうだかな」と肩をすくめた。

「お前は冴えない女だが、ブリジットみたいな馬鹿じゃない。どうせ婚約者は見つかってないんだろ? 俺が引き取ってやってもいい」

「……あなたたちって本当お似合いだわ」

 ちょっとうまくいかなかったらこれだ。
 今まではステラという共通の敵を作って仲良くしていたのだろう。
 しかし婚約して安泰になった途端うまくいかない二人には、さすがに呆れてしまうより他がない。
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