婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井

文字の大きさ
65 / 83

陽光降り注ぐ薔薇の庭

しおりを挟む
 見ればステラは大人と共に人込みに紛れそうになっていた。
 自分のやるべきことは終わったと思ったのだろう。
 ハウンドは彼女のおいしそうなビスケット色の髪の毛を追って走る。

(驚いた。証言をした報酬になにかを要求されるかと思ったのに、なにもせずにどこかへ行くなんて。本当に下心なしで助けてくれたんだ)

 ハウンドの心はどきどきと音を立てていた。

 世界が星色に輝きだす。

 味方のいない状況で凛と怯まないステラの姿は美しく、ハウンドをたまらなく魅了した。
 五歳の小柄な女の子と、同年代よりひょろりと背が伸びた八歳の男の子では移動速度が違う。

 庭園の外れでハウンドはステラの手を掴むことに成功した。

 彼女はどうやら、帰ろうとしたもののさっきの騒動のなか親とはぐれて迷子になっていたらしい。
 薄青色の瞳は不安そうに揺れているが、泣かないように懸命にこらえている。
 我慢しているようだが、見た顔に声をかけられて少しほっとした様子なのが愛らしいとハウンドは感じた。

「僕はハウンド。ハウンド・アロガンスハートだ。さっきはありがとう。助かったよ」

 膝をついて目線を合わせると、ステラは少し誇らしげに微笑んだ。

「わたしはステラよ。とうぜんのことをしたまでだから、きになさらないで」

「ステラ嬢。すてきな名前だね。きみと少しお話したいんだけどいいかな」

 ステラははにかんで頷く。
 彼女の親が名前を呼んでいたからもちろんハウンドは知っていた。 
 それでも彼女の口から名前を知りたかったし、少しでも怖い思いをさせないようにしたかった。

 ハウンドはステラの方にハンカチを敷いて、二人で並んで芝生に腰を下ろす。
 小さな子供が座ると薔薇の生垣で二人の姿は周囲から見えなくなった。

「きみの行ったことは、すごいことなんだよ。僕だけじゃなくて、アロガンスハート家の名誉が守られたんだ。それに、きみはフィンリー家のご子息……デリックと知り合いなんだろう?」

「デリックのことは知っているわ。でも、自分の見たことでうそはつけないもの」

 ステラは困ったように、たどたどしく答えた。
 名誉や家のことを言われてもピンと来ず、ただ真実を言ってくれただけなのだろうとハウンドは思う。

「あなたがうれしかったのなら、よかったわ。わたし、あなたのこときれいだなっておもっていたから」

「きれい……?」

 言われたことのない形容だった。
 ハウンドの赤い瞳は同年代はおろか親にも気持ち悪がられている。
 周囲からの視線が煩わしくなった彼はやがて前髪で目元を隠すようになったのだ。

 だからステラの言っていることが、ハウンドにはにわかには信じがたい。
 それでも心を羽でくすぐられているような心地になった。

 ステラは子供特有の遠慮のなさでハウンドの前髪をゆっくりとかきわける。
 まるい指先が額に触れたところが、じんじんと熱くなるような気がした。

「きれいよ。あなたの目、とってもきれいだわ。ほら、あそこに咲いている花が宝石でできていたとしたら、あなたの目みたいじゃない?」

 ステラが指さしたのは今を盛りと庭園に咲き誇る薔薇だった。
 光を受けて瑞々しく美を顕現させているあの花が、さらに宝石で出来ていとしたら、なんて。

 彼女の繊細な薄氷色の瞳には、自分の目がそんなに美しく見えているのだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

処理中です...