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薔薇色の運命
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グレアム家での騒動もひと段落つき、穏やかな初夏の風がそよぐ日。
「婚約ってどういうことよ」
ステラとハウンドの婚約については瞬く間に社交界の噂の的になった。
いや、あの日のパーティーのこと自体が飽き性の貴族には珍しいほどあれこれ好き勝手に語られている。
ステラはパーティー以来バーンズ家に身を寄せており、その温室でハウンドと向き合っていた。
完璧に管理された紅茶を一口飲み、ハウンドはにこりと笑う。
「ステラ様はレイクガーデンで好きにしたらいいと仰ってくださいました。なので、好きにさせていただいたんです」
「だからって……」
そんなことを言ったような覚えはある。
だがなにも知らずに急に聞かされた身にもなってほしい。
「婚約は双方の同意を得て成立するものでしょう」
「土壇場でしたがお父上には許可を頂きました。ステラ様も婚約者を探していらっしゃったので構わないのでは?」
ハウンドはまったく悪びれない。
当然だからそうした、何も問題ないとばかりにただ幸せそうに微笑んでいる。
「私の希望はどうでもいいのね」
「逆です」
ハウンドは立ち上がって温室の花に近づいた。
大ぶりな薔薇がハウンドの指になぞられて揺れている。
「あなただけはどうあっても逃がせなかった。あなただけが大切なのです。……ですから強引な手段でしたがああいう形で皆さんにお知らせしました。今後誰もあなたに手を出そうなどと思わないように」
彼は器用に薔薇の茎を折り、ステラを覆うように椅子に手を置く。
もう片方の手で彼女の前に花を差し出した。
「破談にしたいのであれば受け入れます。他でもないあなたの願いなのですから」
ですが、とハウンドは続けた。
天井から差し込む光で、ハウンドは陰になっている。
「もはやあなたのご家族はおらず、今のグレアム家と縁を結びたい貴族がいるでしょうか。あんなに苦戦していた婚約者探しをまだ続けますか? アロガンスハート家ならあなたに不自由のない生活をさせられるというのに」
「……」
ステラはぼんやりと考える。
(この人、私が断れないようにしてるけれど……。まさか自分に自信がないのかしら)
不思議だった。
ハウンドが自分に自信がないというのはありえない。
貴族としてああも堂々と振舞っていた男が、自分の魅力を武器に社交界を自由に歩いていた男が理解していないはずがない。
(変なの。……でも、今なら私にもその理由が分かるわ。怖いものね。万が一でも好きな人に捨てられたら。だから条件の面で婚約を飲ませようとしてる。だけどそれに乗ってあげるつもりはないわ。あなたがそう来るなら、私だって私のやり方を通す)
「ハウンド、座って」
「え、は、はあ」
「そこじゃないんだけれど……」
ハウンドに椅子をすすめたつもりが、彼はすぐ横の地面に跪いてしまった。
「まあいいわ。ハウンド。あなたから示された条件はどれも素晴らしいわね。でも、足りないものがあるわ」
「なんでしょう。なんでも差し上げますよ」
「あなたの気持ちよ」
彼は言葉に詰まり、薔薇を落としてしまった。
「私はあなたからプロポーズの言葉も聞いていないわ。婚約するとだけ聞かされた。ねえ、あなたがどう思っているのかを確かめるのはそんなにおかしなことかしら」
「それは……ご存じでしょう」
頬を染め、もじもじと視線を床に落とすハウンドはどこかいじらしく可愛らしい。
(照れているのかしら。いつもあんなにストレートな物言いをしているのに)
ステラが黙っているとハウンドも観念したらしい。
落とした薔薇を拾い直し、騎士のように跪いて差し出す。
「ステラ様、愛しています。あなたのことをなによりも愛しています。私があなたを誰より愛しています。私と……婚約してください」
ハウンドは瞳も、頬も、耳まで薔薇のように赤い。
その色が移ったようにステラも頬を薔薇色に染めていた。
「お受けするわ。……私もあなたのことを好きよ。ハウンド」
「……!」
多分最初から、この薔薇色に囚われていた。
気づいてしまうと婚約者探しなんて出来ないから無視して奔走していたのだが、そろそろ素直になってもいいのかもしれない。
「きゃあっ! なにするの!」
ハウンドはステラを横抱きにして歩き出した。
黙らせるようにこめかみにキスを落とす。
「すみませんステラ様。嬉しくてもう我慢できそうにないんです。今から我が邸に……アロガンスハート家に移りましょう!」
「そ、それは結婚してからだから!」
「だめです」
またちゅっと、今度は額に。
「そ、それやめて!」
「嫌です。たくさんします」
「ハウンド!」
「婚約ってどういうことよ」
ステラとハウンドの婚約については瞬く間に社交界の噂の的になった。
いや、あの日のパーティーのこと自体が飽き性の貴族には珍しいほどあれこれ好き勝手に語られている。
ステラはパーティー以来バーンズ家に身を寄せており、その温室でハウンドと向き合っていた。
完璧に管理された紅茶を一口飲み、ハウンドはにこりと笑う。
「ステラ様はレイクガーデンで好きにしたらいいと仰ってくださいました。なので、好きにさせていただいたんです」
「だからって……」
そんなことを言ったような覚えはある。
だがなにも知らずに急に聞かされた身にもなってほしい。
「婚約は双方の同意を得て成立するものでしょう」
「土壇場でしたがお父上には許可を頂きました。ステラ様も婚約者を探していらっしゃったので構わないのでは?」
ハウンドはまったく悪びれない。
当然だからそうした、何も問題ないとばかりにただ幸せそうに微笑んでいる。
「私の希望はどうでもいいのね」
「逆です」
ハウンドは立ち上がって温室の花に近づいた。
大ぶりな薔薇がハウンドの指になぞられて揺れている。
「あなただけはどうあっても逃がせなかった。あなただけが大切なのです。……ですから強引な手段でしたがああいう形で皆さんにお知らせしました。今後誰もあなたに手を出そうなどと思わないように」
彼は器用に薔薇の茎を折り、ステラを覆うように椅子に手を置く。
もう片方の手で彼女の前に花を差し出した。
「破談にしたいのであれば受け入れます。他でもないあなたの願いなのですから」
ですが、とハウンドは続けた。
天井から差し込む光で、ハウンドは陰になっている。
「もはやあなたのご家族はおらず、今のグレアム家と縁を結びたい貴族がいるでしょうか。あんなに苦戦していた婚約者探しをまだ続けますか? アロガンスハート家ならあなたに不自由のない生活をさせられるというのに」
「……」
ステラはぼんやりと考える。
(この人、私が断れないようにしてるけれど……。まさか自分に自信がないのかしら)
不思議だった。
ハウンドが自分に自信がないというのはありえない。
貴族としてああも堂々と振舞っていた男が、自分の魅力を武器に社交界を自由に歩いていた男が理解していないはずがない。
(変なの。……でも、今なら私にもその理由が分かるわ。怖いものね。万が一でも好きな人に捨てられたら。だから条件の面で婚約を飲ませようとしてる。だけどそれに乗ってあげるつもりはないわ。あなたがそう来るなら、私だって私のやり方を通す)
「ハウンド、座って」
「え、は、はあ」
「そこじゃないんだけれど……」
ハウンドに椅子をすすめたつもりが、彼はすぐ横の地面に跪いてしまった。
「まあいいわ。ハウンド。あなたから示された条件はどれも素晴らしいわね。でも、足りないものがあるわ」
「なんでしょう。なんでも差し上げますよ」
「あなたの気持ちよ」
彼は言葉に詰まり、薔薇を落としてしまった。
「私はあなたからプロポーズの言葉も聞いていないわ。婚約するとだけ聞かされた。ねえ、あなたがどう思っているのかを確かめるのはそんなにおかしなことかしら」
「それは……ご存じでしょう」
頬を染め、もじもじと視線を床に落とすハウンドはどこかいじらしく可愛らしい。
(照れているのかしら。いつもあんなにストレートな物言いをしているのに)
ステラが黙っているとハウンドも観念したらしい。
落とした薔薇を拾い直し、騎士のように跪いて差し出す。
「ステラ様、愛しています。あなたのことをなによりも愛しています。私があなたを誰より愛しています。私と……婚約してください」
ハウンドは瞳も、頬も、耳まで薔薇のように赤い。
その色が移ったようにステラも頬を薔薇色に染めていた。
「お受けするわ。……私もあなたのことを好きよ。ハウンド」
「……!」
多分最初から、この薔薇色に囚われていた。
気づいてしまうと婚約者探しなんて出来ないから無視して奔走していたのだが、そろそろ素直になってもいいのかもしれない。
「きゃあっ! なにするの!」
ハウンドはステラを横抱きにして歩き出した。
黙らせるようにこめかみにキスを落とす。
「すみませんステラ様。嬉しくてもう我慢できそうにないんです。今から我が邸に……アロガンスハート家に移りましょう!」
「そ、それは結婚してからだから!」
「だめです」
またちゅっと、今度は額に。
「そ、それやめて!」
「嫌です。たくさんします」
「ハウンド!」
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素敵なお話!
一気に読んでしまいました。
薔薇色の瞳に魅了されました。
作者さまの他のお話、浸りに行ってきます!
ririka様
ご覧いただきありがとうございます!
嬉しいご感想も本当に嬉しいです……!
非常にモチベになります!ありがとうございます!
完結おめでとうございます!面白くて一気に全部読んでしまいました…!
ステラとハウンドがこの先幸せになれそうで嬉しいです☺️
きの様
ご感想ありがとうございます!
たいへん嬉しいお言葉で、胸がいっぱいになります。
ステラとハウンドを見守ってくださりありがとうございました!
あまね様
ご感想ありがとうございます!
そして大変お待たせいたしました!
いろいろなことが解決していくと思いますので、
ぜひ最後まで楽しんで頂ければ幸いです!