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今日はもう寝てしまおう。
精霊王からその言葉が出た時、リリアはなんとも不思議な心地がした。
「精霊様も睡眠を必要とされるのですね」
「精霊体の時はそうでもない。だが今は人の形をとっているからな」
そういうものなのだろうか。
もしかしたらそういう事も精霊教会で学ぶのかもしれないが、リリアには分からない事だった。
そんな事より問題は。
ベッドはあれ一つね……。
リリアはこっそり頭を抱えた。
木製の簡素な一人用ベッドは小屋より後に持ち込まれたのか、まだ使える状態だった。
運んできたシーツや布団を敷けば問題なく眠れるだろう。
勿論リリアが使うわけにはいかない。
床で眠るのに慣れていて良かったとリリアは思う。
だが一般的なサイズのベッドは長身の精霊王にとってもギリギリのように思える。
大きめのベッドを用意しなくちゃね。
早くもリリアのスローライフの目標が出来たのだった。
持ってきた寝具は簡素なもので、孤児院で散々してきたベッドメイキングはすぐに終わった。
「それでは私は床で寝ますね」
灯りが多いおかげで小屋の中はほんのり暖かい。これなら凍えて眠る事もないだろう。
それにリリアは凍えてでも眠らなければならない時がある事を知っているので何の問題もなかった。
「なぜだ?人間はベッドで寝るだろう」
「精霊王を床で寝かせるわけにはいきません!」
「なるほど。床の方が良い、というわけではないのだな」
「はい。私はどこでも眠れますので」
「どこでも、か」
にやりと精霊王は笑う。
そしてゆっくりとリリアに近づき腰を取った。
「へっ?」
あっと思う間もなくリリアは後ろから抱き留められベッドへ横になっていた。
「えっ?ええっ!?」
美貌の精霊王はしなやかですらりと細身な印象だったが、抱きしめられると力強い腕をしている事が分かる。
誰かに抱きしめられたことなどなかったリリアはただただ混乱した。
心臓がバクバクと、信じられないくらい暴れている。
(どういう状況なの、これ……!?)
横向きに寝かされたリリアは後ろから抱きしめられていた。
「どこでもいいのなら、私の腕の中でも文句はないな」
「そんなっ……!」
背中から高めの体温を感じる。
呼吸を忘れていたのか急に苦しくなり、慌てて息を吐いて吸い込むとふわりと甘い花の香りがした。
精霊王は固まってしまったリリアにお構いなしだ。
後ろから腕を回しリリアの手に自分の手を重ねる。
どんな状態でも眠れるリリアだったが、今日は眠れる気がしなかった。
婚前に男性と眠るなんてそんな、こんなところを見られたらふしだらな女だって思われる!
冷静に考えてみれば、この状況を見るような人はいないから問題はない。
だがこの国の貞操観念はリリアにもしっかりと根付いていた。
戸惑いと混乱に襲われる。
今まで煌々と灯っていた灯りがすっと消えた。精霊王だろう。
視界が闇に包まれると、今まで意識していなかった森のざわめきや鳥の声が改めて聞こえた。
そもそもなぜ精霊王に抱かれ、同じベッドにいるのだろう。
リリアは考えたくなくて他の事を考え出す。
孤児院ではいつも人の気配がしていたのね。
夜遅くに院長の目を盗んで行われる子供たちのイタズラや話し声。
酔っ払ったおじさん達が道を間違えて孤児院まで来ては奥さんに怒られながら一緒に帰っていく様子。
それらをリリアは屋根裏で聞いていた。
喧騒の中にいると気づかなかったが、一人でいる事はこんなにも静かなのだ。
(いえ、一人じゃないわね)
自分を軽々と抱き上げた腕を改めて意識する。
腕はまだリリアをしっかりと抱きしめて少しの身じろぎ程度では解けそうにない。
リリアが落ち着くのを待っていたのか、精霊王が背中から語りかける。
精霊王からその言葉が出た時、リリアはなんとも不思議な心地がした。
「精霊様も睡眠を必要とされるのですね」
「精霊体の時はそうでもない。だが今は人の形をとっているからな」
そういうものなのだろうか。
もしかしたらそういう事も精霊教会で学ぶのかもしれないが、リリアには分からない事だった。
そんな事より問題は。
ベッドはあれ一つね……。
リリアはこっそり頭を抱えた。
木製の簡素な一人用ベッドは小屋より後に持ち込まれたのか、まだ使える状態だった。
運んできたシーツや布団を敷けば問題なく眠れるだろう。
勿論リリアが使うわけにはいかない。
床で眠るのに慣れていて良かったとリリアは思う。
だが一般的なサイズのベッドは長身の精霊王にとってもギリギリのように思える。
大きめのベッドを用意しなくちゃね。
早くもリリアのスローライフの目標が出来たのだった。
持ってきた寝具は簡素なもので、孤児院で散々してきたベッドメイキングはすぐに終わった。
「それでは私は床で寝ますね」
灯りが多いおかげで小屋の中はほんのり暖かい。これなら凍えて眠る事もないだろう。
それにリリアは凍えてでも眠らなければならない時がある事を知っているので何の問題もなかった。
「なぜだ?人間はベッドで寝るだろう」
「精霊王を床で寝かせるわけにはいきません!」
「なるほど。床の方が良い、というわけではないのだな」
「はい。私はどこでも眠れますので」
「どこでも、か」
にやりと精霊王は笑う。
そしてゆっくりとリリアに近づき腰を取った。
「へっ?」
あっと思う間もなくリリアは後ろから抱き留められベッドへ横になっていた。
「えっ?ええっ!?」
美貌の精霊王はしなやかですらりと細身な印象だったが、抱きしめられると力強い腕をしている事が分かる。
誰かに抱きしめられたことなどなかったリリアはただただ混乱した。
心臓がバクバクと、信じられないくらい暴れている。
(どういう状況なの、これ……!?)
横向きに寝かされたリリアは後ろから抱きしめられていた。
「どこでもいいのなら、私の腕の中でも文句はないな」
「そんなっ……!」
背中から高めの体温を感じる。
呼吸を忘れていたのか急に苦しくなり、慌てて息を吐いて吸い込むとふわりと甘い花の香りがした。
精霊王は固まってしまったリリアにお構いなしだ。
後ろから腕を回しリリアの手に自分の手を重ねる。
どんな状態でも眠れるリリアだったが、今日は眠れる気がしなかった。
婚前に男性と眠るなんてそんな、こんなところを見られたらふしだらな女だって思われる!
冷静に考えてみれば、この状況を見るような人はいないから問題はない。
だがこの国の貞操観念はリリアにもしっかりと根付いていた。
戸惑いと混乱に襲われる。
今まで煌々と灯っていた灯りがすっと消えた。精霊王だろう。
視界が闇に包まれると、今まで意識していなかった森のざわめきや鳥の声が改めて聞こえた。
そもそもなぜ精霊王に抱かれ、同じベッドにいるのだろう。
リリアは考えたくなくて他の事を考え出す。
孤児院ではいつも人の気配がしていたのね。
夜遅くに院長の目を盗んで行われる子供たちのイタズラや話し声。
酔っ払ったおじさん達が道を間違えて孤児院まで来ては奥さんに怒られながら一緒に帰っていく様子。
それらをリリアは屋根裏で聞いていた。
喧騒の中にいると気づかなかったが、一人でいる事はこんなにも静かなのだ。
(いえ、一人じゃないわね)
自分を軽々と抱き上げた腕を改めて意識する。
腕はまだリリアをしっかりと抱きしめて少しの身じろぎ程度では解けそうにない。
リリアが落ち着くのを待っていたのか、精霊王が背中から語りかける。
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