「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

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「エレス。私はブライアンの乙女にならないから安心してちょうだい」

我ながら思いあがった言葉だわ、とリリアは思う。

だが「おもちゃ」であるリリアがブライアンに気を遣う理由なんてないのだ。
エレスを安心させてあげたい。
リリアにはその気持ちしかない。

ブライアンは何か言いたげにしているが、直接の喧嘩になればブライアンに勝ち目などないのだから命の恩人として感謝されてもいいはずだ。

「私はエレスに祝福されたのよ? 他の誰のものにもならないし、そもそも欲しがる人もいないわよ」

リリアは捨て子だ。生まれた瞬間から誰にも必要とされず、その後も搾取されるだけだった。
エレスの気持ちは察する事も出来るが、やはり自分の事となるといまいち実感はわかない。

「私はエレスが望む限り側にいるわ。だから不安に思う必要はないのよ。だから嵐を収めてちょうだい」

「では花精霊祭には」

「参加しないわ」

「リリア……。乙女は、本当は」

エレスがリリアの顔を覗き込み複雑そうな顔をする。

「祭に行きたいのではないか?」

「えっ」

(どうなのかしら)

問われたリリアも一瞬戸惑った。
参加する事はずっと最初から諦めていたのだ。
だから別に今更、という気持ちに嘘はない。

だが、孤児院で雑務をしている時に聞こえてくる人々の楽しそうな様子や、普段は嗅いだ事のない何かの焼けるいい匂いなどに憧れは、どうしたってあるのだ。

一瞬固まってしまったリリアに、小屋の中には微妙な空気が流れる。

「えーお祭り行かないの!? ボク行きたい!」

アエラスは花精霊祭に行く気だったのだろう。
雲行きが怪しくなったのを感じ暴れまわった。

「皆もお祭り好きなんでしょ! リリアと王様だって好きだと思うけどなー!」

自由に世界を巡る風であるアエラスの指す花精霊祭は村のものと比べ物にならないほど豪華なものかもしれない。
それでも精霊を奉る催しに、人々の趣向を凝らした料理や細工物が所狭しと並ぶ様は精霊達も楽しみにしているようだ。

「リリア。その花精霊祭がどんなものなのか私は知らない。だが確かに精霊は人の作り上げるものを好み、感謝の念も理解する」

エレスは神妙にリリアを見つめて手を取る。

「そこの人間と共に祭事に参加するというのなら全力で止めるつもりだ。だが私と共に……というのなら、むしろその花精霊祭というものを楽しみたいと思っている」

「ええ?」

まさかエレスがそんな事を考えているなんて思ってもいなかった。

(エレス達と一緒に、花精霊祭に……)

それはリリアにとってとても楽しい想像だった。
賑やかな音楽に体を揺らしながら、香ばしい料理を片手に色々見て回るのだ。

雰囲気しか分からないが、孤児院の窓から祭り帰りの人々が思い思いに何かを買ったりしていたのを見ていた。
もし一緒に、お互い初めてのお祭りを楽しめたらどんなに素晴らしいだろう。

だがそんな空想は実現しないのだ。
村にリリアの居場所はなく、投げかけられるのは微笑みではなく嫌悪と石の礫だ。
リリアはそっと手を外す。

「で、でも、無理よ。そもそも私にはドレスがないから参加できないの」

リリアがこれまで花精霊祭に参加しなかったのは、村人達に疎まれていたからである。
だが、近くで見る事もしなかったのはドレスが無かったからだ。
花精霊祭の日は村中着飾って踊り明かす。

リリア程の年頃の女の子であれば花乙女に選ばれる事を夢見てここぞとばかりに気合をいれる。
言わば参加資格のようなもので、孤児院にいたとしてもリリア以外は寄付によってそれなりの恰好をする日でもあった。

しかしリリアに新しい服を用立てる人間などいないし、当然ドレスを手に入れる手段もお金もなかった。
そうして村が華やかになればなるほど、リリアは寂しく惨めな気持ちになるのだ。
だからリリアは祭りの日は最初から喧噪に近寄らない事にしていた。

「私はここで待っているから、花精霊祭には皆だけで行ってちょうだい」
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