「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

文字の大きさ
43 / 77

42

しおりを挟む
(花精霊祭の事は正直気になるわよ。……でも、村での自分は絶対に知られたくない)

ドレスがないのは、精霊達にもリリア自身にも都合の良い言い訳だった。
精霊達はたやすく自然を操るが、丁寧に糸を重ねる刺繍やレース、石の加工は出来ない。
畑の作物を売ればお金は手に入るかもしれないが、お祭りの直前になるとどの針子も大忙しで新しい服を用立てる事は出来ないのだ。
そもそも花精霊祭は明日であり、一から仕立てるほど時間もなければ吊るしドレスも出払っているはずである。

リリアだけが小屋に残るという事になれば、エレスをはじめ精霊達が納得しないだろうとは思っていた。
だが、ドレスのようなどうしようもない理由があれば割り切って花精霊祭を楽しめるかもしれない。
そしてリリアも、自分を納得させることが出来るのだ。

静まり返った小屋の中で、怯えたように縮こまっていたブライアンが、口を開いてぽつりと呟いた。

「……ドレスなら、ある」

「え? 誰の?」

思わずリリアは聞き返してしまった。

「お前のだよ! ドレスならあるんだ。リリアのものを、用意してる。寸法はキャロルのものだけど大体同じサイズだと思うし。だから、参加するのに問題はないだろ」

リリアとエレス、精霊達は顔を見合わせる。
ブライアンがドレスを用意している理由が分からなかったからだ。

「……リリアにドレスが無いのは知ってる。俺の家は仕立て屋だから、忙しくない時期にこっそり作らせたんだよ。本当なら今年、俺とリリアが精霊として村中から祝福されるはずだったのに」

特別に仕立てたドレスでリリアを美しく着飾り、精霊王として花乙女を迎える。
祭りの最中、誰も文句など言えないだろう。

それがブライアンの計画だった。
リリアが孤児院を出ていったのも、万が一にも他の男に取られる心配がなくなってむしろ安心していたのだ。

精霊王が今更になってリリアを祝福するなんて、誰が想像できるだろう。

精霊王は世界が形作られ巡りだしたのを見届けると天空の精霊領で永き眠りについたはずだ。
少なくともブライアンはそう精霊教会で学んだし、誰もが知る一般常識だ。

こんなはずではなかったのだ。
だが、目の前の存在は精霊王としか思えないし、精霊教会の絵とも特徴は似ている。
もちろん、絵より本物の方が美しく威圧的であった。

実際今目の前にしていても気を抜くとブライアンは気を失いそうになる。
なんでリリアは平気そうにしているのか、ブライアンには全く分からない。
祝福された、と言っていたがそのせいなのだろうか。

「ドレスがあるならお祭りに行けるんじゃないかい? 私らは普通の人間には見えないように出来るし」

フォティアが苦笑しながら提案する。
アエラスを落ち着かせようとしての事だが、行けるかもしれないと分かったアエラスはむしろさらに暴れ始めた。

「行きたい行きたい行ーこーうーよー!」

小屋の中でちょっとしたつむじ風や突風が吹き荒れる。
リリアの事は精霊王が守っているのか、被害を受けているのはブライアンのみだ。

「気になるなら遠慮せずに行って来ていいのよ?」

「やだー! ボクはリリアと一緒に行きたい!」

アエラスはつぶらな瞳を潤ませてリリアを見つめる。

「お祭り楽しいよ? ボク、リリアと一緒だともっと楽しくなると思うんだ! リリアはボク達と一緒に行くのイヤ?」

今にも泣きだしそうな調子で言われるとリリアも弱い。
どうすればいいのか分からず言葉に詰まってしまう。

「ああそれと」

ウォネロがコホンを咳払いをする。

「もう食料が明日の分しかありません」

「あ」

確かに小屋にある食料はもう底をついていた。
精霊達に喜んでもらえるようにといつも作っていたものより豪勢にしていたから、食糧管理を見誤っていたのだ。
高級な果物や野にある物であればエレス達が持ってきてくれる。
だが調味料や小麦などの加工品は流石に村で調達しなければならない。

「じゃあ……買いに行かないと、いけないわね」

幸いにして花精霊祭が盛り上がるのは日暮れ後だ。
日の出ている内に村へ行って戻れば村へもあまり迷惑にならないだろう。
それに、祭の日は色々安くなったり珍しい食材が並んだりするらしいのだ。
そう考えて、リリアはついに折れた。

(決して、花精霊祭に行きたいとかじゃないわよ)

「わーい! じゃあ明日行こうよ! ねっ!」

「良かったですねえアエラス」

「その代わり目立たないようにすること。あと私の言う事は聞いてもらうわよ」

こうしてヴァスリオ王国の南の端にある村では、花精霊祭に精霊王と花乙女、そして大精霊達が参加することになったのであった。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。 でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!! 超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。 しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。 ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。 いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——? 明るく楽しいラブコメ風です! 頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★ ※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。 ※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!! みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*) ※タイトル変更しました。 旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。 絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。 王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。 最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。 私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。 えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない? 私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。 というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。 小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。 pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。 【改稿版について】   コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。  ですが……改稿する必要はなかったようです。   おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。  なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。  小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。  よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。   ※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。 ・一人目(ヒロイン) ✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前) ◯リアーナ・ニクラス(変更後) ・二人目(鍛冶屋) ✕デリー(変更前) ◯ドミニク(変更後) ・三人目(お針子) ✕ゲレ(変更前) ◯ゲルダ(変更後) ※下記二人の一人称を変更 へーウィットの一人称→✕僕◯俺 アルドリックの一人称→✕私◯僕 ※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

処理中です...