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「リリア、見たがっていたものはあれか?」
エレスに声をかけられてリリアははっと前を向く。
そこは色とりどりの食材が売られているエリアだった。その潤沢な種類にリリアは思わず駆け寄る。
「そうよ! すごいわ、こんなに色んな種類が揃ってるなんて……! これは砂漠糖ね。こっちは凍醤。それにこれ、上質な雷塩だわ。こっちの瓶は何かしら」
「それは海酢だよ。その横は霧酢。そっちの中身が見えないやつは油系だね。岩油はこっち。炎竜油は危ないから言ってくれれば下から出すよ」
「本当に色々あるのね。こんなにあると迷ってしまうわ」
色んな出店の主人と話したり調理法を聞いたり、味見をしていると時間はあっという間に過ぎてしまう。
日が傾くにつれ人通りもすっかり増えて、吟遊詩人の歌も歓声も花精霊祭も、どんどん盛り上がっているようだ。
リリアも花精霊祭を心から楽しんでいた。
「ごめんなさいエレス、私に付き合って楽しくなかったわよね。好きな所を見てきていいのよ?」
『リリアの隣が好きな所だ。それに私の乙女が楽しそうにしているのを見ていると私も楽しい』
「そうじゃなくて」
(でも実際楽しそうではあったのよね。お祭りの雰囲気だけでも楽しんでくれたのかしら)
リリアが思いを巡らせていると、店主が声をかける。
「そんな可愛く着飾って見るのが調味料っていうのも変わってんなお嬢ちゃん。他の花乙女達はあっちの髪飾りとかを見てるがね。まあ俺としては嬉しいけどよ。もうそろそろ本祭も始まるぜ」
ははは、と笑う店主の指す方を見れば、確かに着飾った女の子たちで賑わっている場所があった。
遠目にも華やかなその一帯には、確かにアクセサリーや香水のようなものが並んでいる。
ぼんやりと眺めているとエレスがリリアに話しかける。
「リリアはああいうものに興味がないのか?」
「私には必要のないものなのよ」
「そうなのか? 人は身を飾りたがるものも多いと思っていたが」
エレスは不思議そうにしている。
しかしリリアにとって装身具は遠い世界のものだった。
自分に似合うとも思わないし、つけていく場所も見せたい人もいない。
「エレスは、飾ってる方が好み……なの?」
(我ながら何を聞いているのかしら)
建国の花乙女はどうだったのだろう、とふと思ったのだ。
精霊王と花乙女についての一般常識以上の事をリリアはよく知らない。
教会に行っていれば何か教えてもらえただろうかと考える。
あるいは、隣にいる精霊王に聞くのが一番早くて確実だろう。
しかし直接聞くのはなぜか躊躇われた。
(エレスの口から建国の乙女の事聞くのが、怖い)
聞いたところでエレスは怒らないだろうし、きっと教えてくれるだろう。
だが、なぜかその想像からは目を背けたかった。
「確かに人間の手工は好ましいが、どんな装飾もリリアの輝きの前に劣る」
「そ、そう……」
装身具がある方が好み、と言われても先立つものがないのでどうしようもないのだが、思わぬ甘いセリフに赤面してしまう。
「いや、しかし」
「どうしたの?」
「乙女を飾る装具なら、リリアのその美しさに刺激されてさらに美しくあろうとするかもしれないな」
「も、もういいわよ!」
昨日から主にブライアンと話していたから、うっかりしていた。
エレスが褒める時は容赦がないし、本気で言っているのだ。
免疫のないリリアはどうしたらいいのか毎回分からなくなってしまう。
赤くなった顔をレースが隠してくれて良かった、と思う。
(でも買い出し用に帽子や目隠しはあった方が良いかもしれないわね)
小屋では髪も目も意識せずに過ごしていた。
それはたまらなく自由で楽しいが、村への買い出しとなると隠した方が何事も円滑に進むのだと知った。
今日はお祭りだから誰も気にしていないようだが、日常で髪と目を隠した少女が村に現れれば流石にリリアと分かるだろう。
ただし、他の村や町へ行くのであればその限りではなさそうだ。
皮膚患いだと言い張って頭部を隠せば、あの森で穏やかに暮らし続けられるかもしれない。
(だとすれば今日中に帽子を買わなければならないわね)
リリアの裁縫の腕では、髪を隠すような帽子は作れない。
だが別日に村を訪れてブライアンに頼むわけにもいかないだろう。
先に帽子を買い、残ったお金で調味料を買わなければ後々困る。
リリアはエレスにだけ聞こえるように小声で話しかける。
「エレス、帽子を見にいかない?」
厳密には精霊は服を着ていないらしいが、エレスはきっとどんな帽子も似合うだろう。
決して必要というわけではないが、帽子で印象を変えるエレスを少し見てみたかった。
そうしてリリア達が食品売り場を離れようとした時、数人の若い男の声が呼び止める。
エレスに声をかけられてリリアははっと前を向く。
そこは色とりどりの食材が売られているエリアだった。その潤沢な種類にリリアは思わず駆け寄る。
「そうよ! すごいわ、こんなに色んな種類が揃ってるなんて……! これは砂漠糖ね。こっちは凍醤。それにこれ、上質な雷塩だわ。こっちの瓶は何かしら」
「それは海酢だよ。その横は霧酢。そっちの中身が見えないやつは油系だね。岩油はこっち。炎竜油は危ないから言ってくれれば下から出すよ」
「本当に色々あるのね。こんなにあると迷ってしまうわ」
色んな出店の主人と話したり調理法を聞いたり、味見をしていると時間はあっという間に過ぎてしまう。
日が傾くにつれ人通りもすっかり増えて、吟遊詩人の歌も歓声も花精霊祭も、どんどん盛り上がっているようだ。
リリアも花精霊祭を心から楽しんでいた。
「ごめんなさいエレス、私に付き合って楽しくなかったわよね。好きな所を見てきていいのよ?」
『リリアの隣が好きな所だ。それに私の乙女が楽しそうにしているのを見ていると私も楽しい』
「そうじゃなくて」
(でも実際楽しそうではあったのよね。お祭りの雰囲気だけでも楽しんでくれたのかしら)
リリアが思いを巡らせていると、店主が声をかける。
「そんな可愛く着飾って見るのが調味料っていうのも変わってんなお嬢ちゃん。他の花乙女達はあっちの髪飾りとかを見てるがね。まあ俺としては嬉しいけどよ。もうそろそろ本祭も始まるぜ」
ははは、と笑う店主の指す方を見れば、確かに着飾った女の子たちで賑わっている場所があった。
遠目にも華やかなその一帯には、確かにアクセサリーや香水のようなものが並んでいる。
ぼんやりと眺めているとエレスがリリアに話しかける。
「リリアはああいうものに興味がないのか?」
「私には必要のないものなのよ」
「そうなのか? 人は身を飾りたがるものも多いと思っていたが」
エレスは不思議そうにしている。
しかしリリアにとって装身具は遠い世界のものだった。
自分に似合うとも思わないし、つけていく場所も見せたい人もいない。
「エレスは、飾ってる方が好み……なの?」
(我ながら何を聞いているのかしら)
建国の花乙女はどうだったのだろう、とふと思ったのだ。
精霊王と花乙女についての一般常識以上の事をリリアはよく知らない。
教会に行っていれば何か教えてもらえただろうかと考える。
あるいは、隣にいる精霊王に聞くのが一番早くて確実だろう。
しかし直接聞くのはなぜか躊躇われた。
(エレスの口から建国の乙女の事聞くのが、怖い)
聞いたところでエレスは怒らないだろうし、きっと教えてくれるだろう。
だが、なぜかその想像からは目を背けたかった。
「確かに人間の手工は好ましいが、どんな装飾もリリアの輝きの前に劣る」
「そ、そう……」
装身具がある方が好み、と言われても先立つものがないのでどうしようもないのだが、思わぬ甘いセリフに赤面してしまう。
「いや、しかし」
「どうしたの?」
「乙女を飾る装具なら、リリアのその美しさに刺激されてさらに美しくあろうとするかもしれないな」
「も、もういいわよ!」
昨日から主にブライアンと話していたから、うっかりしていた。
エレスが褒める時は容赦がないし、本気で言っているのだ。
免疫のないリリアはどうしたらいいのか毎回分からなくなってしまう。
赤くなった顔をレースが隠してくれて良かった、と思う。
(でも買い出し用に帽子や目隠しはあった方が良いかもしれないわね)
小屋では髪も目も意識せずに過ごしていた。
それはたまらなく自由で楽しいが、村への買い出しとなると隠した方が何事も円滑に進むのだと知った。
今日はお祭りだから誰も気にしていないようだが、日常で髪と目を隠した少女が村に現れれば流石にリリアと分かるだろう。
ただし、他の村や町へ行くのであればその限りではなさそうだ。
皮膚患いだと言い張って頭部を隠せば、あの森で穏やかに暮らし続けられるかもしれない。
(だとすれば今日中に帽子を買わなければならないわね)
リリアの裁縫の腕では、髪を隠すような帽子は作れない。
だが別日に村を訪れてブライアンに頼むわけにもいかないだろう。
先に帽子を買い、残ったお金で調味料を買わなければ後々困る。
リリアはエレスにだけ聞こえるように小声で話しかける。
「エレス、帽子を見にいかない?」
厳密には精霊は服を着ていないらしいが、エレスはきっとどんな帽子も似合うだろう。
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