「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

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一方のキャロルはリリアと別れた後、大声でがむしゃらに村中に伝えまくっていた。

「無加護がいるわ! あいつは村に災いをもたらす悪魔の生まれ変わりよ!」

(もうどうだっていい! あの無加護が消えるならなんだっていい! 私がブライアンの乙女じゃないなら花精霊祭もなにもかも全部めちゃくちゃにしてやる!)

リリアは花冠を受け取らなかったと言った。
つまり差し出されたのだ。ブライアンから、花乙女の証を!

花精霊祭ではフィナーレに精霊王役が乙女を選んで花冠を授ける。
選ばれた乙女がそれを受け取り二人が誓いの口づけをすれば花乙女となり、その年の精霊王と花乙女が決まる。
そうして二人で精霊への感謝や豊穣を祈り、祭は終わるのだ。

いつからかは分からないが精霊王役は壇上から乙女を選び、二人でステージの上でキスをするのが通例となっている。
白い花々と皆に祝福されキスをする精霊王と花乙女は幼い頃からキャロルの憧れだった。

今年はずっと大好きだったブライアンが精霊王だ。
ブライアンはモテるが、実はキャロル以外に親しい女の子もいない。
たまにうっとおしがられる事もあったが、リリアのように石を投げられたりはしなかった。

ピンク色のドレスを作っているのは知っていたし、それがキャロルのものでないと分かってもきっと仕事用のものなのだと、まだ余裕を感じていたのだ。

(ブライアンはステージの上から私を見つけてくれる。最前列にいなくても、私を花乙女に選んでくれるはずだったのに)

むしろステージから遠くにいた方が皆の前を通る時に見せつけられると思っていたくらいだ。

「花冠……そうよ。リリアが受け取らなかったならブライアンがまだ持ってるはず」

一度差し出した花冠が拒否されれば、他の女の子が選ばれるらしい。
実際にそんな事があったというのは聞いたことがないが、花精霊祭では精霊王と花乙女が揃って祝福する事が大切なのだ。
だが自尊心の強いブライアンの性格的に、今年の花精霊祭で拒否された花冠を使うだろうか。

(小さい女の子や年寄りに渡して誤魔化す気がする)

年頃男の子が気恥ずかしがって同世代の女の子に花冠を渡さずお茶を濁す事はままあった。
ブライアンはそういうタイプではない。
しかしリリアに断られた事を自分の中で納得させるために、そして万が一にもまた断られないように安全な方法を取るだろうとキャロルは考えた。

何より、ずっと見下してきたリリアがいらないと言ったものを受け取るのはキャロルのプライドが許さなかった。
ここ数日でブライアンの心境に変化があった事など、キャロルには知る由もない。

外が騒がしくなっても、精霊王の役を持つブライアンは舞台裏で待つことしかできない。
その代わり周囲にいる花精霊祭の実行組合員が様子を見に出払っているはずだ。

「チャンスだわ」

リリアはまだ見つかっていないのだろう。
普段から人目を避けて移動していたからなのか隠れるのがやたらと上手く、村中を攪乱しているようだ。
キャロルやブライアンならリリアの居そうな場所は大体分かるのだが、普段から遠巻きにしていた村の大人達には分からないらしい。


「今のうちに私が花冠を『奪う』のよ」

お情けで花冠を貰うのではない。
自分が花乙女だと主張するわけでもない。
ただ、花冠がなくなった事を無加護のせいにすれば、ブライアンとリリアへの意趣返しくらいにはなるだろう。
そして後でてきとうに村長の所にでも持っていけば村の宝物を見つけた功労者として大人たちから感謝される。
今のキャロルは自分の事を馬鹿にした報いを受けさせなければ気が済まなかった。


舞台裏は案の定人気が無く静かだった。
精霊王役と言ってもやる事は花精霊祭のクライマックスに衣装を着替えて花乙女を選ぶだけだ。
ブライアンがいつも使っている鞄は、色んな人の鞄と一緒にその辺にまとめて置いてあった。
軽く探るだけで金属でできた繊細な花の冠を手に取る事が出来る。

「ふん。私をコケにした事、後悔してもらうんだからね」

キャロルはそのまま花冠を自分の鞄に隠し、舞台裏を後にした。
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